第3話 黒猫と孤児院とシスターと
「ありがとう。もう大丈……あ!そうだ、白い猫を探してるんだけど君は知らない?」
「白い猫?ですか…いえ」
「知らないなら別にいいけど、もし…見かけることやそんな噂があれば教えてほしい、なんなら情報料も払う」
「わ、わかりました。他にご質問とかありますか?」
キャルティは俺の圧のせいなのか、少し押されているように見えたが、すぐに元の表情に戻ったので気のせいだろう。
シエルに関する情報は無し、と。しかし女神フォルティナの話ではシエルの居るところに近くなるように門を開くって言ってたからな、なるべくは動かない方が良いのか。よし、とりあえずはこの街を中心に捜索してみるとしようか。
これで冒険者ギルドでやる事は全部だっけか?シエルに関しては聞いたし、身分証代わりのギルド登録も終わった…あ、仮身分証返さなきゃいけないんだっけか。
「悪い、これを返すの忘れてた」
「大丈夫ですよ。はい、ではこちら5千ギール返金致します」
よし、ここでやる事は無くなったかな、後は身の回りの装備品とか整えなければいけないな、武器屋もあるってポールが言っていたし後で見に行こう。他に聞くことは…
「君、キャルティだっけ?」
「え、あ、はい」
「キャルティは何の獣人になんだ?」
「え…」
ギルドとはあまり関係ないかもしれないが、兼ねてより気になっていたキャルティの種族を聞いてみたが、反応があんまり良くなかった。俺はただ彼女のつぶらな大きな瞳と、ふわっとした淡い栗色のショートボブがよく似合っており、更にふわふわのたれ耳がとても可愛らしいので、なんの獣人か聞きたかっただけなんだけどな。もしかしてナンパと思われちまったか?
「あぁ、悪い言いたくなかったら良いんだ。獣人の子を見るのはこの街が初めてだったから気になっただけで…」
「あぁ、そうなんですか。いえ大丈夫ですよ。私は犬の獣人で―」
「ちょっとキャルティ、こんな登録したばっかりのヤツに律儀に返すことなんかないわよ」
そう会話に割り込んできたのは隣の席に座っていた受付嬢だった。彼女は赤銅の長い髪で少々ツリ目がちだが、多くの人が美人だと声を揃えるだろう容姿をしていた。
「あんたも、ギルドに登録したてでよくナンパなんて出来るわね、恥を知りなさい」
「ナンパなんて、別にそんなつもりじゃ」
「ほら、用事が終わったのならもう出ていってちょうだい、ギルドに登録したてなら必要なものも多いでしょう」
「あ、あぁ、そうだな」
彼女に言われ、確かに取りそろえるものも少なくないしここでする用事も済ました。キャルティに聞いたこともただの興味本位だったため特に問題はない。
「じゃあ、そろそろお暇するよ。依頼を受ける時にまた来る」
「あ、あの、本日はご登録ありがとうございました」
「ふんっ」
犬獣人のキャルティと赤髪の受付嬢に見送られ?その場をあとにしようとすると、出入り口付近で飯を食っていた4人組の冒険者たちに声を掛けられた。
「あんまり気にすんなよあんちゃん」
「そうよ、あの赤髪の子、カーラって言うんだけどいつもあんな感じなの、悪い子じゃないのだけどね」
「むぐんんっ」
声を掛けてきたのは、少し年上の戦士風の男と神官衣の女性と、軽装の女性だが、その子は食べ続けているせいでもごもごと相槌を打っている。あとは魔術師然りとした恰好のローブの人がいるが、フードを目深に被って、言葉すら発していないので男か女かすらわからない。だがベテランって感じの伝わってくるようなパーティだ。
「大丈夫、全く気にしてないさ」
「そっか、まぁなんかありゃ俺達に声を掛けな、しばらくはここの街に滞在するからよ」
「あぁ、助かるよ」
「じゃあ、またな」
三人組のベテランパーティに挨拶し、今度こそ冒険者ギルドを出た。
さて次は、道具屋に行くか装備品を揃えるか宿屋か、本音を言えば一刻も早くシエルを探しに行きたいが今のところ何も情報がないし、闇雲に探すにはこの街は広すぎる。先に宿屋を取っておくか、何をするにしても拠点となるところは必要だろうと思ったが、残念なことに宿の場所を聞いていないことに気付いた。
「あー冒険者ギルドで聞けばよかったか、まぁいいか適当に探してたら見つかるだろ」
◇◇◇◇◇
「ここどこだよ」
そう思ってた時期が俺にもありました。気が付いたら見覚えのないひっそりとした路地裏に一人佇んでいた。壁に寄りかかり腰を下ろす。
まぁ見覚えもないも何も初めてきた街、しかも異世界なのだから迷ってしまうのも当然だろうと自分を慰める反面、この事態を招いたのも自分の計画性のなさなのだから自業自得といったところか。
「せめて大通りに出れたらなぁ…ん?」
ひとり呟く、視界の端に小さな影を捉えるとそれはすぐに消えていった。
「なんだ?」
気になったので立ち上がって影の通り過ぎて行った方へ向かう。あれは猫か?少し遠くには黒猫だろうか、路地裏が薄暗くなっているため判りづらいが、どうやら猫が通り過ぎていっただけのようだ。
行き止まりかと思っていたが、その通りは細い丁字路になっているらしく気付かなかった。
「もしかしたら猫の事は猫に聞けば…よし」
思いつくと俺はすぐに黒猫を追いかけた。
日本のことわざでも猫の道は猫に聞けって言うしな。あれ?蛇の道は蛇だっけ?まぁどっちでもいいや。なにかしらの手がかりがあるかも知れん。
全力で走ったら逃げてしまうかも知れないから、着かず離れずの距離を保ちながら追いかける。
猫は時折立ち止まりこちらを振り向くと、一瞬止まり、またトトトッと走っていく。なんだかちょっと着いて来いって言われているみたいで面白い。
2、3分は細道を歩いただろうか、細い道が終わり開けた場所は、太陽の光が降り注ぐ広場のようになっており子供たちの笑い声が聞こえてくる。
そこから更に歩いていくとその全貌が見えてくる。どうやらここは古い建物に囲まれた教会のようだ。ちょうどその教会の横側から出てきた形になった。
教会は射し込む光を一身に受け、キラキラと輝いており俺は意識せず感嘆の声を上げる。
「おぉ」
子供たちは全部で4人だろうか、俺に気付くと身を強張らせた10歳ぐらいの女の子が、他の子達を教会の中へ誘導した後、気を張りながらも俺に声を掛けてきた。
「こ、ここになんの用ですか?」
「いや、特に用があるわけじゃな―」
言い終わる間もなくこの教会の修道女だろう女の子がバァンと扉を開けて出てきて一言。
「だから何回来ても一緒だって言ってるでしょ!お引き取り…え?」
「は?」
先ほど教会の中へ入っていった子供達も、そのシスターの後ろに心配そうに控えていた。
◇◇◇◇◇
「申し訳ありませんでした!」
「あー俺は全然気にしてないから」
「あ!さっき丁度お菓子を焼いたので持ってきますね」
ここの教会は孤児院も併設しているようで、現在その孤児院の居間に案内されていた。
子供たちは現在4人居るらしく、今もさっきの続きなのだろう外で洗濯や畑などをしているのが窓越しに見える。
シスターは謝った後申し訳なさそうにしながらもトタトタと炊事場へ行き、俺の目の前にそっとお茶のカップとお茶菓子を置いたがまだ納得していないようだ。
「ほら、もう気にしてないからさ」
「でも…人違いで怒鳴ってしまって…」
「本当だよ。あんたはいつもそそっかしいんだから」
50代前半くらいだろう丸眼鏡をかけた修道女が、そう言いながら教会側から歩いてきた。
「だってマザー!」
「言い訳しない!」
「うぅ…」
落ち込む彼女は小動物のようになっていた。
「で、あんた…おっと自己紹介を先にしようかね。あたしゃここのシスターのケイトネイラさ、子供達からはマザーなんて呼ばれてるよ。んでこの子は―」
「マザー!私だってもう子供じゃないんだから自分で挨拶くらいできますよ!こほん、わたしの事はシャルって呼んでください、先ほどは失礼しました」
シャルと名乗った少女は14~16くらいだろうか肩甲骨辺りまで伸ばしたふわっとした金髪は美しく、しかし丁度大人と子供の境目のような、美しくも可愛らしさのある顔立ちをしている。居住まいを正して挨拶をする様は、子供が背伸びをしているようで微笑ましく思えた。
「はは、もういいって。俺はショウゴだ」
「それで…あんたは何故ここへ来たんだい?」
「実は…」
そう言い、お茶を頂きながらも冒険者ギルドで登録が終わった後、宿屋に行こうと思って道に迷って裏路地に入ってしまったところ、黒猫の後を追いかけたところ、この教会兼孤児院に辿り着いたことを二人に説明したのだが二人に笑われてしまった。
「ははは、あんた猫に着いてきたのかい。面白いね」
「ふふっ可愛らしいです」
確かにそうだな、俺も今思ったが猫に着いていくなんて幼児かあっても小学生までだろうか…少し恥ずかしくなってきた。
すると、路地裏で追いかけていた黒猫がどこからともなく現れて、目があったと思うとぴょんっと膝の上に乗ってきてすんすんと匂いを嗅いだかと思うと一声鳴いた。
「にゃぁ(あんた白い子の匂いがするわね)」
「え…?」
俺は突然の黒猫の言葉にびっくりして言葉が出てこなかった。
評価・ブックマークありがとうございます!
評価する場合は下の☆を押してください!
また感想・レビュ―もあったらよろしくお願いします。




