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墓場と白。

[おまけ]先生と病室。

作者: 劣

「墓場と白。」のおまけのお話です。


こちらを読む際には、

本編である「墓場と白。」をお先にお読みになる事をお勧めします。


本編ネタバレが含まれていますので、

お読みになる際にはご注意ください。


「本当に何しに来たの?」


俺は特にする事なく、

だらだらと空いているベットで横になっていた。

そんな俺を見て呆れ笑いの先生。

今日は先生とリュウの着替えを持ってくるため、

カエデと朝早くから病院に来た。

白燈ハクヒはと言うと、家でお留守番。

ちび達もいるし、シスターの手伝い係になった。

本当は3人で行くつもりだったのだが、

交通費がかかるからと2人までしか行けなくなった。

公平にとじゃんけんした結果、勝った俺とカエデがこうして来たのだ。

白燈ハクヒ、すっごい悔しそうだったな〜。


「先にカエデリュウのとこ行くって言うから。

じゃあ俺は先生とこ行くってなった。」


「いや、2人で行動するっていう選択肢はなかったの…?」


だってカエデがそうしたいって言うから。

そう思ったが、言葉にはしなかった。

俺だって2人で動けばいいじゃんって思ったし。

でもカエデの顔があまりに真剣だったから。

何も、聞けなかった。

まぁ俺は実際に何度も深入りしないという、

カエデの優しさに救われた1人だし。

なのに俺だけずかずか聞くなんて、そんな無神経な事出来ない。

荷物は全てカエデが持ってるから、

俺がする事なんて本当に何もない。


「まっ!いいじゃんそんな事。

それより怪我の具合どうなの?もう痛くない?」


「あぁ。薬が効いてるってのもあるけどね。

痛みはほとんどなくなったよ。」


ベットから身体を起こすと、先生がこっちを向いてにっこりと笑っていた。

まぁ痛みもないのなら、後は検査だけだからな。

怪我をした当時はどうなってしまうんだろうと、

絶望を感じていた。

だが今こうして先生は笑っている。その事がどれだけ幸せな事か。

先生が話す度、笑う度に実感する。


「あ、そういえば。

先生って猪倉イノクラさんと面識あるの?」


「え?あ〜、昔何度か会った事はあったけど、

特別話したりはしなかったかな。 優司ユウジさんと

麗子レイコさんの知り合いっていう認識があっただけだよ。」


先生の話にも、出てこなかった訳だ。

まぁ先生と猪倉イノクラさんの面識があったからといって、

別に問題とかはないんだけど。

すると先生の表情が真剣になった。


「僕も聞きたい事があるんだけど。…“あの2人”の

処分について、 猪倉イノクラさんへの返事を

保留にしてるって本当?口出しするつもりはないんだけど、

意外だったしどうしてかと思って。」


「あ〜…。」


その話か。俺はまた空きのベットに横になる。

先生は俺たちにとって保護者の立場だし、

そりゃ猪倉イノクラさんが話さない訳ないか。

まだこんな風になる前だったら、

牢屋に入れるとかって即答してたと思う。

猪倉イノクラさんには自分の子供であろうが

犯罪を犯した事は消えない事実だから遠慮しないで欲しいと言われた。

俺も別に、 猪倉イノクラさんに遠慮した訳じゃない。

本当に、悩んでるんだ。

牢屋に入れてしまえば、簡単だと思う。

だけどそれで本当に、正解なのか。


「牢屋に入れるだけが、全てじゃないと思った。

それにあいつらがどれだけ時間をかけて反省して、悔やんでも。

俺はあいつらを一生、許すつもりはない。

どんな事情があろうと、俺の両親が殺されていい理由はないから。」


「…。」


黙って俺の考えを聞いてくれる先生。

先生から聞いた両親の話を思い出すと、心臓辺りが痛くなる。

もし、もしも。俺の今の姿を見たら、どう思うか。

胸を張れる程、綺麗な生きた方を出来ているだろうか。

俺は1度、自分から周りと距離を置いた。

みんなの優しさに気付けず、傷付きたくないという自分勝手な理由で。

それでもみんなは俺を1人にしなかった。

面倒な奴だと投げ出さず、俺のペースを待ってくれた。

だから俺も、投げ出さない。


「牢屋に入れるのは簡単だけど、心を更生させるのは難しい。

考えを改めさせても俺の両親が戻ってくる訳じゃない、でも。

これ以上俺みたいな、 白燈ハクヒみたいな人が増えないために。

俺馬鹿だけど、馬鹿なりに考えたいと思ったんだ。」


「…そっかぁ」


先生は一言、呟いただけだった。

俺は先生の顔を見る事は出来なかった。

俺なんかよりずっと、先生の方が辛い思いをしてきた。

なのに先生はいつも、俺の意見を尊重してくれた。

もしかしたら殺したいほど、憎んでいるかもしれない。

何ぬるい事やってんだって、思われててもおかしくない。

いい、なんて思われてたって。覚悟してる。

俺は俺の意思を強く、持っていたい。

黙ったまま身体を起こす。先生の顔を見る勇気はまだない。

俯いていると先生が両手をこっちに広げたのが分かった。

気付いた瞬間にもう、身体が動いていた。


感じるのはお互いの体温。

強く強く、でも優しく。抱き締められた。

我慢していたつもりはなかった。

けど糸が切れた様に、涙が溢れた。

先生の身体も震えていて、泣いている様だった。

しばらく何も言わず、ただ泣いた。

2人とも子供に戻ったかの様に。沢山泣いた。

先生が俺に対して、不満を持っているという考えはなくなった。

しばらくすると涙も落ち着いて、抱き締める腕を離した。

俺は顔を洗うと言って、病室を出た。

目の辺りが少し痛い。腫れるだろうなぁ。

病室を出るとカエデが壁に寄りかかって座り込んでいた。


「…何してんだ。」


「ん〜?いや別に?」


分かっていたけど、聞かずにはいられなかった。

カエデは返事を濁す。

きっと中から泣き声が聞こえたんだろう。

終わるまで、待っていてくれたんだ。

俺はどれだけカエデに気を遣わせたら気が済むのか。

カエデの手には先生の荷物しかない。

もうリュウとの話は終わったんだろうか。

カエデは俺と入れ違いで先生の病室へ入っていった。

俺もリュウのところへ行かないと。

…その前に顔を洗おう。


俺はまた少し軽くなった心と腫れた目で、

リュウの病室へ向かった。


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