第1話 【異世界プレザントの歴史】
田中咲楽は何処にでもいる普通の女の子でした。
咲楽はある日、女神様の救いを求める声を聞きます。その声に導かれ、咲楽は有無を言わせず異世界に飛ばされてしまったのです。滅亡の危機に瀕した異世界を救うため、咲楽は剣と魔法のファンタジー世界を大冒険することになりました。
そして咲楽は見事、異世界を救うことが出来たのです。
これから語られる物語は、咲楽が異世界を救い地球に帰ってから一年が経過した後のお話です。
しかし冒険の後日談を語るのに、異世界を救ったお話をしないわけにはいきません。なので、大まかな記録から語ることにします。
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異世界の名前はプレザント。
この世界の国々は四つの勢力に分かれ、土地や物資を巡り長年に亘り戦争を繰り返してきました。咲楽の使命は悪の魔王を倒すための冒険ではなく、この異世界で起きている人間同士の争いを止めることでした。
まず咲楽は様々な国を冒険し、各勢力を深く知るところから始めました。
無力な一般人の咲楽でしたが、女神様から女神の権能を頂き希少な魔法を使うことが出来ました。そして咲楽と女神様の意思と同じく、プレザントの終戦を願う人たちと出会い咲楽の助けになってくれたのです。中には咲楽を女神様の生まれ変わりと勘違いして祈る者までいました。
約一年の大冒険。咲楽の努力はとても小さいですが、プレザントにある人々の憎しみを和らげることが出来ていたのです。
そんな憎しみの浄化に、奴らが気付きました。
突如、プレザントの世界中から謎の黒い化け物が姿を現したのです。その黒い化け物は後に“憎食み”と呼ばれました。憎食みはその名の通り、人間の憎しみといった“負の感情”をエサに繁殖し力を蓄える化け物です。
女神様が最も恐れていたのは、戦争をエサに繁殖する憎食みの存在だったのです。咲楽の活躍で憎しみのエサが減り、世界の裏に隠れていた憎食みが咲楽を排除しようと姿を現したのです。
憎食みは獰猛で強大でした。
そんな化け物が世界中から湧き出れば、戦争どころではありません。
憎食みを絶滅させるべく、プレザントの四つの勢力は遺恨を残しながらも共闘することを承諾しました。人々は力を合わせて、憎食みとの全面戦争に挑んだのです。その戦争を人々は“憎断ち戦争”と呼び、プレザントの歴史に深く刻まれることなりました。
咲楽たちは勝利し、憎食みを絶滅させることが出来たのです。
中でも憎食みの親玉を倒した咲楽と八人の仲間たちは“九人の英雄”と呼ばれ、プレザントの人々から称えられました。憎食み討伐後、咲楽はプレザントの人々に訴えかけたのです。
「再び憎食みを産み出さないためにも、憎しみを生む戦争はやめましょう!」
咲楽が女神様の生まれ変わりであること、憎断ち戦争で活躍した戦果、各国で味方になってくれた仲間の声もあり、四つの勢力は咲楽の言葉に耳を傾けてくれました。こうして四大勢力の間で平和条約が結ばれ、長年に亘る戦争の歴史に終止符を打つことが出来たのです。
プレザントは救われ、役目を終えた咲楽は地球に帰るのことになります。咲楽が旅の中で出会った八人の仲間たちは、約一年足らずの関係でしたが深い絆で結ばれていました。
「皆さん、今までありがとうございました…」
咲楽にとって地球に帰れることは喜ばしいことですが、素直には喜べません。もう会えなくなる仲間たちとの別れは、とても辛いものだったからです。
“ハルカナ王国”の仲間、リアとキユハ。
「サクラのおかげでこの世界は救われた。俺もだ…サクラからもらった勇気が俺の中に残っている。キミのことは決して忘れない。元気で」
「………さよならは言わない、必ずチキュウに転移する魔法を発明して会いに行く。部屋を綺麗にして待ってなよ」
“ギルドの街ソエル”の仲間、ナキとクスタ。
「サクラはずっと私の家来だ!また遊びに来るのだぞ!?私にチキュウの献上品を用意して来るのだぞ!………ぐすん」
「俺の初めての友人が、もう二度と会えないと思うと悲しくなりますね~…ですが離れていても友人であることに変わりはありません。長生きしてくださいね」
“多種族の国セコイア”の仲間、ルルメメとエトワール。
「サクラ、サクラから教えてもらった歌、がんばって練習する。またサクラと歌いたい。またあえるよな?」
「貴女との冒険で私は自らの過ちに気付くことが出来ました。この恩は一生忘れません、どうかチキュウに帰ってもお元気で」
“帝都フリム”の仲間、オーガルとハクア。
「貴様には世話になった、この世界のゴタゴタに巻き込んですまなかった。だがこっちはもう大丈夫だ、安心して余生を過ごせ」
「本音を言えば、ずっと隣に居て欲しかった。先のことは不安だけど、いつも隣にサクラがいると思って頑張ってみる…今までありがとう」
仲間との別れを悲しみながらも、咲楽はプレザントを平和にして地球に帰ることが出来ました。
めでたしめでたし。
………
……
…
物語はここから始まりますよ。