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第4話 ネロとミーシャとジャッカロープと


「にゃあ(呆けた面してどうしたのよ)」


 なんという事でしょう。(例のあの曲)

 まさか喋るはずがないと思っていた黒猫が、今はこんなに流暢に…


「て、いや待て待て猫が喋るはずが…」


「にゃ~、にゃうん(現にこうやって話してるじゃない)」


 いや、話している言葉はちゃんとにゃあと聞こえるけど…何故だか言っている意味がはっきりと伝わってくる。なんていうか副音声?みたいな感じで気持ち悪い。


「ま、まぁ異世界だもんなそんなことだってあるよな」


「あの、ショウゴさん、どうしたのでしょう?」


「いや、今この黒猫が話しかけてきてびっくりしたんだ」


「にゃぁにゃ~(黒猫って失礼しちゃうわね、あたしにはネロってちゃんとした名前があるんだから)」


「あぁすまん…」


「さっきからにゃぁにゃぁ言ってて猫さんとお喋りしてるみたいですね」


「あんた大の男がにゃぁにゃあ言うんじゃないよ」


「え…」


 シスターは少し羨ましそうな感心したような顔をしているが、マザーの反応を見る限りどうやらネロの声は通じていないようだ。普通に話していたつもりだが、彼女らには俺が猫語で返事をしているように見えるらしく、このままだと俺は猫に猫語で話しかける滅茶苦茶寂しいアラサー男子じゃねぇか。

 マザーはどうでも良いのだが、若くて可愛いシスターに変なものを見る目で見られたくないので必死に言い訳…は出来そうにないから話題を変える。ネロには後で話を聞こう。


「あぁ!それよりも聞きたいことがあって、俺、白い子探してて…シエルって名前なんだけど」

 

「ん~そうですねー…」


 俺はネロの方を向きながら聞くと、シャルはネロを見て記憶を掘り起こそうとしてくれていた。


「ほんの数日前まではとても綺麗な白い髪の女の子がいたんですけど…白い猫ちゃんは見てないです。お役に立てずすみません」


 シャルは一瞬寂し気な雰囲気を出すと取り繕ったが、今度は申し訳なさそうに頭を下げた。


「その子はショウゴさんの飼ってた子なんですか?」


「えぇ、まぁ、最近帰ってこないので心配して探していたんです」


「そうなんですね」


 まさか飼い猫追いかけて異世界まで来ましたって言ったら、この子は信じてくれるだろうか。そもそも異世界の存在すら知らない可能性もあるし安易に言う事でもないか。


「さて、そろそろ今晩の宿を探さなきゃ行けないので失礼します」


「はいよ」


「はい、引き留めてしまってすみませんでした。シエルちゃん早く見つかると良いですね」


「頑張って探すことにするよ、ありがとう」


 礼を言ってネロを抱いたまま席を立つと、ネロは腕からするりと降り立つ。


「にゃぁ(先に行ってるわ)」


「あぁ」


 小声でネロに返事をして扉を開け、外へ歩いていくとシスターが後ろから声を掛けてくる。


「あの、良かったら…また遊びに来てください」


「あぁ、ありがとう今度はシエルも連れてくるよ」


「はい、待ってますね」


 シャルと別れを告げると子供たちが集まってくる。


「お兄ちゃんもう帰るのー」

「おっちゃん遊ぼうぜー」

「また来てくれてもいいんだからね」

「小遣いちょーだいー」


 子供達とは最初にシスターに勘違いされて、お詫びとしてお茶を用意するって言った間少しだけだが遊んでいた、そのおかげか既に友達認定されているらしいが一人小遣いをせびってくる奴が…俺もこっち来たばっかだからないんだよ。悪いな。


「あぁ、また今度な」


 手を振り教会をあとにして、今度はシャルに教えてもらった正面の通路から出ていくとすぐに大通りが見える。あそこを左に曲がってしばらく歩くと宿泊施設の密集した地区があるらしい。教会が見えなくなりもうすぐ大通りだというのにも関わらず右の路地へ、先行していたネロと共に入る。


「ここなら大丈夫か」


「そうね」


「おい、お前普通に話せるじゃねーか」


「あら、別に話せないなんて言ってないと思うのだけれど?」


「確かにそうだが…」


「それともあなたは猫がいきなり話しかけてきても大丈夫なのかしら?」


「まぁ、どっちにしろびっくりしたけどな」


「ふふっあの時のあなたの顔面白かったわ」


 ネロは猫だけに表情の変化は特にないのだが、少し面白そうに抑揚をつけて話している。


「それよりだ、お前はシエルを知ってるのか?」


「ネロよ、何度も言わせないで」


「悪い、ネロはシエルを知っているのか?」


「様を付けなさい」


「なんで俺がそん―」


「あら?シエルって言ったかしら?あの子の事が知りたくないの?」


「ぐっ…ネロ様はシエルを知っているのですか?」


「ぷっ…ぷくく、あははは!やぁね、冗談よ。ネロでいいわ」


 猫に遊ばれる俺、猫を見ながら肩をプルプルして、今絶対顔赤いわぁ。傍から見たらすごいシュールなんだろうな。


「あー笑ったわ。楽しませてくれてありがと、お兄さん」


「このやろぉ…」


「それであの白い子の事ね」


「あぁ今度は頼むぜ」


「あの子は―」


「おい、急にどうしたんだよ?」


「シッ!あんたこっちに来なさい」

 

「おい、どうしたんだよ急に」


「ここに隠れて、静かにしなさい!」


 なにがどうしたのかわからないが、ネロに促されるまま無造作に放置されている木箱の奥へと隠れた。

 すると数秒後、幾人かの足音と笑い声が響いてくる。そろりと顔だけ出してみるといかにもお金を持ってますよと言った風貌の男性と、その取り巻きらしき数人らが歩いていくのが見えた。


「チっ」


「なぁ、なんで隠れたんだ?」


「今は説明している暇はないわ、夜あんたの部屋に行くから窓の鍵空けときなさい。絶対に着いてきゃだめよ」


「えっ、ちょっと?えー」


 言うが早いかネロはその男たちを追って行った。

 この場にポツンと残された俺に、ひゅ~と冷たい路地裏の風が吹きつけた。


◇◇◇◇◇


「切羽詰まってたな、助けになれなかったのか、でも着いてくるなとは言ってたし…」


 一人ぶつぶつと言いながら歩いているといつの間にか泊まるはずの宿泊地区まで来ていたようだ。

 もう日も傾きかけているし、良い時間だ。多少もやもやはするけどネロが着いてくるなって言っていたし、夜に来るとも言っていた。よし、気持ちを切り替えよう。

 

 外観から高そうでもなく、安すぎそうでもなく、つまりは適当な値段っぽいような宿屋を選び、カランカランと音の鳴る扉を開ける。するとその宿屋『野兎の隠れ家』は素朴ながらも趣のある内装が広がっていた。


 受付へと向かうと誰も居ない。周りを見渡しても居ないので受付横にあった呼び鈴を押そうとする直前。


「いらっしゃいませお客様!」


「ぅわっ!」


 受付の下に隠れていたのだろう女の子が、打ち上げ花火もかくやという勢いで、元気よく挨拶しながら飛び出してきた。急にでてくるもんだから、かなりびっくりした、今も心臓がドキドキと音を鳴らしている。


「っくりしたぁ…」


「えへへ、お兄さんごめんなさい。ほらここって野兎の隠れ家だから、さ?」


 受付は12歳かそこらだろうか、クリクリっとした瞳とストレートの茶髪の快活そうな女の子でとても可愛らしい、ポイントで編み込みが入っているのもまた良く似合っていた。


「お、おう。そお…なのかな」


「うん、そうだよー!それでお兄さんは今日はお一人ですかー」


「あぁ」


「何泊のご予定でしょうか?」


「一泊いくらかな?」


「そーですねー、1泊7千ギールですけど、お兄さん冒険者ですよね、でしたら一泊7千ギールのところを3日泊まってくれるなら2万ギールにしときますよ。もちろん朝食と夕食付きです!」


 日本のホテルや旅館の値段に比べるとそこまで悪くない値段設定か、むしろかなり安い部類か。それにしてもこの子商売上手だな。


「じゃあ、とりあえず3日頼む」


「はいはーい、ありがとうございます。ちなみにもう少ししたら夕食が出来ますので、あんまり遅くならない内、そうですね10の鐘がなってからはオーダーストップですので、それまでに降りて来てください!こちらが鍵でお部屋は二階になります」


「わかった、ありがとう」


「ちなみに今日の夕食のメインは、野兎の隠れ家の看板メニュー兎肉のシチューですので期待してください」


「えっ?兎肉ってあのでっかいヤツか?」


「いえ、これぐらいのサイズの兎です」


 女の子はこれぐらいと両手で大きさを表してくれたが、俺の知ってる一般的な兎のサイズよりも少し大きいぐらいだった。


「なぁ、その兎に角とか生えてたりは…」


「しないですよ。あ!お兄さんもしかして見たことあるんですか!?」


「あぁ、丁度今朝ね」


「えぇ、いいなー!私も見てみたい!ジャッカロープ!」


「へぇ、あれはジャッカロープって言うんだ。でもそいつに追いかけまわされたから、食べられるかと思ったよ」


「多分その子、遊んでただけじゃないかな?ジャッカロープが人を襲ったなんて話聞いたことないもん。それにこの辺では見かけたら幸せになれるって言い伝えがあるみたい」


「へぇ、じゃぁ俺も幸せになれるかな」


「なれますよ!だって今日ここに泊まるじゃないですか」


「はは、君上手いことこと言うね」


「えへへ、あ、でも逆にジャッカロープに捕まえようとしたり、怪我をさせちゃったりしたら不幸になるってお父さんが言ってたよ」


「そりゃ気を付けなきゃな」


「ミーシャ―、手伝ってー」


「あ、ヤバッお手伝いしなきゃ!じゃあ、お兄さんまた後でね!」


 不意に食堂だろうか、奥の方から若い女性が女の子を呼ぶ声がしたと思ったら、女の子は受付からでてサッと給仕用のエプロンをつけて小走りでそちらに向かう。


「おう、お手伝い頑張ってな」


「うん!」


 ミーシャは振り返ると大きく手を振りながら食堂の方へと消えていった。


「これは夕食が楽しみだな」


 こうして俺は異世界初の食事に胸踊らせるのだった。

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