第二話 詰所とギルドと飼い猫と
門の前まで来て気付いたことがある。俺めっちゃ私服っつーか寝間着じゃん、まだTシャツにジャージ、寝る時に靴は履いてるはずはないのだが、扉を通るときにフォルティナが気を遣ってくれたのか、白のスニーカーを履いていた。
これがパジャマだったら相当恥ずかしいだろう。俺も小学生の時に寝坊してしまって、遅刻ギリギリだったので走って集合場所まで行ったことがある。その時は同級生どころか下級生の子達にも笑われたものだ。
当然だが門の前には詰所があり、人の行き来を管理している。
一瞬考えるが堂々と門を通ろうかと思い人の流れのまま歩いていたが、やはりと言っていいのか止められてしまった。
「すいません、通行証か身分証をお持ちでしょうか?」
「いや、持ってないが入れないのか」
「それでしたら一度こちらの詰所にお越しください」
「わかった」
そう言って人の良さそうな衛兵のお兄さんに連れられて詰所に向かう。因みにお兄さんは20代前半だろうか、物腰はとても柔らかく嫌味な感じが一切ない。正直なところこのようなのは面倒なのだが、この世界アースガルドでの身分はおろか知識すらないのだから仕方ない。
「では、こちらに掛けて少し待っててください」
「あぁ」
詰所に入ってすぐの席に座らされて待たされることしばし、何枚かの書類と拳ほどの大きさの半透明の球体を持ってきて、対面の席に座った。
「お待たせしました。では申し訳ないですがいくつか伺いますが、どのような理由でこのラヴィアンへ来られたんですか?見たところ服装など見たことがないのですが」
「あー…」
ここで飼い猫を追って異世界から女神様の力で来ましたとか、正直に話したところで信じてもらえるのか…いや、そもそもこの国の宗教形態とかもどんなものかすらわからないし、下手なことは言わない方が良いだろう。しかしここで変に弱気になると逆に怪しいので、少々強気で答えることにする。
「世界を(飼い猫を見つける)旅して回ってて…服装は俺の国のものだからこっちの方では珍しいかもな」
「…そうですか、しかし荷物などは見る限り持っていないように見えますが」
やっぱりそうくるよな、でもここでヘルプでの知識が早速役に立った。
「実はこう見えて空間魔法が使えるんだ、ほら」
そう言って収納空間を開いて金貨一枚を取り出してみせる。そう、ヘルプにも書いてあったのだがこのアースガルドの殆どの人たちは魔法が使えるのだ。
いや、使えるというよりも適性があると言った方が正しい。その中でも空間魔法に分類される収納も、そんなに数が多いわけではないが割といるらしい。
実は俺の時空魔法は時魔法と空間魔法の融合らしく、これはこの世界でも中々珍しいため、敢えて時空魔法と言わず、空間魔法と言ってみたのだ。
「おぉ、空間魔法の収納ですか、では身分証がないのは?」
「身分証は持ってきてない、まさか必要になるとは思ってなかったからな」
こーゆう時は堂々とするのが一番だ。変に間をおいてしまうと逆に怪しまれるからな。
「うーん、まぁ良いでしょう、この水晶にも反応がないようですし入門を許可します」
「助かるよ」
危ねぇ、あの水晶は嘘発見器みたいなものだったのか、敢えて本当の事は言わず、でも嘘も言ってなかったのが功を奏したみたいだ。
「では、お名前を教えてもらっていいですか」
「俺は宮川翔悟だ」
「ミヤガワショウゴさんですね。申し遅れましたが僕はポールって言います。それでこちら仮身分証になりますが5千ギールですが大丈夫でしょうか」
「これで頼む」
そう言い先ほど取り出した金貨を衛兵に渡す。
これも道中ヘルプで確認しておいたのだ。この世界の貨幣の価値は国によって物価の差は多少あるものの、大体一律となっている。
例えば金貨だと10万ギール、小金貨1万ギール、銀貨5千ギール、銅貨100ギール、小銅貨10ギール、銭貨1ギールで金貨の上には白金貨というのも存在する。後はこの国の物価が地球とどのくらいの差があるかどうかだな。
「お待たせしました。こちらお釣りと仮身分証です。このまま仮身分証でも構いませんが出来るならギルドへ行って本身分証を発行しておいた方が便利ですしお金も多少返ってきますよ」
「あぁ、そうするよ」
「では、改めてラヴィアンへようこそ。ごゆっくりお過ごしください」
「あー、少し聞きたいんだが…」
衛兵のお兄さんと出口まで連れだって歩き門の手前で別れると、一人門を通り抜けて町中へと歩き出す。
それにしても異世界だと思って多少なりとも緊張していたが、意外と対応が丁寧だったため気が抜けた。
町中は外壁から見えていたよりも随分広く感じた。そのところどころに商店のようなものや屋台なども見受けられるが、しっかりとした店舗を構えているところも多い。
まずはあの衛兵のお兄さん(ポールと言うらしい)に聞いた通りに冒険者ギルドへと向かうことにする。
冒険者ギルドは入って来たのが南門なので、そこから大通りを真っすぐ進むとあるとのことだった。
「それにしても結構大きな街なんだな。お、多分あれだな」
目の前の大きな看板にはでかでかとドラゴンと剣の絵が描かれており、これが冒険者ギルドの象徴なのだそうだ。これも聞いた話なのだが身分証は冒険者ギルド、商業ギルド含め、各ギルド何処でも取得できるらしい。
では、何故この冒険者にしたのか。答えは簡単で俺が漫画やラノベを読んでて憧れていたからだ。
だって剣と魔法のファンタジーだぜ、男の子なら誰でも憧れるだろう?まぁもうアラサーだから男の子って年齢でもないけど、そこは許してほしい。
それに、冒険者ギルドだと何かと情報も入ってくるからシエルの手がかりも入手しやすいだろうという考えだ。
観音開きの扉を開き、いざ憧れの冒険者ギルドへ!
外から見てもそれなりの大きさの建物だったのだが、中に入ると更に広く感じるのは、意外と人が少ないせいだろうか。
入って正面に受付カウンターが三つほどあり右側にはテーブル席、ちょっとしたカウンター付きのバースペースになっていてそこで昼間から酒を飲んでいたり、数人が集まって食事をしていたりする。
左側を見ると大きな壁一面が掲示板になっているみたいで沢山の書類が貼られており、その奥には何処へ続くのか階段がある。
とりあえずここで立ち止まっていても仕方ないので正面のカウンターへ足を運ぶと、三つのカウンターの内迷わずに真っすぐに歩いていくが、直前になり一番右へと進む。何故一番右なのか?特に理由はないが、強いて言うなら受付嬢が獣人であり初めて見るからで、決して胸元から覗く双丘に目が奪われたわけじゃないからな!断じて違うからな。
「い、いらっしいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「ギルドに登録したいんだ」
「はい、ありがとうございます。わたしは担当させてもらいますキャルティです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。俺の名前はショウゴだ」
ふと気づいたんだが、この世界の人はあんまりフルネームでは言わないのか、もしくは家名が無い可能性もあるのかも知れないので、これから挨拶はファーストネームだけにしよう。
「では、こちらの書類にご記入をお願いします。答えられない部分は空けといて構いませんので」
「あぁ」
あれ?さっきから街の中の文字は明らかに日本語や英語とかではないのに読めてる。言葉が通じるのは能力の翻訳が影響してるんだろうけど、しかし詰所の時はポールが俺に質問して、書類は書いてくれてたから助かったが文字は書けるのだろうか…
「あ、書けたわ」
「え?あの、まだ全然埋まってませんが?」
「あぁ、ごめんこっちの話だ」
最悪日本語で書こうとしたが、書く瞬間にこちらの世界の文字が頭の中に浮かび上がる。自分で書いててなんだがかなり気持ちの悪い感覚だな。
「よし、書けた。職とかわからないから空けているけどこれでいいか?」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、では確認しますね。はい、問題ないですね。ではギルド証を発行するのでこちらの魔水晶に手を翳してください」
「こうか?」
「はい、その状態で数秒待ってください」
言われた通りに魔水晶と呼ばれた、中に黒い靄が渦巻いているものに手を翳すこと数秒待つ。すると俺の手のひらから何かを吸われたような感覚があり、直後魔水晶が淡く発光した。
「お~」
「これで登録は完了ですね。後はこの魔力をこっちにも移して…と。はい、これがショウゴさんのギルド証になります」
「これがギルド証になるのか」
「えぇと、ギルド証の説明は要りますか?」
「あぁ、頼むよ」
渡されたギルド証はペンダントタイプのドッグタグのようなもので、その中心には更に菱形の空洞が空いている。現在登録したばかりなので何も入っていないが、ランクが上がれば中に鉱石や金属が嵌め込まれるらしいが、外れないか心配だと言ったらそんな事はまず無いのだと。
ランクは最高位からS~Gと定められていおり、今の俺はGランクでギルド証には何も入っていない。稀に中に入る鉱石や金属からそのランクを称えて上の三つから白金等級、金等級、銀等級と呼ぶ人も居るのらしい。
「次に冒険者ギルドの注意事項をお伝えしますね」
受領した依頼は速やかに行う事。
ギルドへの依頼の報告の徹底。
依頼は複数回の達成と状況によって上がる事。
依頼書に受領できる最低等級と適正等級が記載されている為しっかりと確認する事。
討伐依頼に関しては常に命の危険に晒されるため、危険だと判断したら即座に撤退する事。
「こんなところですかね。説明は以上になりますが他にご質問とかはありませんか?」
「ありがとう。もう大丈……あ!そうだ、白い猫を探してるんだけど君は知らない?」
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