悲劇の場所
「悲劇の場所へようこそ。」
機械的な口調で語る表情だけを明るくした女性が空中投影機に映る。
現在において、「幸福の処刑場」「光の消失点」とされるこの場所は、正式名称に代わり通称として「悲劇の場所」と呼ばれている。
ここにはあらゆる悲劇が集い、救いようのない者達が収容される。集まった悲劇にも、収容された者達にも、決して恵みの朝は来ない。光は訪れず、深い闇の底に沈んでいくこと以外は許されない。
「職員番号0001。登録名称セノルで間違いありませんか?」
「間違いありません。」
「声紋認識を行っています。確認完了しました。本日の任務は第1エリアの監視です。」
「了解しました。」
ブレスレット型転送装置を起動し監視室へ向かう。
かつての日本でもっとも栄えていた都市である東京は、独裁的な男が君臨した日を境に悲劇の場所になった。一番輝いていた街は一番淀んだ街でもあった。人々の不満が集い、問題が集った東京は、悲劇の場所にするには一番の適所だった。
空想の悲劇は今でも美談とされているが、悲劇の場所に集うのは現実の醜劣さや人間の醜悪さだ。
人間で言うなれば「働かない者」「社会的に役に立たない者」「人を肯定出来ない者」等、人間としてどうしようもなく欠けている者達がここに収容される。ここに配属される職員もまた本人達に自覚はなくとも何かしらが欠けているという。つまりは僕も。
「はよっす。」
「おはよう。」
監視室に居た7番と挨拶を交わす。彼は昨日の担当で、僕がここに来るまで待機して引き継ぎをするのだ。そして明日になれば2番がこの部屋へやってくる。
「そういや、明日の2番は新人らしいっすよ。」
「あぁ、落ちちゃったんだ。」
「盲目の女の子と仲良かったっすからねぇ。」
オレもいつそうなることやら、と呟く7番の目に悲しみが見て取れないあたり、2番は望んで落ちたということなのだろう。
そして目の前の7番にも、恐らく下に想い人が居るのだろう。
「んじゃオレは帰るんで。頑張ってくださいね~1番さん。」
「おつかれ」
職員番号0528。
きっと彼も近いうちに居なくなる。
二年前に書いた話。




