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第98話 【咲楽の今後の旅について】




 咲楽は宿屋の自室で一人になります。


「ノームくん、一人になりましたよ~」


 咲楽が声をかけますが、ノームは返事をしません。


「ノームくん?」


『…本当に一人?』


「一人ですよ」


『…』


 しばらくして、ノームは人の姿で現界しました。


「…」


 過敏に周囲を警戒するノーム。

 咲楽から貰ったお気に入りの寝袋も脱いで、何時でも素早く動ける姿勢をとっています。


「…そんなに怖がらなくても大丈夫ですから。もうキユハちゃんは精霊をいじめたりしません」


 ノームが警戒しているのは、キユハの存在です。

 キユハと四大精霊は世界を救う旅の中で深い因縁を残しています。因縁といっても、精霊が一方的にキユハへ抱いているだけなのですが。


「そうは言うけど…あいつは精霊の天敵だ。精霊と魔力の真理について知りすぎてる」


「私がキユハちゃんに無茶させませんから」


「うー………じゃあ話すね」


 咲楽が説得しても落ち着きのない様子のノーム。

 しかし現界状態でまごついていてもキユハと遭遇する可能性が長引くだけ、ノームは意を決して話を始めます。


「サクラはいつ街を出るの?」


「えっと、明日か明後日に」


「なら護衛の件でサクラに提案があるんだ」


「護衛ですか…」


 今後の咲楽の旅について。

 これから咲楽は新種の憎食みや、汚れた魔物が現れるかもしれない平原を歩くことになります。これまでの道中では、土の精霊ノームが護衛を担当してくれていました。


「僕も多忙だから、これからも付きっきりでサクラの護衛を務めるのは難しい。だからサクラの護衛獣として、僕のしもべであるグランタートルを使って欲しいんだ」


「グランタートル?」


「大きい亀の魔物だよ。強くはないけど丈夫で警戒心がすごく強いんだ。甲羅の上は平らな大地になってるから、ちっちゃい家でも乗っけてのんびり世界を回るといいよ」


「…」


 思わぬ提案を聞き、咲楽は想像力を膨らませます。


(大きい亀……背中に家とかを乗せられる……つまり移動拠点のような形になる?だとすれば旅での危険がかなり減りますね。それに移動しながら予定を立てたり、料理の勉強とかもできる…!)


 家を背に載せた亀の移動拠点。

 それはどう考えても咲楽の旅に有益なものです。


「グランタートルは敵意を感じると体を震わせるから、汚れた魔物みたいな外敵も感知できる。その時に手の空いてる四大精霊を呼び出して脅威を取り除けばいい。グランタートルは魔法で生み出すゴーレムよりも利点が多いよ」


「でも、いいんですか?そのグランタートルは背中に私を乗っけて長旅なんて」


「大丈夫、僕以上にのんびり屋で温厚な奴だから。むしろ女神様の証を持つ人間の護衛なんて光栄に思うよ」


「そうですか…ではお言葉に甘えましょう」


 護衛獣がいるだけで旅先での不安は大分減ります。


「もうグランタートルとの話はついてるから、西の付近に待機させとくよ」


「ありがとうございます!」


 快適な旅を想像して気持ちを昂らせる咲楽。

 ですがまだ、大きな課題が残っています。


「それと……魔物同盟の件で進展があったよ」


「…!」


 ノームが次に話すのは、日々繁殖を続ける汚れた魔物に対抗した魔物同盟についてです。





「まず良い報せと悪い報せ、どっちから聞きたい?」


「どっちもあるんですね…じゃあ良い報せから」


 咲楽は気を引き締めてノームの報告を待ちます。


「わかった……まずグリフォンとベヒモスの同盟、これを“東の同盟”とするね」


「なんだか本格的ですね」


 咲楽が孤児院からハルカナ王国に向かうまでの道中で結成された最初の同盟。“東の同盟”が魔物同盟の始まりになります。


「その東の同盟に、新たにコボルトが加わった」


「コボ…」


 コボルトと聞いて、過去のトラウマを思い出す咲楽。

 未知の異世界プレザントに迷い込んだ咲楽を追いかけ回した魔物、その出来事は咲楽にとって忘れられないトラウマとなりました。


 なので咲楽は犬全般が苦手です。


「力はないけど手先が器用だから拠点作りに役立ってくれてる。人間ほどではないけど、それなりに形になってきてるよ」


「そ、そうですか…」


「……どうかした?」


「いえ、何でもないです」


 咲楽は犬に対する恐怖心を抑え込みます。個人的な感情で同盟の魔物に文句を言う訳にはいきません。


「あれ?でも通訳が必要の時は、私が精霊を呼び出すって話でしたよね?」


 どうやってコボルトと交渉したのか、咲楽は疑問に思います。

 魔物同士では鳴き声が違うので言葉が通じません。言葉を介して同盟を結ぶには精霊の仲介が必要、そして精霊が現界するには膨大な魔力を消費します。その魔力を節約するため咲楽がもつ神力を利用する…そういう話だったはずです。


「ここからが悪い報せ……魔物同盟の件、他の精霊にも話したんだ。魔物同盟はみんな賛成してくれたんだけど、サクラからの支援に対してウンディーネが猛反対してるんだ」


「え、なんでです?」


「これ以上、サクラに危険な使命は課すのは酷だって」


 水の精霊ウンディーネ。

 精霊の中でも真面目で実直。異世界人であり女神様の使者である咲楽が、精霊の問題に関与することを反対しているようです。


「コボルトとの通訳、同盟拠点の計画はウンディーネが自分の魔力で現界して済ませたんだ。でもそのせいで、ウンディーネが担当している西でトラブルが起きてる」


「トラブル…」


「詳細は言えないけど、ちょっと心配だな。魔力の自然回復も日に日に遅れてるし…」


「………」


 咲楽は今後を見据えつつ現状を整理します。


「…西のトラブルは、まだ大事には至ってないんですよね?」


「うん、そこは信じて」


「しばらくしたら私がウンディーネさんに説得します。今説得しても、ウンディーネさんは意地を張ると思うので」


「同感」


「それとノームくんにはウンディーネさんに秘密で動いてもらう必要があります。もし私が使えると思う事態になったら、こっそり私を利用してください」


 魔物同盟には、やはり咲楽の存在は必要不可欠。

 神力による疑似魔力の供給と、精霊に指示を出せる女神の使者としての立場。これらを上手く活用しなければ同盟は効率的に機能しないでしょう。


「…ごめんねサクラ」


「え?」


「ウンディーネは猛反対してたけど、僕とシルフも反対気味なんだ。本来は僕ら精霊の役割なのに、全く関係ないサクラの手を煩わせるなんて…」


 ノームは気まずそうに髪を弄っています。

 ウンディーネを含め、精霊たちは咲楽の介入に対して自責の念に駆られているのでしょう。


「そこはお互い様じゃないですか、前の旅で精霊の皆さんは憎食み討伐に協力してくれました。それに私は女神様の権能を持つ中立の立場、人間も魔物も助けたいです」


 咲楽は穏やかな微笑みを浮かべて答えます。

 その笑顔に他意も迷いもありません。咲楽は純粋な気持ちで精霊や魔物の行く末を案じているのです。


「サクラは良い子だね…」


 ノームは咲楽の気持ちに感謝しつつ、前向きに承知しました。

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