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052  作者: Nora_
3/9

03

「あー、木内和くんっ」


 家に帰ったら腕を組んで立っている母がいた。

 しかも普段は引きこもりーなのに相当珍しい姿でだ。


「な、なんでそんなに綺麗なの?」

「お母さんはね、考え方を改めたのっ」

「え、ちょっと怖いかな……」

「ま、冗談だけどねー」


 あ、良かった、いつもの母に戻ってくれた。

 整えていた髪を自らの手でぐしゃぐしゃにして床に寝転がる。


「もしかして上手くいってないの?」

「そ、和の言う通りー」

「なんか協力できることってある?」

「女子高校生が見たいっ、次の絡みで生の資料が必要なんだよねー」


 おいおい、母が書いてるのってそんなんだっけ?

 文字も書いて絵も描く人だから大変なのはわかるけど、犯罪に走りそうで怖いな。


「そ・こ・で、和くんにお願いがあります」

「もしかして連れてきてくれとか言わないよね?」

「正解! 小さい子と普通の子を連れてきて!」


 小さい子と普通の子? あの学校で言ったら井上さんと金子さんか。

 金子さんは来てくれるかもしれないけど井上さんの方は立石さんに邪魔をされる可能性がある。

 もうこの際だから立石さんに来てもらえば付いてきてくれるだろうか。


「大丈夫、抱きしめ合ってもらうだけだから」

「大丈夫……なのか?」

「ちなみに、協力してくれたお礼に駅前の喫茶店で大きいパフェを奢ってあげるって言っておいて」


 無理だと言われたら諦めてもらうという約束をしてから金子さんに連絡をした。


『井上を抱きしめればいいの?』

『うん、井上さんが許可してくれればだけど』

『あんたの家にはどうやって行けばいいの?』

『それは僕が迎えに行くよ』

『私はいいわよ』

『ありがと!』 


 この子は聖母かなにかか? どうしてなんでも受け入れてくれるんだろう。

 これは母からのだけではなく自分の方からもお礼をしなければならない。


「――ということなんだけど、無理かな?」


 翌日、唯一単独行動をするお昼休みを狙って頼むことにした。


「小雨を抱きしめればいいの?」

「そう、無理なら無理でいいんだけど」


 こんなところ立石さんに発見されたら多分消される。

 そのため、なるべく短期決戦という形にしたいけど……いけるだろうか?


「アイス」

「パフェを奢ってくれるって」

「ならいいよ。いーこも連れて行っていい?」

「うん、大丈夫だよ」


 後になってやっぱり無理となった時の母が面倒くさそうだ。

 ならばすぐにでも来てもらうしかない、申し訳ない……本当にふたりには迷惑をかける。


「今日でもいいかな? そうしたら案内だってしやすいし」

「いいよ」

「ありがとう。これあげるよ」


 先程自動販売機で買ったいちご牛乳を手渡す。

 ……なんかなにかをあげていれば釣れるみたいな考えになっているのは気をつけなければ。


「白ー」

「いーこ、今日木内のお家に行こ」

「えっ!? き、木内くんのお家に?」


 母が作家で、その作品のために必要だということを説明しておいた。

 下手に隠していると警戒されかねない、来てくれなくなるということもありそうだから。


「それを木内くんも見るの?」

「いや見ないよ。見られたくないだろうし」

「そっか、ならいいよ。今日だよね? よろしくね」

「うん、よろしく」


 そうして僕は4人の女の子を引き連れて家に帰った。


「ここが木内の家か」

「千賀先輩も女の子……そう、これは女の子だ」


 この人、金子さんがいるところには必ず現れる。

 家に行くと言ったら当然のように「俺も行くぞ」と乗っかってきてしまった。

 やましいことをするわけではないから別にいいけど、過保護すぎるのは確かなようだ。

「なにを言ってるんだ? 早く入ろうぜ」ともっともなことを言われて中へ。


「いらっしゃいっ」


 あ、またこの綺麗なモードなんだ……。

 母だと説明して僕は飲み物の準備及び一応母の作業部屋兼寝室の確認。

 普通に綺麗だ、人が来る時のことをきちんと考えられている部屋だった。


「和、あの大きい子は女の子?」

「そうだよ! ……なんてそんなわけないでしょ」


 まあ女装すれば誰でも女の子だ。


「うーん、小雨ちゃんと憩ちゃんかなー」

「え、白じゃなくていいんですか?」

「白ちゃんはちょっと小さすぎちゃうかな、絵面が犯罪みたいになっちゃう」


 そんな言い方はない、気にしているかもしれないんだからやめてあげてほしい。


「ふたりは部屋に来てくれる? 不安なら扉を開けたままでいいから」

「「わかりました」」


 ああ、母がすごい普通の母親みたいに演じている。

 どうせみんなが帰ったらだりーとか言い出すのに。


「木内、アイス食べたい」

「お母さんがごめんね」

「ん? 気にしなくていい。アイス」

「わかった」


 買ったばかりのファミリーアイスがあったため小皿に分けて井上さんに渡す。

 別に立石さんといられないと駄目というわけではないみたいだ。

 小さいスプーンを小さい手で掴んでパクパク食べているところが可愛らしかった。


「なんか兄貴みたいだな」

「あ、千賀先輩もどうぞ」

「サンキュ」

「ん、おかわり」

「いいよー」


 母が失礼を働いたからこれ全部食べてくれてもいいぐらい。

 というか、これは彼女のために買ったと言っても過言ではない物だ。


「和ー」

「んー?」

「ちょっと来てー」


 いや待て、このまま部屋に突っ込んだら金子さんはともかく、立石さんに嫌われる。

 だからここは焦れったくなって出てきてくれるのを待つしかない。


「和、なんで来てくれないの」

「それでどうしたの?」

「これ、どう思う?」


 女の子同士が抱きしめ合っている絵だった。

 何気に白黒ではなく鮮やかに仕上げられている。

 モデルは間違いなくあのふたりだろうけど髪型とかは全然違かった。


「いいんじゃない、可愛くて」

「はぁ……可愛いのは当然でしょ、モデルがいいんだから。なんかここがグッとくるとかないの?」


 無茶言ってくれるな……そんなフェチの領域まで求められたらあのふたりに嫌われるぞ。


「千賀くんはどう思う?」

「そうですね、足を絡め合っているのがいいんじゃないですか」

「あ、そういうのいいよね!」


 ちょっ、え、普通にそういうの答えちゃうっ?

 僕だってお尻の形がいいとか、表情がいいとか思ったけどさ……。


「というか、上手いですね」

「一応お店で売ってるぐらいだからね」

「百合の作品ばっかりですか?」

「いや、男の子同士も書くよ。絵も描けちゃう万能タイプが私です」


 男の子同士? え、だから僕と先輩だったらあんなことやこんなことをしちゃうってこと?

 ……よくそれを書(描)けるな、どこからそういう知識が出てくるの?


「というか千賀くん、ちょっと上を脱いでみてくれない?」

「いいですよ、はい」

「おぉっ、ちょ、ちょっと描いてもいいっ?」

「どうぞ、見られて恥ずかしいものだとは思っていないので」


 もちろん井上さんの目は覆っておいた。

「見えない」と文句を言いたくなる気持ちがわかるけどなんとなく見せちゃいけないものだと思った。


「あんたなんで脱いでんのよ」

「木内の母さんに求められた、どうだ?」

「筋肉があるわね」

「ああ、筋トレは正義だ!」


 井上さんに小皿をきちんと持つように言って僕はそのまま彼女を移動させる。

 大丈夫、安全な部屋はまだある。お客さんが来た時用の部屋が役立つ日だった。


「はい、全部あげるよ」

「いいの? ありがと」

「ううん、来てくれてありがと」


 僕はまだ母の部屋から出てきていない立石さんのところに行く。


「はぁ……はぁ……」

「た、立石さん?」


 本を読みながら息を荒くしている彼女。

 横に立たせてもらうと、とても井上さんには見せられない顔をした彼女がこちらを見てきた。


「木内……くん」

「う、うん」

「これ、貰っていいか聞いてきて。そうしたら白に触れたこと許してあげる」

「わかりましたっ」


 で、聞いてみたら別に構わないということだったので貰ってもらうことにした。

 そのため、井上さんに触れたことによる罰というものは執行されず。


「木内くん、助かったね」

「……ありがとうございますっ」

「ま、冗談だけどさ。これ、ありがとね。あと白に優しくしてくれてありがとう」

「うん、井上さんが優しいからね」


 ……彼女が持っている本、男の人同士が絡んでいるものだった。

 つまりそれは同性恋愛ということで……僕が触れることは絶対にないなと思えた。

 その後は1時間ぐらいで終わって、お世話になったみんなを送ることに。


「木内、アイス美味しかった」

「そっか、それは良かった」

「今度はうるさいいーことじゃなくてひとりで行く」

「「え」」


 結構大胆な言い方をしてくる井上さんと別れ。


「木内くん、あんまり白を甘やかせないでね」

「わかった」


 いつまでも姉や親目線の立石さんと別れ。


「じゃあな」

「はい、さようならです」


 あれから筋肉アピールが酷くなった千賀先輩と別れ。


「ここ、前から行きたかったのよね」


 なぜだか金子さんと近所のスーパーにいた。

 最近できたばかりの店舗のため、金子さんにとっては初めてらしい。


「あ、もしかしてお弁当を作りたいってこと?」

「そう。あんたは必ず入れる物ってあるの?」

「卵焼きとウインナーと、ハッシュドポテトとかも入れるかな。ま、そこら辺は冷凍食品っていうか」

「あのきんぴらとかも?」

「ううん、あれは前日の夜に作ったのを入れてるかな」


 あまり偏らないようになるべく色々な物を作って入れることにしている。

 そうすれば夜ご飯だって新鮮さを保てるし、翌日のお昼にも楽しさが増えるから。


「……なんであんたそんなできんの」

「そうしないと毎日インスタント麺とかになっちゃうからね、頑張って覚えたよ」


 最初はもちろん上手くなんかいかなかった。

 スマホなんて持っていなかったからレシピ本を買ってきたりしてやっていった結果だ。

 一流ホテルのシェフみたいな腕前にはなれないけど、最低限それなりのものを作れるだけでいい。


「まずは卵焼きだけでもいいんじゃないかな」

「卵焼きか……私、それすら上手く焼けるかわからないんだけど」

「練習だよ練習、もし良ければ今度付き合うよ?」

「なら明日、私の家に来て」

「えっ? き、君の家に?」

「家の調理道具で覚えないと意味ないでしょ? あんたの家に行くからさ、そこから移動しよ」


 え、いきなり女の子の家になんて緊張しちゃうんだけど……。


「ちょっとそれは……」

「別にいいでしょ?」

「え、だってふたりきりだよね?」

「そうね。逆にお母さんやお父さんがいてあんた大丈夫なの?」

「い、いえ……ふたりきりの方がいいです」


 ならせめて、井上さんでも誘おうか。

 そうでもしないとつまらないミスばかりしそうだ。

 それでは行く意味がない、それにあんまりださいところは見せたくない。


「井上さんも誘っていいかな?」

「いいわよ、それで落ち着くなら」

「あ、でも連絡先知らないや」

「さっきあんたのスマホをいじってたわよ?」


 困惑しつつも確認してみたら井上さんと立石さんのアカウントが登録されていた。

 ありがたいことではあるけど、立石さんに怒られるだろうから来週謝罪をしておこうと思う。


「よし、ケーキを作って持っていこうかな」

「は? あんたそんなのも作れるの?」

「メモを見ないと駄目だけどね」


 と言ったものの、それを運ぶとなると大変だったため、


「これ食べていいの?」

「うん、アイスだって乗っけちゃうよ」


 ホットケーキを作って昨日の余ったアイスを乗っけて提供。

 無事来てくれたし美味しいと言ってくれたためこちらも嬉しくなる。


「金子さんはどう?」

「……美味しいわ」

「えっ、な、なんでそんな怖い顔?」

「あんたがぽんぽん色々な物を作るからでしょうが!」


 えぇ……結局ホールケーキは諦めてホットケーキを作っただけなんだけど。


「もういいっ、ここで教えて!」

「いいよ、その方が僕は助かるし」

「早く!」

「わ、わかったから」


 でも、教えると言うより見てもらった方が早い気がする。

 それに我流だから本当はプロの人が作っている動画とかを見たほうがいい。

 あまり流されてほしくもないからさっと作ってしまうことにした。


「どうかな?」

「やってみてもいい?」

「いいよ、はい」

「ありがと」


 い、いま手が触れたけどスルーだったな。

 こちらは大変だったけど対応が大人だ、手が触れたぐらいでドキドキしないでおきたい。


「こ、こう……?」

「うん、上手だよ」


 ちなみに、作った卵焼きも井上さんに食べてもらっている。

 甘い物だけでなく食べ物ならなんでもいいようだ、どうやって入っているのかはわからないけど。


「ああ、焦げた!?」

「最初はそんなものだよ。今日のために実は卵いっぱい買ってあるから全部使っていいからね」

「……うん、頑張る」


 というか、お母さんに教えてもらった方がいい気がする。

 いつも作ってもらったお弁当を食べているのならなおさらのことだ。

 

「和、もっとちょうだい」

「え? あ、お母さん? ――え、いま井上さんが名前で呼んできたの?」

「そう、別にいいでしょ? 僕のことも白でいい」

「う、うん、僕の方はいいけど……え、それ本当にいいの?」

「大丈夫。もう友達だし」


 友達だったのか!? あ、だから登録してくれたのかな?


「えっと……は、白ちゃん」

「呼び捨てでいい」

「そっか、ありがとう」


 金子さんが作った練習卵焼きさんを白がどんどん食していく。

 どちらもとどまることを知らなかった、片方はともかく白の方は凄かった。


「で、できたっ」

「綺麗でいいね、美味しそう」

「あんたは醤油派?」

「そうだね、甘いのも食べられるけどね」

「そ、じゃあこれ食べて」

「うん、いただきます」


 決して馬鹿にするつもりはないけど普通の美味しい卵焼きだ。

 あ、だけど女の子が作ってくれた卵焼きというだけで美味しさが格段に跳ね上がるような?


「美味しいよ」

「でも、あんたより上手くなるまではやめないわ」

「金子さんならあっという間に越しちゃうよ」


 なんなら現時点で上のような気がする。

 なにより女の子が励むという光景だけで十分だ。

 それで出来上がった物が失敗作であったとしても食べられる。


「和、もっとアイス」

「いいよー」


 こうして甘えてくれるのは嬉しい。

 けど、あんまり甘やかしていると立石さんに怒られそうだ。

 どうする? と考えて、作っておいたあんまり甘くないアイスを提供することに。


「あむ……ん? あんまり甘くない」

「美味しくないかな? 作ってみたんだけど」

「ん、でも食べられる」

「そっか、まだあるからね」

「いっぱい食べる」


 ぐぅ……駄目だこりゃ、白を見ているとどんどん食べさせたくなってしまう。

 なので後半は金子さんの卵焼き作りを応援することに集中したのだった。

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