感情の花畑
感情と記憶というものは、伴って長続きはしないものらしい。それを実感するようになったのは階層一面に広がる花の世話をするようになってからだ。
心象世界に生まれ、ユリに人間の全てを教わってしばらくして、花畑の世話をする仕事を彼によって与えられた。
怒りの赤、悲しみの青、喜びの黄、楽しみの桃、憂いの紫、知識の白、その他何色か。
入れ替わるように咲いては枯れてを繰り返す花々は、心象世界の主が覚えた記憶と感情の結晶だ。
勝手に咲いては散る花の世話などたいしたものはなにもなく、やることと言えば花の記録をとるぐらいで、世話人とは名ばかりの仕事だ。
見始めは絶景とも呼べる花畑は慣れてしまえば特にこれといった感動もなく、当初は迷った同業者の作業場までの順路も今となっては長さに辟易するばかりの道となった。
日常業務は変わりばえすることなく、訪ね人もない日々は時たまの溜息ばかりで過ぎて行く。
そう思っていた。
突然一掃されたように消えた花々とあらわになった地表面の土色。異変に思わず外に飛び出して辺りを見渡すが、あれだけの色の全てが一色になってしまっている。
いや、視界の端にわずかに違う色が見えた。
「人、か・・・?」
見覚えのない、青年の顔。突然消えた花畑と突然現れた青年。関係がないとは言わせない、まさかとは思うが、この青年は。
「えっと・・・ここってどこか、分かるかな?」
この青年は、心象世界の主かもしれない。




