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052  作者: Nora_
9/9

09

「ふぅ、子どもで助かった」


 綺麗な布団を丸めて接触させてみたらそれを抱きしめてくれた。 

 そのため、変な感情が出てくるなんてことはなく無事朝を迎えられたのだ。


「ん……」

「起きた? おはよ」

「……なんで和がいる?」

「ここは僕の家で部屋だからね」


 わかっている、特になにも考えていないんだろう。

 それがどれだけ大胆だったかは全て終わってからでしか気づけない。

 この子と関わっていくということは常にこういうリスクと闘うことになるわけだ。


「ほら、起きて」

「……触らないで」

「ちょ、そんな僕が無理やり連れ込んだみたいな対応されても……」


 寧ろ帰らせようとしていたのに無理やり付いてきたのは白なのに。

 後からそういう対応しかできなくなるぐらいならやめた方がいいと思う。


「違う……いまは見られたくない」

「なんで?」

「……寝起きだから、髪もボサボサだし」


 ああもう、そんな乙女みたいなこと言って……余計に可愛く見えてくるからやめてほしかった。

 このまま見つめ合っていても仕方がないから家事開始、放っておけば彼女だって落ち着くだろう。

 ふたりだけの分しかないから余裕だと考えていた自分。


「は、白っ」


 慌ててあの子を呼ぶと、先程より綺麗に感じる白がこちらにやって来る。


「な、なんで洗濯機に入れちゃったのっ」

「――? 脱いだのは洗濯機に入れるって言われてないの?」

「そうだけどそうじゃなくてさ! 袋を渡したよねっ?」

「洗うの面倒くさかった? それならごめん」

「そうじゃなくてっ……はぁ、もう君のは君が干してよ」

「わかった」


 はぁ……物理的にではなく精神的に疲れる。

 どちらかと言えば物理的に疲れる流れの方が気が楽だ。

 そんな朝から疲労感に襲われながらもやらなければならないことをこなし。


「「行ってきます」」


 今日も普通に平日だから学校を目指して歩いていく。

 地味に女の子と登校するのは初めてだからちょっとソワソワしていたんだけど相手は白。

 もちろんなにかが変わっていたりすることもなく、7月手前の気温に包まれながらとにかく前へ。


「君は晴れ女なのかもね」

「ただ単に7月が近づいているからだと思う」

「言われたことない?」

「ない、楽しみにしていたイベントが雨で開催されなかったなんてたくさんある」


 こちらもそんなことはたくさんある。

 雨が降ってほしい、開催されないでほしいと願ったことほど開催されるわけだけど。


「あ、和!」

「おはよ、そんなに大きな声を出してどうしたの?」

「千賀……大将と付き合うことになったわ」

「そっかっ、おめでとう!」


 上手くいくと思っていた、本当にめでたい話だ。

 約束通りケーキ作らないとなあ。

 

「まあ……ありがと。で、あんたたちは珍しいわね、朝から一緒なんて」

「和の家に泊まった」

「そうなの? 珍しいわね、和がそんなこと許可するなんて」

「この子が無理やりね……中へ行こうか」

「そうね」


 上履きに履き替えて校舎内を移動していく。

 なぜだか階段を上るのが好きな僕、なんだろうね、変だとは思うけど。

 だからと言って上ったり下ったりはしないけれども。


「おはよー」

「いーこも朝早いね」

「うん、まだみんながあんまり来ていない時間の教室って好きなんだ」


 良かった、このふたりはやはり仲良しのようで。


「で、白、そろそろ決めたの?」

「和の家に泊まった」

「おぉっ、もちろんなにかあったよねっ?」


 立石さんに言われたからでもあったのか。

 ん? でも、そういうことを聞くということは白がこちらのことを意識してくれているということ?


「最初は和を抱きしめてたけど、すぐに布団を抱きしめてた」

「え……? も、もしかして……ただ和くんが作ってくれたご飯を食べて寝ただけ?」

「ん、また行く」

「なんでだよぉ! なんで和くんも勇気出さないの!」


 確かに可愛い子が抱きしめてきて色々やばかったけど、そこで手を出したら終わりだったのだ。

 いい方法を思いついて耐えたこちらを褒めていただきたい、白もちょっとは評価を変えてくれたはず。


「まあまあ、こいつらなりの進め方ってのがあるでしょ?」

「だからってさあ……異性の家に泊まったのになにもなしって……」

「憩はどうなのよ? 気になる人とはどうなったの?」

「うっ……こっちは全然駄目駄目だけど……」


 これは初耳だ、いつも白とばかりしかいなかったから驚いた。

 それ以外でも女の子としかいなかったからね、白が乙女パワーを見せたぐらい珍しい。


「え、立石さんって気になる人いたんだ?」

「うん……まあ」


 なんだか凄く言いにくそうな感じだ。


「憩が好きなのは女なのよ」

「え? あ、じゃあ白?」

「白を取ったのは和くんでしょっ、もうばか!」

「ご、ごめん……?」


 そういう意味で食べてもらっていたわけではないんだけど。

 でも、気に入ってくれたということなら普通に嬉しい。


「ねえ、なんか甘いのない?」

「あるよ、はい」

「ありがと……ちょっと頑張れそう」

「それなら良かった」


 戻そうとした手を捕まれ、彼女がグイと顔を近づけきて言った。


「白のことよろしくね」

「わかった」


 それがどういう意味でか、なんて聞かなくてもわかっている。

 もちろん白にその気がなければ始まらない話ではある

 だけどないな、食欲優先で動く彼女に限ってそれはね。

 実際その予想通り、影響されて急にグイグイくるなんてこともなく学校が終了。

 

「和、下着取りに行く」

「服もだけどね……うんまあ、行こうか」


 今日も泊まるとか言い出さなくて良かった。

 この子といるとなんてことはないことで良かったって思えるからいい。


「和は興味あるの?」

「なにに?」

「恋」

「そりゃまあ男だからね、これまでそういうの一切なかったし……うん、そう思うよ」


 男女で仲良さそうにしているところを見ると羨ましくなる。

 別にそこばかりに着目して生きているわけではないけど、できればって考えることも多かった。

 にしても、白の口からそんな単語が出るなんて……最近は驚かされることばかりだ。


「恋をしたら変われる?」

「うん、変われるんじゃないかな。ただ、それがいい意味でとは限らないけど」


 その人のことを考えすぎて他が疎かになってしまうのは駄目だろう。

 やることの多い自分としてはメリットばかりではない。


「興味があるの?」

「ん、小雨とかいーこを見てると思う」

「誰かそういう風に見られる人が現れるといいね」


 その場合はなんだか少し寂しくなりそうな気がした。

 これだけ甘えてくれている彼女が他の男の人とか女の人にって考えたらね。


「着いたよ?」

「うん、開けるよ」


 大丈夫、まだそんな時はこない。

 とりあえずいまは餌付けじゃないけど食べたいものを食べてもらおうと思う。


「よく考えたら下着はともかく服は持って帰らなくていいかも」

「え?」

「だってこれからも高頻度でここにはくるから」

「まあ、そうかもね」

「そうかもじゃなくて絶対だから、僕は和の側を離れないよ」


 そう言ってくれるのはありがたい。

 ただ、いつかは必ず終わりがきてしまうわけで、だから素直に喜べなかった。

 

「ねえ白」

「ん?」

「……離れないって証拠を見せてくれないかな」

「証拠? そう言われても時間がかかることだと思うけど」


 彼女の言う通りだ、いまの自分は確実におかしかったと言える。

 ちょっとどころかかなり恥ずかしくて掃除をすることに専念した。

 今朝の彼女の気持ちがわかった気がした、顔を見られたくない時もあるんだなと。


「和、さっきのってそうしてくれないと不安だってこと?」

「うん……ほら、白は可愛いから他の人が放っておかないかなって思ってさ。だからいつかはこうして甘えてくれることもなくなっちゃうてことでしょ? それがいまの僕にとっては嫌なことかなって……」


 口で言うのは簡単なんだ、だってそのまま相手にぶつければいいわけだから。

 でも、もう少し考えてから発言してほしいと思う、影響力ってのを把握してほしいと思う。

 そんなこと言われたら期待してしまう、恋愛経験が豊富な人間ならともかくとして縁がない男だし。


「僕が側にいたら嬉しいって思う?」

「そんなの当たり前だよ」

「好き?」

「……大切だよ」


 ド直球な聞き方をする辺りが彼女らしい。


「小雨とどっちが?」

「比べても意味ないでしょ? もう千賀先輩の彼女なんだから」


 最初からそのつもりだったんじゃないかって指摘したくなるほどの千賀先輩と、案外あっさりと受け入れてしまった金子さん。

 何度も言うけど別にそういう関係になれるだなんて自惚れてはなかった、ただ、実際にそうなってみるとやはり少しの驚きや寂しさがそこにあるわけだ。

 だけどもう言ったってしょうがない、これは変わらないこと、決定されたこと。

 それにこちらは白に尽くすって決めたんだ、決してそこには金子さんが無理だからという感情はない。


「和――」

「白――あ、どうぞ」


 だったらってたまには勇気を出そうとしたら被ってしまった。


「和がいい、和にずっと甘えたい」

「あ……先に言われちゃったか」

「和も僕に甘えたかった?」

「そういう気持ちがなくはないけど僕は君がいいんだ、作ったものを喜んで食べてくれるのがすごい嬉しかった。君が考えている以上にやる気が出たよ」


 これってちゃんと告白みたいになっているのだろうか?


「ん、しょうがないから応えてあげる」

「はははっ、君らしくていいね」


 それでも受け入れてくれる彼女に感謝を。

 

「手作りアイス食べたい」

「残念、今日はないんだよね。ケーキもないからスーパーに行ってアイスでも買おうか」

「買う、お金はちゃんと出す」

「いいよ、どうせ僕も食べたいしね」


 気が急いているのかどこか速歩きの彼女。

 前を見たりこちらを見たり忙しく危なっかしいので、手を握っておいた。


「そんなに急がなくてもアイスは逃げないよ」

「早く食べたい!」

「うん、わかってるよ。でも、手は拘束しておくけど」

「別にいい、手を握られて嬉しいから」

「ははは……強気モードだ」


 こちらもあまり負けずに頑張っていきたいと思った。

 とりあえずはまた色々なものを作って食べてもらおうと決めたのだった。

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