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呪いの原因

いろいろと設定を見直していたら投稿が遅れてしまいました。

最後までご愛読していただけると嬉しいです。

また、ご意見ご感想等ございましたら、ぜひお書きください。

私自身の文章作成力が乏しいもので、読者様視点で何か不審に思う点がありましたら教えていただけると助かります。

「さっきはごめんな。あんなに怒鳴り散らして…」


キース先輩は私たちが到着して間もなく立ち上がって私に頭を下げた。

下を向いているその顔からは後悔と焦りの色が見えた。


「そんな!頭をあげて下さい!もとはといえば私がきちんと連絡をしなかったことが原因なんです。先輩たちに非はありませ…ん…」


自分で言いながら本当にその通りだと思った。それにしても、先ほどから意識が錯乱している気がする。まともに思考がまとまらない。体がふわふわと浮いている感じさえする。


「フローレンス?」


「フローレンスさん、どうかしましたか?」


だんだんと視界が狭まってくる。

耳もなんだか聞こえずらくなってきた。


「キース様!もしかするとこれは!!!」


ルールーが私を支えながらキース先輩に何かを必死に訴えている。


「なんだって?!」


ルールーの話を聞いた先輩たち二人の顔色が一瞬にして青ざめていく。

それを最後に私の意識はこと切れてしまった。

最後に脳裏に映ったのは、アナスタシア皇女が美しく微笑んでいる姿だった。




「…あれ、ここは?」


次に目を覚ましたのは空き部屋ではなく、ベットの上だった。


「っ!目が覚めたんですね?!」


私が何気なく言葉を発すると、隣にいる中性的な見た目をした女性がガバっと私の顔を覗き込んできた。少し視界はぼんやりとしていたが、私の顔を不安げに見つめる中性的な容姿が特徴的なこの人はまぎれもなくシリア先輩だ。


「え…シリア…先輩?ここは…私は…?」


「よかった…ここは医務室、貴方あの空き部屋で気絶したんです。誰かから呪われたりしませんでしたか?貴方の意識を乗っ取ろうとする呪いが貴方にかけられていました。ルールーさんが気づかなかったら今頃貴方は体の器を乗っ取られていたでしょう…。」


「ええ!?呪いですか…?」


「やはり心当たりはありませんか…。少し待っていてください、今ほかの肩を連れてくるので。詳しいことは私よりもキース様やルールーさんに聞いたほうがよいでしょう。」


そうして「少し待っていてくださいね」と穏やかな笑顔でわたしに言うとシリア先輩は少し早歩きで医務室を出て行った。


「私が…呪われていた…?」


考えただけでおぞけがする。確かに記憶に残っている最後の場面はなんだか意識がまとまらなかった。

あの謎の高揚感ももしかすると呪いが作用していた証なのだろうか。

だけど、誰かに杖を向けられた記憶がなかった…。誰が私に呪いをかけたのか、それがわからないのが一番怖かった。


「フローレンス!」


「お嬢様!」


しばらく時間がたつと、シリア先輩がキース先輩とルールーを連れて戻ってきた。

あまりに大きな声をだして二人が入ってきたので、医務室にいた治癒師さんにじろりとにらまれてしまった。


「二人とも声を抑えてください。ほかの患者さんのご迷惑になるので…」


私がそういうと二人は今気が付いたというような顔になって慌てて口を抑えた。


「ご、ごめんなフローレンス。つい気が動転しちまって…」


「申し訳ございませんお嬢様…」


「大丈夫です。わざわざ来てくださってありがとうございます。」


あまりにも申し訳なさそうにするので、つい気を使ってしまう。

私が大丈夫だというとキース先輩はその顔に明るさを取り戻した。


「お嬢様…この流れで急にお話を断ち切ってしまい大変申し訳ないのですが、シリア様からお嬢様の様態について、あらかたのご説明を受けたと思います。もう一度ご確認しますが、本当に呪術をかけられた心あたりはありませんか?」


ルールーは私の手を握りながら心配そうに聞いてきた。私を心配して早く犯人を捕まえたいと思ってくれていることは痛いほど伝わった。けれど、残念ながら犯人の特定につながるような心当たりは一つもなかった。一番怪しいと思われるアナスタシア皇女様も結局私に杖を向けていないのだから。


「ごめんね…わからないの…」


自分に起こったことなのに自分自身で解決できない歯がゆさに狂ってしまいそうだ。

入学初日からこんな調子で、先輩たちやルールーに助けられてばっかりでとても学院できちんと過ごすことはできそうになかった。おまけにアレンとアナスタシア皇女の件も解決していない、我慢していた気持ちが一気にこみあげてくる。


「お、おいフローレンス?!」


目の前でそばの椅子に腰かけていたキース先輩が急に慌てだした。近くにいたシリア先輩とルールーもひゅっと息をのんだ。


「ごめんなさい…ごめんなさい…私…みんなに迷惑ばかりかけて…ほんとに…」


「お、おいフローレンス!?さっきの件はもう本当に大丈夫だし、俺はフローレンスのサポーターなんだ、頼られるのが本望なんだよ。シリアだって同じだ。ルールーもお前の従者なんだろ?従者ならとことんこき使ってやれ…。だからさ…頼むから、泣くなよ…」


「え…?」


キース先輩が悲しそうに笑いながら私の頬に医務室のガーゼを押し付けた。

キース先輩に言われて初めて気が付いたけれど、今まで我慢できていたはずの涙が私の目からぼろぼろとこぼれていた。クリアになった思考で、私自身が無理をしていたことを悟った。


「あ…すみません。勝手に出てきちゃって…。」


「フローレンスさん…」


キース先輩だけではなく、シリア先輩やルールーそれに先ほどの件で不機嫌になっていた治癒師さんまで心配そうに私を見つめている。

辺りに再び重たい空気が流れた。


「フロー!大丈夫か!!!」


「お兄様!?」


みんなの視線が一斉に医務室の扉のほうへと集中する。そこには私の兄シオン・リルヴァインがいた。

お兄様はしばらく医務室を見回して、私がいる最奥のベッドを見つけるとぎょっとしたような顔になってものすごい剣幕で私たちに近づいてきた。

そして、ガバっと大きな布がこすれる音を立ててキース先輩の胸倉をつかみ始めた


「キースか?!お前がフローを泣かせているのか?!ルールーこれはどういうことだ!説明しろ!」


私を含むお兄様以外の全員が唖然として立ち尽くした。胸倉をつかまれているキース先輩に至っては、もはや自分がどのような状態に陥っているのか理解が追い付いていないようだった。


「お兄様!何をなさっているのですか!?キース先輩を離してください!」


「何ってキースがフローを泣かせたんじゃないのか?」


「違いますよ!私はただ少し問題が起きてしまって…そのことに感傷的になってしまっていただけです!キース先輩や皆さんはお見舞いに来てくださっただけですよ」


私が必死に言うとお兄様は一度か二度目を瞬かせて私とキース先輩を交互に見るとハッとことを察すると、急いでキース先輩から手を離して謝りだした。


「すまないキース…僕は君の友人なのに早まってあんなことをしてしまって…どうか許してほしい…」


「いいっていいって。俺は怪我一つしていないし、お前が妹のこととなると周りが見えなくなるのは今に始まったことじゃないからな。気にすんなよ!」


そうだ、お兄様は私やお父様など公爵家の人間のこととなるとついかッとなってしまうことがある。

だけどそうだとしても、先ほどのお兄様はやりすぎだと思った。キース先輩もよく許したものだ。

これが昔なじみの信頼関係というものかとも思ったけれど、単にキース先輩の心が広すぎるだけだろう。


キース先輩はあっはっはと笑いながらお兄様を慰めるとくるりと私に向き直って真剣な面持ちに戻った。


「シオンのおかげで話がそれてしまったな。それじゃあ…これに見覚えはないか?」


キース先輩はそういうとごそごそと己のバックをあさりだしてきれいな箱にしまわれた一つのハンカチを取り出した。


「ハンカチ…ですか?」


「ああ、ちがうちがう。本命はこいつだ。この球体…解呪術をフローレンスにかけたらこいつがお前の口から吐き出されたんだ。何か見覚えはないか?」


正直、その球体自体には見覚えはなかった。だけどキース先輩がこの球体の何かを取り出した瞬間に香った何ともいない甘美な香りは心当たりがあった。


「その…匂いが、その球体から出ている匂いが、リードさんからいただいた飴と同じです。」


「っ!?飴か…」


でも私が入学する前に少し付け焼刃で身に着けた魔法史の文献の知識によれば、物体そのものに呪いを付与できる呪術なんて今までの記録には使用記録が一度も残っていない、つまり存在しないはずだ。


「あの、でも飴に呪いを付与するなんて、できませんよね?」


「「…」」


私が確認するように聞くと、みんな「確かに」と考え込んでしまった。


「いえ…呪いを付与することはできます。」


そうしてできた思慮の沈黙をルールーが重々しい声で打ち破った。


「ルールー、それはほんとか?」


お兄様が体を乗り出して、ルールーに迫る。あまりの気迫に普段冷静なルールーもたじろいでしまっているようだったがルールーは一呼吸置くと静かに語りだした。


「はい…。私はよく偉大なる魔術師の伝記を読み漁っているのですが、その中でも特に内容が頭に残っている伝記があります。それは錬金術師の二コラ・フラメルです。」


「二コラ・フラメルというと…金属変性術や賢者の石を開発されたという方ですよね?」


シリア先輩が頭を悩ませながらそういうとルールーは静かにうなずいた。

本音を言うと私にとっては誰だそいつ状態である。読んだ文献にひょっとすれば乗っていたかもしれないけれど、私は基本右端の小さなコーナーの文字は読まない主義だ。


「二コラ・フラメルは今からおよそ700年前に特別な錬金釜の作成に成功しています。

その錬金釜はなんでも、物体と魔法を混ぜることができるのだとか。どのように混ざるのかは混ざるまでは誰も分かりませんがその錬金釜を使用すれば今回お嬢様を襲った飴玉の制作も可能かと…」


「でも、その錬金釜をうちの生徒…まあ、リードが使えるわけないだろう?

その錬金釜は二コラ・フラメルのものなんだから。それをどうやってリードが使用したんだ?誰かを傷つけるために使うなんて、二コラ・フラメル本人が許さないだろう」


キース先輩の言うとおりだと思った。いくら作る方法があったとしてもその制作方法が限定的かつ特異的すぎる。リードさんがわざわざ私に呪いをかけるためにそこまで手間のかかる方法を選ぶだろうか。

とてもではないが、予想としては外れていることは明白だった。


「それが…ニコラ・フラメルの錬金釜は今この帝国の皇宮に保管されているそうです。」


「「「ええ?!」」」


ルールーの言葉に全員が度肝を抜かれた。なぜ、二コラ・フラメルの錬金釜が皇宮にわざわざ保管されているのだろうか、そんなに歴史的にすごい大錬金術師ならば、自身で錬金釜を保管していてもなんの問題もなさそうだが…。


「…あまりにも大きな可能性を秘めた錬金釜を自身の近くに置いておくことをためらったそうです。もしこれが当時大勢いた悪魔や闇の魔術師の手に渡れば世界は混乱に陥ってしまうでしょうから…二コラ・フラメルはきっとその事態を危惧したのでしょう」


ルールーがあらかたしゃべり終わると、また私たちの間に一定の沈黙が流れた。けれどこれは、この沈黙は決して考慮のための沈黙ではなく、答えがわかってしまいどうすればいいかみんながわかっていないからこその沈黙だった。


「…錬金釜が、皇宮にあるというのならそれを持ち出すことくらい皇族にはたやすいことだよな」


キース先輩が重たい沈黙を破りそういった瞬間誰かがごくりと喉を鳴らした。

私たちの中で今回の呪い犯人に対する見解がまとまったことは誰が見ても明らかだった。


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