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第118話 【コロッケ】




 汚れた魔物から奪還したゴブリンの集落で、汚れた魔物駆除作戦に参加したグリフォン、ダイアウルフ、ジズ、ゴブリンは休息を取っていました。激しい戦いだったのでしょう、深手を負った魔物や毒を受けた魔物もおり、苦戦を強いられた様子が伺えます。


“ヒール”


 そんな傷ついた魔物たちに回復魔法をかけて癒す咲楽。怪我も毒も女神様の力があればすぐ完治です。


「ふう…これで全員ですね」


「お疲れ、サクラ」


 怪我を負った魔物の回復を終えた咲楽をノームが労います。


「グルル…」

「キィ…」

「グ…」


 回復してもらった魔物たちは、不思議なものを見る目で咲楽の挙動を観察していました。

 女神様の存在は魔物にとっても偉大ですが、人間や精霊と違い信仰したり祈ることもしません。そんな女神様の加護を受けた異世界人の存在はまったくの未知、どう受け入れればいいのか分からないのです。


「さて、次は空腹の回復です」


「まだ何かするの?」


「お腹を空かせていると思って、食べ物を用意してきたんです。私の魔法では疲労や空腹は回復できませんから」


 咲楽はグリフォンに運んでもらった大鍋の蓋を開けます。





 時は拠点での出来事まで遡り…

 咲楽は戦いで疲れた魔物たちの英気を養うため、美味しい料理を用意することにしました。


――――――――――――――――――――

 ~コロッケ~


 ①プレザントにある“ツチイモ”と呼ばれる、地球のじゃがいものようなイモを食べやすいサイズに切って茹でます。茹で終わったイモをマッシュして、塩、クオウの粉、牛乳を加えて混ぜればタネの完成。


 ②地球から持ち込んだ油とハルカナ産の獣油を1対1で混ぜ合わせて加熱。小麦粉を溶かした水に丸めたタネを潜らせ、パン粉を付けて油で揚げていきます。


 ③そのまま食べても美味しいですが、ソースとして地球から持ってきた中濃ソースとケチャップの二種類を用意しました。

――――――――――――――――――――


 食材のメインは倉庫に大量の在庫があるハルカナ産のツチイモを選択。

 凝った料理よりも量を優先、栄養豊富な炭水化物であるイモはボリュームも満点。鳥や狼と様々な種族が集まる魔物同盟なので、どの魔物でも抵抗なく食べられるイモが最適です。


「サクラお姉ちゃん、パン粉とイモの下処理できたよ」


「おお、早いですね」


「雑用には慣れてるから!」


 アクリは短剣を器用に使い、目にも留まらぬ速さでパンを粉砕し、イモを切り分けていきます。


「キユハちゃん、保温効果のある火の精霊石とか作れます?」


「無論、余裕」


 キユハは料理を入れる大きな鍋の中に小さな精霊石を放り込みました。たったこれだけで温かい料理を保つことが出来るのですから魔法は便利です。


「どんどん揚げていくので、二人も適当に食べちゃってください」


 下ごしらえを終えたタネを次々と油で揚げていく咲楽。手の空いたキユハとアクリは、完成したコロッケを頂きます。


「…熱い」


「あついけど、おいひい…!」


 ホクホクのコロッケを美味しそうに頬張る二人。

 プレザントの食材メインで作ったシンプルな料理ですが、プレザントにはない調理法と一手間を加えるだけで美味しい料理に様変わりです。


「それにしても…こんな大量に作ってどうするの?」


 次々と揚げられていくコロッケの山を見て不可解に思うキユハ。どう見ても三人で食べきれる量ではありません。


「お腹を空かせた魔物にご馳走したいんです」


「魔物に…?」


 そうなった経緯を事細かく説明してほしいキユハでしたが、咲楽は料理に集中しているので今は聞かないことにしました。





 蓋を開けた鍋の中には、大量のコロッケが詰まっていました。


「魔物の口に合えばいいんですが…どうぞ食べてください」


 キユハの精霊石のおかげで保温された料理は熱々のまま。プレザント産の馴染み深いイモとクオウの実の香りが、戦いで疲れた魔物たちの食欲を刺激します。


「…」


 魔物たちは鼻を鳴らしながら、ほかほかのコロッケを口に運びました。


「…!」


 一口食べれば、そこからは早いものです。

 空腹だった魔物たちは一心不乱になってコロッケを頬張り続けます。プレザント人よりも料理の概念がない魔物たちなので、咲楽の手料理の衝撃は一入でした。


「ノームくんも食べてみてください」


「う、うん…」


 ノームもコロッケを手に取り一口。


「……旨い」


「ノームくん、前は無理言ってごめんなさい」


「え?」


 徐に頭を下げる咲楽。


「ノームくんも精霊としての立場があって、いろいろ苦労してるんですよね」


「…」


「これからは許される範囲で魔物のみんなを支援します。こうやって傷を回復したり料理を振舞ったり…それくらいなら許してくれますかね?」


 懸命な咲楽の姿を見て、ノームは観念したように表情を緩めます。


「わかった…ありがとう、サクラ」


 お礼を言いつつノームは二つ目のコロッケに手を伸ばそうとしましたが…


「グル…!」

「キィ…!」

「ググ…!」


 料理は既に魔物たちが平らげていました。


「あ、もうなくなってる!僕まだ一個しか食べてないのに…!」


「あはは。魔物たちのお口に合ったようで良かった」


 大きなことを成し遂げ美味しい料理を囲い、魔物たちの間に穏やかな空気が流れます。魔物同盟の初陣は無事完勝となりました。

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