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第8話 服屋と武器屋とゴブリンと

 

 朝食後俺はネロと宿を出て街を歩いている。今は中央通りを抜けた先、商店の立ち並ぶ地区へ目指して歩いていた。


「で、さっきは詳しく聞かなかったけどネロは獣人なのか?」


「ん~ちょっと違うかな」


「ん?どういう事だ?」


「この世界の人間が魔法を使えるのは知ってるわよね?でも私は魔法も使えるし獣化も出来るから、純粋な獣人じゃなくて魔族に近いかしら」


「獣人が魔法を使うのは珍しい事なのか?」


「どーかしら、少なくとも私は私以外の魔女には出会ったことはないわね。そもそも獣人は魔力が極めて少ないの、体内魔力のオドを活性化させての身体能力の強化は得意なのだけれど、マナの扱いが苦手で例え使えたとしても精々が中級魔法ね。獣化もそう、一時的に由来する獣の能力を引き出すことは出来ても完全に獣化することは普通は出来ないのよ」


「それをネロは出来るってことか」


「そうよ、どお?驚いたかしら」


「あぁ、ネロって凄いんだな」


「あら、お兄さんは私を怖がらないのね?」


「なんで怖がるんだ?ネロはネロだろう」


「多くの人は私の事を知ったら―いいえ、この話はやめましょう」


「ん?」


「ところでお兄さんはこの世界の住人じゃないのよね」


「そうだけど、よくわかったな」


「たまに居るのよ、異世界から召喚されてくる人たちが。それにこの辺りでは見ない衣服だしもしかしたらと思って、ね」


「へえ、俺以外にもいるんだな。でもまぁなくはないのか」


「…確か今勇者をやってるあいつも異世界から来たって言ってたわね」


 ネロは一瞬神妙な表情をするが直ぐに取り繕い問いかけた。


「おぉ、やっぱり勇者とか居るんだな!ってことは魔王なんかも」


「そうよ魔王様、いえ魔王も居るわ。あなたも魔王を倒しにいくのかしら?」


「え、なんで俺が魔王を倒しに行くんだよ?」


「え?召喚されたってことはそうじゃないのかしら?」


「いや、昨日も言ったけど俺はシエル…飼い猫を探しに来たんだよ。魔王なんて知らん」


「…そうなのね。あなたは…その子の事が大好きなの?」


「ああ!」


「…そ、あの子は幸せ者ね」


「え?」


 ぽそりと呟いたネロの言葉は聞き取ることが出来ない程小さなもので、俺には聞き取ることが出来なかった。


「さ、お兄さん今日は私に付き合う約束だったわよね、そろそろ行きましょう」


「お、おう」


「お兄さん、まずは服屋で良いのかしら」


「そうだな、流石にこの格好だとこの街だと目立ちすぎるし」


「だったら私に任せてちょうだい、こっちよ着いてきて」

 

 ネロの説明によればこのラヴィアンの街は大まかに分けて4つの地区が存在するらしい。

 まず正門から入ると正面には、馬車などが通る事の出来る大通りがありそのまま真っすぐ進むと貴族達の住む貴族街があり、そこまで行く街の中央付近に冒険者ギルド、商業ギルド、そこに飲食店や武器や防具を取り扱う店のある商業地区、中央通りから東に行けば鍛冶屋や工芸品などの工房の集まる工業地区、西には貴族以外の人が住む居住区となっている。

 しかし自営で商売をしている人も多々居るためそれも一概には言えないのだと。


「ねぇ、あなた冒険者なのよね、ならこのお店で良いんじゃないかしら?」

 

「なら見てみようかな」


 店内に入ると外から見るより随分と広く感じた。多少雑多な部分もあるが、清潔感も感じられ品数も多いみたいで目当ての品は直ぐに見つかった。


「こんなところか」


「ええ良く似合ってるわよ」


 生憎と生地などには詳しくもなく、とりあえずは丈夫なものと店員に伝えたところ、お勧めされたものを試着していた。

 やはり日本製品に比べると幾分か肌触りが悪い、しかし今は無駄遣い出来るわけがないのでそれで我慢する。

 大通りを歩いていて感じていたのだが、この世界の衣服は思っていたほど日本と逸脱しているわけではなく、普通にカットソーなどが主流のようである。衣類一つ取っても俺が思っているような異世界の世界観よりよほど技術などあらゆる面が発達していた。

 これも俺のような異世界人が多数この世界にやってきて技術などを伝えたり、魔石の流用化が成功した結果なのだそうだ。

 

 試着した商品はそのまま着ていくことにして、その他の着替えなども購入した。今着ているもの以外は収納に入れておく。


「次は武器や防具の店に行こう、それもネロの知ってるお店とかあるのか?」


「そうね、着いてきて」


 案内された武器屋は看板には剣と盾の意匠が施されており、いかにもと言った雰囲気を醸し出している。

 ネロの先導で店内に入ると店主にしては少し若いがしっかりした体格の男性が店番をしており、店の奥からはカーンカーンと金属を打つような音が聞こえてくる。 


「いらっしゃい。今日はどのようなものをお探しで?」


「どーも、こっちのお兄さんに合う武器をお願いしていいかしら?」


「おう、なら兄ちゃんはこっち来て手出しな」


「え?あぁこれでいいか」


「ふーむ、あんた剣なんか握ったことないような手だな、それにこの細腕じゃ使えて片手剣くらいか、戦斧や大剣なんかは使えねーよ、それでも良かったら見繕ってやるよ」


「あぁ、昨日冒険者登録したばかりでな、一応護身用ってレベルだからあんたに任せるよ」


「はいよ、ちょっと待ってな…」


 そう言って男は裏へと下がって1、2分後には数本の武器を手に戻ってきた。


「今出せるもんはこれだけだな」


 左からカットラス、ククリナイフ、片手剣、槍、鎚、ボウガン、などあらゆるものが並べられていく。


「正直こういうところに来るのも初めてだから、見ても良く分からないんだよな」


「もし、この武器を使いたいって理由がないのなら、それぞれ武器を握っていって気に入ったものにしたらどうだい?」


「そんなの事で武器を決めていいのか?」


「ああ、今まで握ったことがねぇなら尚更だ。何物にも染まってないのならむしろその方がいい。武器に主人を決めさせるんだ」


「へえ、そんな選び方もあるんだな」


 言われるがまま用意された武器を片っ端から握っていく。


「お?これにしようかな、なんか持ち手がしっかりしててすごく扱いやすそうだ」


 数本目を握った瞬間、手のひらに吸い付くような感覚があった。

 

「おう、そのショートソードが気に入ったのか、こりゃあいつも喜ぶぜ」


「あいつ?」


「あぁ、まだまだ修行中なんだが情熱だけはあるやつでな、まぁもし会うようなことがあれば紹介するよ」


「わかった、もしその時があったらよろしく頼むよ」


「あいよ、また来てくれよな」


 店内で色々見ていたらしいネロに声を掛けて外へ歩き出す。


「ネロお待たせ、武器も買えたよ、ありがとう」


「そ、良かったわね。なら行きましょうか」


「おう行くか!」


 さて、冒険者になったからには最低限揃えるべきものは揃えることが出来、これで万が一魔物に襲われても対処できるんじゃないだろうか。やるべきことは終えたはずだ。恐らく多分


◇◇◇◇◇


「さぁ、お兄さん準備は良いかしら」


 武器屋を出た後、ネロに「じゃあここからは私が予定を決めるわね」とネロに言われ連れられて来た場所は冒険者ギルドで、現在はちょっとした林になっているところへ立っていた。

 昨日扉を通った場所とはまた別の森へと続く道で、奥に行けば行くほど仄暗く感じる…


「で、なんでこんなとこに来たんだよ?」


「だってお金稼がないと駄目なのでしょう?冒険者になったのだからそれで生計を立てるのでしょう?私が連れてきてあげたのよ」


「それってまさか…」


「そ、お兄さんには今から魔物を狩ってもらいます!」


「いやいや、無理だって昨日登録したばっかりで剣も今日初めて持ったんだぞ!?」


「あ、ほら魔物が来たみたいよー頑張ってねお兄さん。私は先に行ってるから」


「おい!ちょっと待てよ!って本当に来やがった」


 言うが早いかネロは既に走り出しており、先ほど彼女が指を指した方向からはガサガサガサと茂みを掻き分けて近づいてくる何か。

 俺は先ほど買った新品のショートソードを構えて対峙しようとするが、出てきたのは小学校低学年~中学年程の身長の二足歩行の人だった。

 相手もこちらを発見して、右手に持った木の棒を向け警戒している。向かい合った状態で数秒の硬直状態が生まれた。 


「鑑定!」


 鑑定で調べた結果『ゴブリンLv3』と表示された。

 しかし俺の思っていたゴブリンとは何かが違っている、目の前に居るこのゴブリンは確かに人間とは違う薄緑色の肌で頭部には角がある。しかしそれを除くと頭髪だってあるし衣服もボロ切れだが纏っており、意外にも人間に近いのでは無いのだろうかなどと考えてしまった。

 そう考えてしまったが故にこの手に持った剣で切ることが躊躇われる。


「…っ、ぎゃぎゃぎゃ!」


 硬直状態を先に解いたのはゴブリンだった。彼(彼女?)が何かを叫ぶとさらに奥からもう数体のゴブリンが現れた。

 彼らは何事かを仲間内で話しながらジリジリとそのこん棒のような、はたまた石槍のようなものをこちらへと突き出し威嚇してきた。


「…やるしかないのか?くそっ」 


「ぎゃっ、ぎゃぎゃ!」


 俺が戦闘の意志を見せたからか、最初に姿を現していたゴブリンが仲間に何かを発して一斉に襲い掛かってきた。俺は腰を落とし剣を鞘へと戻し―


「ぎゃぎゃー!」


「やっぱり無理ー!!」


 来た道を全速力で戻っていくのであった。

読んでくださってありがとうございます。

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