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第102話 【新しい仲間と共に】




 出発の日の朝。


 咲楽は宿屋の自室で旅の準備をします。

 地球に冒険用衣服を置いて来たままなので、装備は平民衣装のままです。他の旅に必要な物資は国王が準備してくれた拠点にまとめられているので、手持ちの荷物は少なめです。


 お世話になった人への挨拶は昨日のうちに済ませてあるので、後は寄り道せず宿屋の入口でキユハと合流しアクリとの待ち合わせ場所である東門に向かうだけです。


「よし、準備完了ですね」


 旅支度を終え長く泊まっていた部屋を後にしようとした、その時。


 コンコン


 扉をノックする音。

 咲楽は不思議に思いつつ、扉を開けます。


「リアくん?」


 訪ねてきたのはリアでした。


「どうかしました?」


「ああ、その……」


「?」


 リアの挙動不審な様子を見て首を傾げる咲楽。


「えっと………サクラ。ソエルに向かう道中、南の森近くには気を付けて」


「え?」


「南東付近で下級の魔物、ゴブリンの巣が目撃されたらしい。五日後には騎士団で討伐作戦が決行される予定だから」


 リアはこれから旅立つ咲楽の身を案じていました。しかし、その情報は咲楽にとって違う意味で聞きずてならない内容です。


「…それって汚れた魔物ですか?」


「いや、普通のゴブリンだ」


「だったら討伐しなくても大丈夫じゃないですか?」


「そうはいかないよ、近くの村に被害が及ぶかもしれないし」


「その~…うーん」


 魔物同盟の件を隠しながらゴブリン討伐を諦めさせようとする咲楽。

 咲楽には魔物と対話する術があります。無益な殺生を避けつつ、剰えゴブリンを魔物同盟に加入させることも可能かもしれません。


「特定の魔物と仲良くするのは構わないけど、サクラは人として人間の営みを第一に考えてね」


 リアの意見は至極ごもっともでした。


「………わかりました」


 咲楽は説得を諦めます。

 諦めるといっても、ゴブリンの命運を諦めたわけではありません。自分がゴブリンに退いてもらうよう交渉する方が賢明だと思ったからです。


「情報ありがとう、リアくん」


「…サクラ」


「はい?」


 膝をついて目線を咲楽に合わせるリア。


「怪我には気を付けて」


 リアは咲楽の手を優しく握りました。

 本当は咲楽の旅に同行したくて仕方がないのでしょう。そんなリアの気持ちは、咲楽でもうっすらと感じています。


「はい!またハルカナに戻ってきますので、リアくんも団長がんばってください」


 リアを安心させるため再会の約束と共に、咲楽は満開の笑みを浮かべました。


「…」


 そんな笑顔もしばらく見られなくなるので、名残惜しい気持ちが募る一方のリアなのでした。





 ハルカナ王国の居住区と産業区を分かつ城壁の東門。そこに咲楽、キユハ、アクリの三人が揃いました。


「アクリちゃん、準備はいいですか?」


「うん…!」


 アクリは緊張した面持ちで答えます。

 これから自分はハルカナ王国の外、未知の世界に旅立とうとしているのです。湧き上がる高揚感を抑えるのに必死の状態でした。


「…この小娘を見てると既視感があるな」


 キユハはいつも通りのテンションで呟きます。

 それを聞いてくすりと笑う咲楽。


「似てますよね、昔のリアくんに」


「類似、世界を一周する頃には二人目のリアになってるかもな」


「成長が楽しみですね~」


 二人は軽口を交わしてから、咲楽がコホンと咳払いします。


「そろそろ出発しましょう。まずは東にあるキユハちゃんの研究所を回収してから、西で待機しているグランタートルの背中に家を載せて拠点作りです」


 本日の予定を確認する咲楽。


「今回は前と比べて大きな使命もありませんし、のんびりいきましょう」


 この旅での表向の目的は、仲間に咲楽の帰還を知らせつつ平和になったプレザントを観光することです。


 裏向きでは、新種の憎食みやら、各国の問題やら、汚れた魔物やら、魔物同盟やら、解決しなければならない問題は山住です。


 ですが焦ってはいけません。

 旅を楽しむことも、国おこし作戦には必要なことなのです。


「それでは、出発です!」


「はい!」


「んー…」


 こうして咲楽、アクリ、キユハの新たな旅が始まりました。

 目指すは南の果、ギルドの街ソエルです。

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