第11話 【記憶封印解除(リア)】
ハルカナ王国。
それが咲楽が異世界転移して最初に辿り着いた街の名前です。ハルカナは土地に恵まれており、自然が豊かで物資も豊富。プレザントで最も栄えた国です。
戦時中は他国を攻めず守りに徹していました。
攻めない姿勢から敵国からは臆病者の弱国だと罵られていましたが、真実は逆です。王国は防壁に囲まれており、環境や自然を利用した防衛力は凄まじいものです。物資も豊富なので持久戦になればハルカナが有利、まさに難攻不落の王国でした。
そんなハルカナ戦力の要となる組織、ハルカナ士官学校。
騎士育成機関と魔法研究会が合併された組織で、校長はハルカナ国王が勤めています。教師は歴戦の強者ばかりで、そんな教師から指導を受けた生徒は優秀な兵士へと育て上げられます。
「はぁ…」
ハルカナ士官学校の騎士団長、リア・アルフォスは執務室でため息を漏らしていました。
団長とは思えないほど若々しく、容姿は誰もが認める美少年。憎食みから世界を救った九人の英雄の一人で、戦場に出る彼の装備は剣のみと軽装備。防具を捨てた代償に得た敏捷性は、生物の限界を超えるほどです。最速の騎士として“ハルカナの神速”と称され、各国でその名を轟かせていました。
「リアさん、どうかされました?」
元気のないリアを心配する女性は、秘書のエッドです。
「ああ………俺ってさ、八人の英雄だよね」
「またその話ですか?間違いなく八人ですよ。数え間違える訳ありません」
「そうだよね…」
する必要のない問答に呆れるエッド。
憎食みを討伐し歴史に名を残したプレザントの大英雄、そんな英雄の人数を数え間違えるなどありえないことです。
しかし、最近になってリアはこのことに違和感を覚えていました。
(なんだろう…この違和感は)
リアは手元の資料に目を通していますが、頭の中は別のことでいっぱいです。
「今日はもう休んでいいですよ」
そんなリアの様子を見かねたエッドが気を遣います。
「え?でも…」
「雑務は急ぎではありません、ゆっくり休んで考えをまとめてみたらどうです?」
「…」
リアはエッドの言葉に甘え、自室に戻ることにしました。
※
リアは自室に戻りベッドの上で横になります。
(…俺は元々、世界一臆病な騎士だった)
リアはふと過去の自分を振り返りました。
自分の身を守ることばかり考えて、強固な鎧を纏わなければ夜も眠れないほど臆病だったリア。そんな自分がどうしてまともな装備もせず、剣一本で憎断ち戦争を戦い抜いたのか。
(わからない…何故か答えが出ない。何かあったはずなのに、俺はそのきっかけが思い出せないんだ)
いくら思い出そうとしても、記憶に空いた穴が満たされることはありません。
そうやって悩んでいるうちにリアは眠りにつきます。
(また…過去の夢か)
重たい鎧を纏いノシノシと歩く、亀のような自分の後ろ姿。
それはとても惨めなものでした。
「■■■」
そんなリアに、誰かが声をかけてくれました。
(…そうだ、この声だ。この暖かい声が俺を支えてくれてたんだ)
「■■■」
(思い出したい、また聞きたい…あの声を)
「大丈夫!」
(………)
「リアくんと一緒なら大丈夫です!だってリアくんは最強の騎士なんですから!」
その少女は華やかな笑顔で、自信のないリアを奮い立たせてくれました。
(俺は馬鹿だ…どうして、どうしてサクラのことを忘れることが出来たんだ?)