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第5話 ステータスと魔導具と兎のシチューと


 渡された鍵の番号の部屋に入ると、初めて来た異世界の宿屋は意外と小綺麗になっており驚いた。 


 夕食の時間までは少しくらいはゆっくりしようと思い、部屋の大半を占めるベットへと倒れ込む。

 おっと、いかんいかん、まずは自分の現状をしっかりと把握しなければと思い、ベッドに仰向けになりながらステータスプレートを呼び出した。


「ステータスオープン」


ショウゴ=ミヤガワ

種族 人間 

年齢 28

Lv3

STR20 VIT8 DEX15 AGI18

INT22 MND16 LUK27


常時発動型能力(パッシブスキル)

【翻訳 身体能力強化(微) 物理耐性(微) 魔法耐性(微) 〇〇〇〇】 

任意発動型能力(アクティブスキル)

【対話Lv1 鑑定Lv1 収納Lv1 索敵Lv1 〇〇〇〇Lv1】


「…うぇ、なんで英語表記なんだよ、判りづらいな、えーっとSTRが確か力の強さで、VITが丈夫さ、DEX器用さ、AGIが敏捷、INT知力で、MNDはなんだろ、マインドなら精神力ってところか、でLUKは運の良さだっけか。いや、間違ってたら怖いしヘルプを確認するか…まぁ大体合ってるかな」


 しかし自分のこのステータスが強いのかどうかが全く分からん。他の人間のステータスを見たことがないからな。そもそも鑑定で他人を見ることが出来るのか?ヘルプには、載ってないか…


 これ以上は考えようが無いので一旦ステータスは置いとくとして―


「次はスキルか、耐性や強化とかの(微)ってどうなんだ?何々?1.1倍って、まぁないよりかはマシか…」


 そして今になってこのスキルがあったのを思い出してしまった。


「うわぁ、フォルティナに鑑定欲しいって自分で言ってたのに使ってねぇじゃねーか」


 もし、このスキルがある事を思い出していれば…


「よし!忘れてたのは仕方ないし、これから気になる事は鑑定していこう」


 そう言いつつ机の上に置いてあったランタンのようなものに向かって、鑑定スキルを発動してみた。


《魔導ランタン:魔導具、魔石で光るランタン。魔石の魔力が切れたら交換する必要がある。》


「へぇー魔導具か」


 試しにスイッチらしき突起物を押してみると、硝子の中に浮いていた光はふっと消え、もう一度押すと底の方から中心へと光が集まる。


 今までこの町ラヴィアンに入った時は、今まで観てきたアニメやライトノベルのイメージの街並、つまりは文明レベルも中世ヨーロッパ辺りなのだろうと勝手に思い込んでいたが、しかしこの部屋のランタンを見てみると電球などは入っておらず、硝子の中に浮かぶのは明るい光の玉だけで、ランタンの底を覗いて見ても何もない。

 こうやってランタン一つを取って見る限りどうやら俺の想像していたような中世ヨーロッパのそれではなく、電気に代わって魔石を使った文化が発達しているようだ。と言っても大幅に科学の発達していた地球とは比べるべくもないだろう事は、馬車などが使われている時点で明らかだろう。


 試しにと窓ガラス越しに見える街灯も鑑定してみるが魔導ランタンと同じ原理だった。


コンコン ガチャッ


「お兄さんご飯の用意できてますよー?って何してるんですか?」


「あ、いや、これは…ははは」


「はぁ、まぁ良いですけど早く降りて来てくださいね」


「あ、はい」


 魔石なんて初めてのものを見たから興奮して、ランタンを点けたり消したりと遊んでいたら、いつの間にか夕食の時間になっていたらしくミーシャが呼びに来た。中々食堂に降りて来ないから様子を見に来たのに、部屋の中を見ると魔導ランプを点けたり消したりして遊んでいる大人が…そりゃそんなジト目で見るわ。


 食堂に着くなり女将さんと思しき人が料理を運んできてくれた。


「あら、あんたがミーシャの言ってた冒険者さんだね、あたいはこの宿の女将のアーニャだ、ようこそ野兎の隠れ家へ」


「俺は今日からしばらくお世話になるショウゴだ、よろしく頼む」


「はいよ、おかわりもあるしゆっくりしてきな」


「あぁ、助かる」


 運ばれてきたものはサラダと柔らかそうなパン、メインは今ミーシャが持ってきているのが見える。


「お兄さんお待たせ!はい!」


「おぉ美味そうだ」


 ミーシャが運んできてくれたのは受付の時にミーシャが言っていた兎のシチューだろう。目の前に置かれた瞬間、赤ワインと兎肉、そして複雑に混ざり合った香草の香りがふわりと漂う。その香りを嗅いだ瞬間自分が空腹だったことを思い出し、途端にお腹がぐうぅーと鳴った。

 そう言えばこっちに来てから口にしたものと言えば、孤児院でお茶菓子として出されたクッキーと紅茶だけだ。

 腹の虫の音を聞いたミーシャが楽しそうに、クスクスと笑いながら勧めてくれる。


「ふふっ、ごゆっくりどーぞ」


「いただきます」


 手前に置いてあったスプーンを手に取りすかさずシチューへと手を伸ばすと、そんなに力を入れずとも大きな肉の塊はスプーンに抵抗などまるで感じることもなかった。

 その崩れた肉とシチューを絡めて口に入れると、肉質はそこまで脂身は無いのにも関わらず、舌の上でとろけるように崩れ、最初に感じるのは香辛料とハーブ、次にジュワっとした肉の旨味と赤ワインのコク、最期にジビエ料理にも似た野生の兎の香りがスッと鼻の奥で消える。


 これは…


「美味っ!」


 絶妙な火の入れ加減と、兎の臭みを全部消さずに逆に生かし、更に昇華させているのがわかる。

 空腹だったこともあってそこからは夢中になりながらも、パンとサラダを間に挟みつつしっかり味わいながら食べた。結局シチューは二回もおかわりしたのにも関わらず、まだ食べたいと思わせるようなものだった。

 

「ふう、ご馳走様」


「ふふっ、お粗末様。そんなに美味しかった?」


 一人食後の挨拶をすると、目の前にはいつのまにかミーシャがいて、食器を片付けながらも挨拶を返してくれた。


「あぁ、こんな美味いもの久しぶりに食べたよ」


 そんな事を思いもよらず漏らしてしまった。本当に今考えてみると、シエルが居なくなってから最初の三日間など食事も喉を通らなかったもんな。

 それから少しはマシになったが以前よりも食事が美味しいと感じることがなかった。


「お兄さんどうしたの?」


「あー、何にもないよ」


 俺は曖昧に答えたが、でも今この世界にシエルは居るんだ、そう思うだけでここまで食事が美味しいと感じられるとは思わなかったから、変な風に笑っていたのかも知れない。


「そう?ならいいんだけど…あ、お兄さんお風呂はどうする?ウチには大浴場しかないけど使うなら早めにね」


「あぁ、わかった。それじゃあひとっ風呂行ってくるよ」


 

 あぁ、失敗した。風呂から上がったところで着替えがないことに気が付いた…

 幸いここの宿には寝間着が用意されていたが、今日一日ほぼほぼ寝間着で過ごしちゃってたよ俺。

 今、明日はまず日用品の買い出しをしなきゃと考えながら自分の洗濯物を部屋に干していた。もちろん女将さんから洗濯の許可は貰っているぞ。

 

 と、そんな事を思っているとふいに窓際の方からカリカリと音がしたので、そちらを見ると何者かが窓ガラスを引っ掻いている。


「ん?」


 駆け寄り窓を開けてやると一匹の黒猫が部屋の中へと入って来た。


「ネロ?」


「もー、早く開けなさいよ」


「悪かったよ、それにしても今日宿に来るって言ってたけど、良くここの宿だって分かったな」


「あなたの匂いを辿って来たもの」


 ネロはしれっとそう言うけど俺ってそんなに匂うのか…もうアラサーだしな、と自分の匂いをすんすんと嗅いでみるがわからん。でも自分の匂いってわからないって言うし…


「考えてる事は大体わかるけど、私猫なのよ?匂いを嗅ぎ分けるのなんて簡単よ。だからそんな顔しなくていいわよ」


「そ、そうか?」


 猫に体臭を気にしてることがバレた挙句、励まされる俺、なんか切ない。


「じゃあ、いきなりだけど本題に入るわね。あなたはそこに掛けなさいな」


「わかった」


 ここは俺の部屋なのにと思いつつも、促されるまま俺がベッドへ腰かけると、その正面の窓際の椅子にネロは座り話し始めた。


「ねぇあなたはあの子の、シエルの飼い主で良いのよね?」

下の★をタップして応援していただけると泣いて歓喜します!

是非お願いします! 

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