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ショートショート4月~

幸せ太り

作者: たかさば


俺の家はね、それはそれは、お金持ちでね。


毎日たくさんの飯が出てくるんだよ。


子供のころから、朝は五品、昼も五品、夕食は十品も出てね。


色とりどりの野菜、おかず、汁物、デザート、とにかくすごかったんだよ。


ただね、すごく、すごく、おいしくなかったんだ。


毎日の食事の時間がね、いやでいやで仕方がなかったのさ。


食べないと親父が怒ってね。


無理やり食うんだけど、まあ、まずい。


そんなこともあって、早くから自炊をするようになってね。


初めて自分で飯を作ったのは三年生だったかな。


初めて作るからさ、失敗しないようにって、祈りながら作ったよ。


それがさ。


美味くてねえ!!!


本当に、美味かった!


あのときの感動があるから、今飲食店やってるんだけどね!


ただ、米をたいて、味噌汁作って、目玉焼きを焼いただけだったな。


目玉焼きの目玉はつぶれていたし。


味噌汁のねぎも、大きかったんだけどね。


いやあ、本当に、美味かったんだよ。


それで、なるべく自分で作るようになったんだけどさ。


親父がまたうるさいの。


豪華な飯があるんだから、それを食えってね。


俺はさ、あのまずい豪華な飯が食いたくなかったからさ。


将来料理人になりたいから、今後は自分で作らせてって頼んだんだよ!


いやあ、自分でもさ、うまい事言って逃げることができたと思ったね!!


それでさ、自分で作るようになると、何であんなにまずいもんが作れるようになるのか不思議になっちゃって。


あるとき母親の飯作ってるキッチンを、そっとのぞきに行ったわけ。


そしたらさ、なんかぶつぶつ、ぶつぶつ言ってんの。


なんだろうと思って耳澄ませたらさ。


「なんでわたしが。」

「なんでこんなめんどくさいこと。」

「なんでわたしばっかり。」

「こんなのつくりたくない。」

「やりたくないのに。」

「こんなのだいっきらい。」


すげえ怖いこと言ってんの。


もうさ、俺、そのときに気付いちゃったわけよ。


食べ物ってさ、人の言葉、絶対聞いてるって!


有名なパン屋さんがさ、おいしくなあれって言ってたじゃん。


アレね、マジなんだって!!


初めて彼女ができたときにさ、飯作ってもらったんだけどさ。


すんげえキモイ、生焼けのお好み焼き、出されてさ。


これ食えんのかなって思ったんだけどさ。


食ったらめっちゃ美味いの。


何でだろって思ったらさ。


その子、言うんだよ。


おいしく食べてもらえるように、お祈りしながら作ったって。


これからおいしいのいっぱい作るから、上手にできてねってお願いしたんだって!


そりゃ美味くもなるわ!!!


すごい食べ物いっぱい食わされてきたけどさ。


かみさんの料理はめっちゃ美味いんだよ!!


本当に美味いんだよ!!


だからこんなに太っちゃってさ!!!


これって幸せ太りってやつだよな!


いい太り方したよな!


俺、ずっと太いまんまでいいわ!!


がりがりだった子供時代より、貧乏だけど、めっちゃ幸せだわ!!!


がははははははは!!!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 柔軟な発想から人を引き込む、親しみの持てる作品だと思います。中ほどにある「食べ物ってさ、人の言葉、絶対聞いてるって!」がメインとなりますが、そこをさりげなく語り余計な説明をしない手法は、か…
[一言] 「幸せ太り」読みました。 うまいなぁ。 御作の中の食事の「美味い」のと、文章が「上手い」のと両方だけれど。 お金持ちでも愛情の無い料理と、それ以外の愛情を込めた料理では、やはり味が違うよ…
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