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第104話 【グランタートル】 □




 ゴーレムに乗って移動すること約一時間。ハルカナ王国西方、最後の城門に到着した咲楽一行。


「ここを通りたいのですが、手続きは必要ですか?」


 咲楽はゴーレムの上から門番の騎士に尋ねます。


「い、いえ!キユハ様御一行ですね。騎士隊長からご報告は承っております……良い旅を」


 門番は家を背負った巨大なゴーレムと少女三人の通過を、若干引きつつ見送ってくれました。


「ふぅ…ようやくハルカナ王国の外に出れた」


 城門を抜け、アクリは一息ついて大きく伸びをします。


「王様によると、私たちにくれる建物は西門を出てすぐ近くにあるらしいのですが…」


 ゴーレムの上から辺りを見回す咲楽。

 見渡す限りの平原に青い空。そんな大地に人が作った建造物があれば、嫌でも目に付くでしょう。


「…あの建物じゃない?」


 目立つ建物を発見したキユハが指を差します。


「確認してきますね」


 咲楽が一足早くゴーレムから降りて建物に向かいます。その建物の扉には、文字が書かれた一枚の紙が貼られていました。


「これ、なんて書いてあります?」


 文字が読めないので、咲楽は紙を剥がしてキユハに見せます。


「サクラへのはなむけ…だって」


「じゃあこれが、王様が用意してくれた私たちの拠点ですか」


 国王が移動拠点に使えると咲楽たちに譲渡してくれた、元は戦争の駐屯地として建てられた建物。それはとても立派な木造建築でした。

 咲楽は建物と、周囲の物を確認します。


「幅はそんなに取らない、縦長の建物ですね。隣の倉庫には食材や道具がいっぱい。野外用の台所に石窯まである……流石は王様、用意周到です」


 国王は咲楽のために大幅改良を施したのでしょう。一級の宿屋と呼んでも差し支えないほどの充実ぶりです。


「建物の中も探索したいところですが…まずノームくんを呼びましょうか」


 問題はこの建物や研究所が、移動に使う魔物“グランタートル”の背中に収まりきるのかどうかです。


「ノームくーん」


 咲楽は杖にセットされた土の精霊石に声をかけます。


 ………ポン


 咲楽の呼びかけに偉大なる四大精霊の一柱、土の精霊ノームが人の姿でポンと登場。ノームは眠たげな表情で、咲楽から貰った寝袋を装備したままフヨフヨと宙に浮かんでいました。


「待ってたよ、サク…」


「…」


 呑気に登場したノームですが、キユハと目が合い絶句します。

 今回は国外ということもあって油断していたのでしょう、ノームは大慌てで現界を解いて消えようとしました。


“止まれ”


 そんなノームの逃走をキユハの一言が遮ります。

 ノームはまるで金縛りにでもあったかのように地面へ墜落。消えようとしたノームの存在は、この世界に無理矢理固着されたのです。


「侮蔑…どこに行くつもりだよ」


 不服そうにノームを見下すキユハ。


「サクラー!助けてー!」


 精霊ノームは地面に這いずりながらみっともなく咲楽に救いを求めます。


「ちょってキユハちゃん、何してるんですか!」


「だって逃げようとしたから…」


「だからって拘束することないでしょう!」


 仕方なく仲裁に入る咲楽。

 キユハと精霊の上下関係はハッキリしています。魔力を手足のように操るキユハにとって、魔力で現界する精霊を操ることは容易。現界してしまえばもうキユハの思うがままなのです。


「ノームくんも、逃げなくても大丈夫ですよ。キユハちゃんは何もしないので」


「いきなり拘束されてるんだけど…」


「キユハちゃん、解いてあげてください」


「はいはい…」


 キユハは意識を逸らし、ノームの縛りを解いてあげました。


「はぁ…やっぱりこいつ苦手」


 そう言いつつ咲楽の背中に隠れるノーム。

 偉大なる精霊もキユハの前では形無しです。


「あの人、あの時の……ノーム…?」


 その様子を遠巻きから観察するアクリ。

 ノームとはこれで二度目の対面になりますが、アクリは精霊の正体を知らないので何も理解できていません。


「それでノームくん。早速お願いしたいのですが、これらの建物は…そのグランタートルに乗せられますか?」


「…うん、大丈夫。もっと大きくても良かったのに」


 ノームは咲楽から距離を置き、一本の木が生っている平原まで移動しました。


「おーい、出番だよ」


 ………


 ……


 …


 ゴゴゴ


 ノームの言葉に反応し、木の周辺の地面が盛り上がます。膨らんだ大地から四本の足が伸び、最後に尾と頭がむくりと起き上がりました。


 グランタートル。

 ノームの話した通り、それは大地の甲羅を背負う巨大な亀でした。


「大きい…」


 大きなグランタートルを見上げる咲楽。

 ツチノコ状態のノームほどではありませんが、これだけ大きければ用意した建物と研究所は余裕で載せられるでしょう。


「さあさあ、甲羅に好きなだけ物を載せていいよ」


 ノームの合図で、拠点作りの開始です。





 キユハのゴーレムを利用して、グランタートルの背中に用意した物を全て載せていきます。

 駐屯地の建物は宿として利用し、その宿は尻尾側に設置。隣には倉庫、裏にはキユハの研究所を並べました。これだけ載せても甲羅の大地には六割ほど余裕があります。


 宿から出て左側に野外用の台所と石窯を設置し、右側には何も置かず視界を広くします。正面には掲示板代わりのボードを立て、机と椅子を並べ集会場のようなスペースを作りました。


「いい拠点になりましたね」


 完成した拠点を見回した咲楽は、グランタートルの顔を覗きにいきます。


「これからよろしくお願いします。えっと……ノームくん、このグランタートルの名前ってなんです?」


「魔物に名前はないよー」


「あ、そうだった…」


 名前がないと聞いてしばらく思案する咲楽。


「じゃあグラタンと名付けましょう。よろしく、グラタンくん」


 咲楽はさらっとグランタートルに命名します。その時、咲楽の手の甲に刻まれた女神の証が発光しましたが、咲楽は気付いていません。


 グランタートルは心なしか嬉しそうな笑みを浮かべていました。


「また気軽に……まいっか」


 ノームは呆れつつ、魔物と仲良くする咲楽の姿を呑気に眺めます。




挿絵(By みてみん)

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