第115話 【ゴブリンと話し合い】
新たな土地で集落を作っていたゴブリン。
そんなゴブリンの集落に突如として降り立った大型の魔物、グリフォンのクロウ。
ゴブリンたちは慌てふためいていました。
グリフォンはいくらゴブリンが束になって挑んでも敵わない格上の生物。対峙しただけでも思い知らされてしまうのです。自分が弱肉強食の弱者であり、相手が強者であることを。
「よっと」
するとグリフォンの背後から人間の少年が現れます。
いえ、人間ではありません。
魔物なら一目瞭然。
その只ならぬオーラは隣にいるグリフォンを遥かに凌駕していました。それが偉大なる四大精霊の一柱、土の精霊ノームであると直感で断定できます。
グリフォンとノームが揃ってゴブリン風情に何の用だ?ゴブリンたちは戦々恐々といった様子です。
「はぁ…空飛ぶの怖い。ヘアゴムがどこかに飛んでっちゃった」
そうかと思えば、今度は間違いなく人間の少女がグリフォンの背後から現れます。
人間、精霊、魔物。
この異様な組み合わせに、ゴブリンたちの謎は深まるばかりでした。
※
咲楽はボサボサになった髪を手櫛で整えながら、初めて見るゴブリンを観察します。
「想像してたよりもちっちゃくて可愛いですね、ゴブリン。森の妖精感があります」
様々なファンタジー小説に登場するゴブリン。
咲楽が言う通りこの世界のゴブリンは人間よりも小柄で細身、人を襲うような獰猛さはありません。グリフォンの出現に怯え、さらに弱々しく見えました。
「怯えてますね」
「そりゃ僕とグリフォンが揃って来れば面食らうよ」
「じゃあノームくん、事情を説明してあげてください」
「はいはい」
咲楽に言われ、ノームはゴブリンに用件を伝えに行きます。
………
……
…
話し合うこと数分。
咲楽はクロウと毛づくろいをしながら時間を潰していると、ノームが咲楽の元に戻って来ました。
「サクラ、要件は伝えたよ」
「移動できそうでした?」
「うーん…結論を言うと、ゴブリンには移動しようにも居場所がないんだ」
「え?」
「汚れた魔物に住処を追われたんだって」
「…」
再び現れた汚れた魔物の問題。ゴブリンの住処を害し、汚れた同胞を集め縄張りを拡大させているようです。
「またですか…こうなる気はしてたんですよね」
腕を組んで唸る咲楽。何度もトラブルを経験してきたので、経験則でトラブルが発生することを予感していました。
「汚れた魔物の襲来で集落は占領され、ゴブリンの数も壊滅寸前の状態。この地を追われるとなると、もうこの周辺で水や食料を確保できる土地がないんだ。もっと遠くへ大移動しようにもゴブリンたちは衰弱してて厳しい状況みたい」
ノームはゴブリンの事情を咲楽に伝えました。
まさに絶体絶命の状況です。
「ゴブリンは私が治療します、疲労回復は気休めくらいにしかなりませんが。それと別の拠点へ移動するなら、クロウさんたちに協力をお願いして乗せてもらうなんてどうですか?」
ゴブリンの今後について咲楽は意見を提示します。
「それも手だけど…僕としては汚れた魔物の方を早めに退場させたいんだ」
「…つまり?」
「奴らを駆除する」
ノームの言葉で息を呑む咲楽。
これは魔物同盟結成以来、初の戦闘になります。
※
こうして急遽始まった汚れた魔物掃討作戦会議。
咲楽、ノーム、クロウ、そしてゴブリンのリーダーが輪になって話し合いを始めました。
「サクラ、その騎士団の討伐作戦はいつ始まるの?」
「えっと…あっちで二日滞在したから、三日後です」
「三日かぁ」
困ったように唸るノーム。
「人間が来る前に事を済ませたい。そうなると作戦決行は二日後…でも空を飛べるグリフォンならともかく、鈍重なベヒモスの参戦は間に合わないかな…」
「………」
咲楽は後悔していました。
もっと早くゴブリンの件をノームに話すべきだったのです。この件はゴブリンと対話をすれば解決すると、甘く見積もっていたことが失敗でした。
“我々九人はサクラを中心に集まったんですよ。その中心人物なら、物事の優先順位くらい見極められるようになってほしいですね~”
いつか言っていたクスタの言葉が咲楽の脳裏を過ります。
「…どうせ私はへっぽこですよだ」
「急にどうしたの?」
「いえ、何でもないです」
いつまでも後悔している場合ではありません、咲楽は気を取り直して戦力を確認します。
「汚れた魔物の数はどれくらいですか?」
「ゴブリンの情報と僕が感知した感覚では、約ニ十体くらい」
「多いですね…」
「対してこちらの戦力はゴブリンとグリフォンだけ……厳しいな」
数ではこちらが圧倒的に不利、厳しい戦いになることが予想されます。
「仕方ない、僕も参戦して…」
そうノームが言いかけた時、咲楽はあるものを視界に捉えます。
「…ノームくん」
「ん?」
「あの…大きな狼がこっちを見てるんですが」
咲楽が指さす先では、遠目からでもわかるくらいの巨大な狼がこちらの様子を伺っていました。
「ククッ…」
「クロウさん?」
クロウは唸りながら咲楽に頬をくっつけ、空を見上げるよう意思を伝えてきます。空には七色の翼をもつ怪鳥が咲楽の周囲を旋回していました。
「狼種のダイアウルフに、鳥種のジズだね。この近辺の主だよ」
「南の主ですか…どうしてこっちを睨んでるんですかね?」
「…どうやら、僕に話したいことがあるみたい」
二体の魔物の様子を見て何かを悟るノーム。
その二体からは敵意を感じられず、何かしらのコンタクトを取りたい意思が感じられました。
「それって…まさか」
咲楽もこの状況に既視感を覚えます。
汚れた魔物が現れ、周辺に住まう魔物が迷惑を被り、大型の魔物が対処に困っている。この流れは東での出来事とまったく同じです。