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入寮式

1部のキャラクターは、実在した人物をモデルにしています。

私が馬車を降りるとそこには学院の職員らしい人物の他にもう1人、明らかに高貴な身分だとわかる立派な服装の学生がいた。


「お!フローようやく着いたか!なんだかんだ言って、2年ぶりだな!」


「お兄様!!」


その学生は私の兄、シオン・ヘルディス・リルヴァインだった。

お兄様は私が自分に気がついたとわかると、お母様譲りのシルバーブロンドの短髪をなびかせながら一生懸命手を振ってきた。


「フロー、長旅お疲れ様。こっちはこの学院の寮の責任者である

ミスター・ポドモアだ。今回フローは入寮式だけ受けるからポドモアさんが直接迎えに来てくれることになったんだ。俺はあくまでフローの付き添いだから。詳しいことはポドモアさんに聞いてくれ。」


お兄様は言うことを一息に言い終わると、そのポドモアさんという人を私の前に押しやった。

ポドモアさんは少し自信なさげな立ち振る舞いで、姿にもまして年老いて見えた。


「フローレンス・リルヴァイン公爵令嬢ですね…。

私はハルトマン・ポドモアと申します…。

フローレンスお嬢様の安定した寮生活のサポートを任じられましたので…どうぞ、よろしくお願いします…。」


「リルヴァイン公爵閣下が娘、フローレンス・リルヴァインです。

お初にお目にかかります。ミスター・ポドモア。これから2年間よろしくお願いします。」


私がそう言って丁寧にお辞儀をすると、ポドモアさんはギョッとして今にもおでこが膝につきそうなほど深深とお辞儀をしてきた。

礼儀正しい、と言うには行き過ぎている気もするけれど今は入寮式の方が気になるのであまり深く追求しないことにした。


「それではフローレンスお嬢様。今から入寮式を行う聖門の間へとご案内致します。道すがら、我が校に存在する5つの寮について説明をさせて頂きますので、軽く頭に入れてください。」


「はい。分かりました。ではよろしくお願いします。」


ポドモアさんは私が同意の意を示すと手に持っていた杖を付きながらゆったりと前に進み始めた。


「我が校には5つの寮がございます。ハーミッド、ディアンケル

セイクレッド、ツォベライ、ストゥイーチカ…それぞれその寮にふさわしい判断されたものだけが入寮することを許されます。」


ストゥイーチカ寮の名前は聞いたことがある。お兄様が所属している寮だ。


「ちなみに、各寮にはそれぞれ寮長、副寮長、模範生の位に着く生徒がいるんだ。寮長と副寮長は身分に関係なく各寮に最もふさわしい者が順に選ばれる。模範生は寮長が独自の基準で選定することになっている。俺は今年からストゥイーチカ寮の副寮長を務めている。」


お兄様は自信満々にそう言って私の後ろでグッと親指を突き出した。

お兄様はとても自慢げだけれど、急に話をさえぎられた挙句セリフを取られたポドモアさんは悔しいのかじとーっとお兄様を睨んでいた。


「えと…お兄様凄いですね。流石です!

ポドモアさん、その…どんな素質があれば寮に選ばれるんですか…?」


ポドモアさんは聞かれたことが嬉しかったのか、お兄様を睨むのをやめて朗らかな声色で語り出した。


「素質…と言うよりも個人の魔力量が大いに影響する…と言われています。我々には体内に魔力を有する魂の核のようなものがあります。それをこの世界では魔核と言いますが、その種類は個々によって異なるのです。

呪術に向いている魔力を多く有する魔核の所持者はハーミッド、

治癒術に必要な特別な魔力を有しているものはディアンケル

神に愛された…つまり神聖術に向いた魔核を持つ者はセイクレッド

そして先に述べた3つを満遍なく、バランスよく行使できる魔核を持つものはストゥイーチカに配属されます。」


「えっと…じゃあ、治癒術が得意な私はディアンケル寮に配属される可能性が高いんですか…?」


「まあ、お嬢様がそうであるならその可能性が高いと思います。」


私はディアルケル寮に配属される。そのことは構わないけれど、お兄様が所属しているストゥイーチカ寮に配属する見込みが少ないというのは少しショックだった。寮が違うということは学年も違うし、あまり多くは会えないだろうから。


「フロー、そんなに落ち込むな。ディアンケル寮は基本的にいいヤツらばかりだからフローもすぐなじめる。

それに、ストゥイーチカ寮は学院で2番目にくせが多い奴らが集まっていると言っても過言じゃあない。」


「2番目…?1番目はどこなんですか?」


私が前をゆったりと歩いているポドモアさんに聞くとポドモアさんは少し気まずそうにモゴモゴと口を開いた。


「あぁ…お嬢様。それはツォベライ寮です。この寮は少々特異な者が入寮式を介さずに入寮する決まりとなっております。

入寮式をけられるお受嬢様がツォベライ寮に入寮することはございません。」


「特異って…。何が特異なんですk…「あー。もうすぐ聖門の間に着くぞ」


私は、続いてポドモアさんに質問しようとしたけれど、その質問の言葉はお兄様によって不自然な形でさえぎられてしまった。


しかし、ふと目をあげるとそこには圧巻の光景が広がっており、私の違和感は一瞬にして吹き飛んでしまった。

綺麗な部屋にひとつの立派な門がたっていて、その門を取り巻くように4体の像が並んでいる。


1番手前にいる体格のいい男性の像は頭に王冠を被って、手を差し出しており、その手には指輪が指輪がはめられている。


その隣の美しい女性の像は祈るように両手に十字架を持って上を見上げていて、腕には腕輪のようなものをつけている。


その向かいにいる老人は何やら分厚い本を両手に抱えて開いており、慈愛に満ちた笑顔を称えている。


そして、最後の一体は若い男性の姿をしており右手にランプを掲げていて、羽織っているマントらしきものには薔薇の印が刻まれている。


「さぁ…お嬢様…。この門の前にこのティアラを被ってたってください。」


ポドモアさんは私に何やら華奢な真ん中に大きな魔法石が着いているティアラを被せ紋章のようなものを私の手ににごらせると、門の前へ促してお兄様と共に部屋の外へ出ていってしまった。


「あの…お兄様!ポドモアさん!私はどうすれば…」


『あら…この時期に入寮式を行うなんて…珍しいですね…』


『本当じゃな…それにこの子は…興味深い魔核を持っておる…』


「っ!!誰?!」


急に辺りに不思議な声がこだました。いや、私の頭の中に声が流れていると言った方が正しいのかもしれない。若い女性と、年老いた男性の声が聞こえてきた。


『くふふ…おい、じーさんばーさん。この娘、お前らのせいで酷く脅えているぞ?』


『なっ!誰がばーさんですか!!!…コホン

…お嬢さん、私達は決してあなたに害のあるものではありません…。貴方にふさわしい寮を見定める審判をするのです…。』


「え?…えぇ?!その、そんな事言われても…だいたい、貴女方は一体どこにいらっしゃるんですか?!」


『ふむ…?そんな質問をされてものう…。お主の目の前にいるとしか言いようがないじゃろう?』


「目の前…」


私はもう一度自身の目の前をくまなく探してみる。

けれど、人は愚か虫1匹でさえ見当たらない。


『あー違う違う。像なんだよ。俺たちは像の意識だ。』


「像?!」


ギョッとして目の前にある4体の像をもう一度見つめてみるけれど、そこには先刻と全く同じ像が美しく佇んでいるだけだった。


『まさか…理事長はまた転入生に私たちのことを説明し忘れたのね?全くもう…驚かせてごめんなさいね?私達は己の生きし頃の記憶…魔術によって生きていた頃の思考、記憶を己の姿をもした像に封じているのです。』


「は、はぁ…」


正直いって、1年前まで魔力すら有していない私にとって今彼らが言っていることの半分も理解が出来なかった。


『まあ、魔核も成熟していないようだしこいつに理解はできないだろう。そんなことよりもさっさと俺らの使命をこなさねーと。ソロモンのジジイにまた呪われるぞ』


『ええ…そうですわね…。あの方が魔界に行っている間にことを済ませてしまいましょう。』


何やら3人が不穏なことをブツブツと呟いているけれど、どうやら像が4体あるのに声が三人分しか聞こえないのはそのソロモンさんという人物がいないせいらしかった。


しばらくすると急に室内の雰囲気がかわり、辺りにキラキラとした謎の光が舞い始めた。


『それでは儀式を始めましょう…。』


『『『我ら、叡智を極めし者…この者に相応しき居場所を選びたもう…。』』』


『我は呪力を見定めよう。彼の者に眠る可能性…。我はそれらを引き出そう…』


年老いた老人の声が重々しく言い放つと老人が持っていた本が青色に輝き出した。


『私は癒しを求めましょう…。全てを包む母なる癒し…。

その力添えになれるように…』


今度は女性が華々しい声でそう言うと、女性が握っていた十字架が緑色に輝き出した。


『俺は神をも引きつける…この者の心を欲しよう。その無垢なる心をば…決して汚されぬように…』


次は若い男性が軽やかに唱えると男性の持っているランプが赤色に輝き出した。


そして、3つの青、緑、赤色のそれぞれの光が点った瞬間、残り1つの手を差し出している王さまの指先にある指輪がカッと白く輝いた。


「え、うわなにこれ…」


『さぁ…お嬢さん…その聖門をくぐり、我々の真ん中にたってください。』


私は女の人の声に従い、聖門を潜って4体の像の中央に立つようにして待機した。

すると、私が被っていたティアラが段々と熱を持ち始めた。


「え?!なにこれ…」


熱を持ち始めたティアラは段々と熱を増していき、ついには中央のティアラが眩く輝き出した。


「うっ…眩しい…」


私があまりの眩しさに目を瞑ると不意に冷たい何かが肩に触れた。


『目を開けてください…』


「え…?」


目を開けると、先程までいたはずの聖門の間はどこにもなくなっていて、真っ白な空間にぽつんとたっていた。

しかも目の前には先程の十字架を握ってる女性の像と全く同じ姿をした、儚げな美しい女性がたっていた。しかし、女性をよく見てみると薄いドレスローブに身を包んでいるが、腕やお腹の所々に何か傷跡のような物が刻まれていた。


『貴方は私の友人ととても類似した魔核を持っています…。オマケに寮は我がディアンケル寮になりました。

なので、1つ手助けをしてあげましょう…。何か…本当に選択を迫られた時は、貴方を愛するものを信じなさい…。 』


「え…?それってどうゆう…。」


『伝えましたからね…。貴方の魂が救われることを祈っていますよ…。』


美しい女性がそう囁くとまた私の視界を眩いばかりの緑の閃光が奪っていった。

そして次の瞬間、われんばかりの嬌声が私のいる場所を埋めつくした。

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