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陽あたりのいいパティオ1〜ももとさくらは人類最強です〜  作者: 赤木爽人
第2章 中道商店街の人々
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 今はとある日の朝7:15。

 神馬茂ファミリーは茂パパとかえでママ、ももとさくらの四人で二階建ての一軒家に住んでいる。カエデママのお腹には予定日が近い三人目の赤ちゃんがいる。


 二階の南側にある部屋が、ももとさくらの部屋だ。

 部屋数は家族の人数以上あるのだが、まだ小さい二人は二段ベッドを置いて、同じ部屋を二人で一緒に使っている。一つだけある窓にはまだカーテンが閉められていた。

「ももおきて、ごはんごはん! 」

 薄暗い部屋の中でさくらが二段ベッドの階段を上がってももを起こしにきた。

 こういうところは、年長組のさくらの方が小学四年生のももよりもしっかりしている。

 すっかり着替えも終わって幼稚園のお支度も完璧に終わらせていた。


「えっ、わぁもう7:15だ。早く着替えなきゃ」


 ももはそういうと、布団を放り投げ、枕元に置いておいた着替えを手に取る。さくらはももを起こして二団ベッドの階段を降りると、カーテンに向かって小さな手をチョンチョンと動かした。

 すると、一枚がけのカーテンが弾かれて窓の半分まで開いた。

「うーん、もう一回」

 チョン、手を動かす。シャッ! また少し動くカーテン。

 精度の問題だ、カーテンを弾いて一度で開けてみたいのだが、まだまだ、練習が必要みたいだ。

「えーっと、ほい」

 チョン! シャッ!

 カーテンが全開になると朝日が燦々と部屋に射し込んできた。

 満足気な表情になるさくら。


「えへへ、さくらは先に下に行ってるよ」

「うん、すぐ行く」

 さくらは走ってドアに向かうと部屋から出て行った。


 ダイニングでは父親の茂が朝のニュースを見ていた。さくらがくると挨拶をかわす。

「さくら、おはよう」

「パパおはよう、ままー」

 キッチンに立っているママのところにかけていくと、後ろからムギュとしがみつくさくら。

「ママおはよう、赤ちゃんもおはよーねー」

 さくらは大きいお腹をスリスリ触った。

「はい、おはよう、赤ちゃん元気ですよー昨日もキックしてたよ」

 かえではそういうと料理の手を休め、さくらの手を包み込む。

「うふふ、楽しみですねー」

「さあ、ごはん、ごはん」

「うん」


 さくらはダイニングテーブルの自分の席──子ども用に座面を高くして、階段がついた椅子によじ登る。

 食卓には目玉焼きやサラダなどが並べてあった。

 茂はテーブルを挟んで反対側の椅子に座っていた。

「あれ、ももは? 」

「着替えているよ、もうくるんじゃない」

 と、シュパッ! さくらのとなりの椅子に忽然とももの姿が現れた。こういうとき瞬間移動は便利だ。

「パパ、ママおはよう」

「ああ、またやった…おはよう」茂は続ける。

「外では使うなよ、誰が見てるかも知れないから」

「わかってるー」


 ももとさくらの家は中道商店街のアーケード街に隣接した、こじんまりとしたビル街の真ん中に建っている。

 真っ白な洋館で、バルコニーがあり、一階にはデッキがあり、出窓や木製の重厚な扉など、それはそれは美しい建物。

 これは、ごんちゃんの提案でももが生まれる少し前に建てられた。

 しかし、ただの建物じゃない…ごんちゃんのアイデアもしくはイタズラ心がいっぱい詰まった要塞でもあるのだ。

 でも、ごんちゃんはここには住んでいない。町の外れに大きな畑があって、その横に建てられた、古民家、そこが代々伝わる神馬家の本家であり、妻のすみれおばあちゃんと二人で住んでいる。ごんちゃんは畑仕事をしながら、町長の職務をこなしている。

 ごんちゃんのもう一つの職業である不動産屋は、社長の座を息子の茂に譲り、自分は会長になり、実務には口出ししない事にしている。


 ──さてその美しい洋館は、サッカーのピッチくらいの広さの敷地の隅に建てられていた。

 敷地は四方を林に囲まれて、一部は畑として使い、花壇や芝生の広場が作られている。芝生広場は敷地の半分ほどの大きさだ。


 だが、その姿は簡単に見ることができない…。


『いってきまーす』


 玄関から二人が勢いよく出てきた。ももがさくらを幼稚園まで送っていき、その後に小学校へ登校するのだ。

『いってらっしゃーい』

 かえでと茂が二人して玄関で見送った。

 二人は門までの道を、手を繋いで駆け抜けていく。朝の日差しがキラキラ眩しい。

 門のそばまで来ると、ももはリモコンのスイッチを押す。

 すると、

 ──ゴゴゴ…

 丁度乗用車が一台通れるくらいの幅の重厚なシャッターが開いていく。

 ももとさくらは開ききる前にシャッターをくぐり外へでる。そして外にでると再びリモコンを押す。

 すると、シャッターの開閉が止まり、ゴゴゴ…今度はゆっくり閉まっていく。


 シャッターはビルとビルの間に挟まれるようにして作られている。

 両方のビルの壁にレールが取り付けられ、そこをシャッターがスライドする仕組みだ。勿論、どちらのビルもごんちゃんの持ち物だ。

 シャッターをくぐった二人は、ビルとビルの間を20メートルほど進んで通りに出る事になる。

 初めてこの辺りに来た人には、ビルの奥に小さな公園のような大きさの庭があって、そこに洋館があるとは分からないだろう。

 なぜなら、この敷地の西側には10階建の町役場が建てられ、北側には町の備蓄倉庫が建てられ、東側には10階建のオフィスビル、南側には門に隣接した10階建の二つのビルが建っているのだ。

 つまり、敷地の周りがすっぽりビルに囲まれて外からは一切中の様子がわからない。


 そう、中庭のような作りになっているのだ、だから地元民はこう呼んでいる。


 ──中道商店街のパティオ。


 それだと陽が入らないように思えるが、そこはごんちゃん、四方の建物の屋上にコンピューター制御の反射板を設置して、中に光りを取り込む仕組みをつくった。反射板は上下左右全方向可変自在なだけでなく、凸面鏡や凹面鏡にする事もできるのだ。

 だから、明るくするのも暗くするのも自由自在。

 普段は陽あたりよくしてるのだが…。


 中道商店街のパティオの唯一の出入り口であるシャッターを出て、右に建つビルの二階以上は住居になっていて、一階には新垣仁いながきじんの経営するキャバクラが入っている。

 息子のたもつはももと同級生だ。


 ──ダダダ…


 仁と保は、いつも競いあうように最上階の自宅マンションから階段を走って降りてくる。朝の階段降りレースだ。

 仁に言わせると体力作りの一環なのだが、保はよくわかんないが付き合ってあげている、仁があまりにも嬉しそうだから…。


 ──バン!


 エントランスに降り立つと自動ドアのステップを踏む。

 今日は保が先に踏んだ。

「うわぁ! またやられた」

「父ちゃんおっそー」

 仁は悔しい。

 二人して外に出ると、ももとさくらが待っている。

「たもっちゃん、仁さんおはよう」

 ももがそういうと満面の笑みになる仁。

「ももちゃーん、さくらちゃーん今日も保をよろしくねー」

「おはよう! 」さくらも挨拶する。

「おはよう、行こう! 」

 保がそういうと、二階三階の部屋を借りている仁のお店で働くキャバ嬢たちが数名バルコニーに出てきた。

「きゃーたもっちゃん、いってらっしゃい」

 口々に声をかける。

 仁はかえでと同級生で幼馴染、32歳の精悍なタイプのイケメンだ。その子どもの保はやはりイケメンの素質を開花しつつある。そのため昨今ではキャバ嬢たちのアイドルと化していた。

 すると仁は大声をあげる、いつもの事だ。


「ようし、今日もいくぞーせーのー」


『勝つべし!!! 』


 その場にいる全員で、声を揃えると拳を天に振り上げた。もも、さくら、キャバ嬢、保も全員だ。


『いってきまーす』

『いってらっしゃーい』


 と、隣のビルの三上伸みかみしんがホウキとチリトリを持って、エントランスから出てきた。しんもかえでと同級生で、左のビルの一室に住み、一階でホストクラブを経営している。

 仁とタイプは違い、優しいタイプのイケメンだがまだ独り者だ。


 朝のこの時間、店の前を掃除してコンビニに行くのが日課だ。

「お、もも、さくら、保、いってらっしゃい」

『おはよう』3人が声を揃える。

「伸さん今日も二日酔い? 」保がいう。

「ああ、頭痛てぇや」

「飲み過ぎに気をつけてねー」

「ありがとうよ」

 3人は伸の店の前を走り抜けていった。

「ふん、このウワバミ男は体だけは丈夫だから、殺したって死なない! ガキの頃から食えない奴だったからな」

 じんが呟く。

 だが、しんには聴こえていた。

「なんだと仁、独り言はもっと小さな声で言いやがれ、久しぶりにボッコボコにしてやろうか? 」


 ホウキとチリトリを投げ捨てると、仁を睨みつけた。伸も負けじと睨み返す。この二人は高校時代相当やんちゃをしていた。向こうっ気も腕っぷしも強いのだ。


「うっせー伸、ボッコボコにされてたのはお前だろうが! 最後にはいつも辞めてーって泣き言言いやがってよ」

「なんだと仁、やるのかこの野郎」

「おうよ伸、上等だ」

 と、バルコニーから二人のやりとりを見ていたキャバ嬢たちが声をあげる。

「きゃー伸さん私をボッコボコにしてー」

「いやいや、私ー今から部屋に来てー」

「ダメよ伸さんは私のものよー」

「伸さんにならボッコボコにされたいわー」


 イケメンのホストクラブの社長は、キャバ嬢にかなり人気だ。


 黄色い悲鳴が湧き上がると、伸はそそくさと落としたホウキとチリトリを拾い、真っ赤になってエントランスに駆け込んだ。

 伸は女好きのくせに素面しらふだと照れ屋なのだ。


 仁はそんなキャバ嬢たちに向かって顔を上げる。


「俺の方がいい男でしょう、社長の俺が相手にしてやろうか、仕方ない、私の胸に飛び込みなさい」

 キャバ嬢たちは一斉に冷たい視線を投げかけると、バルコニーのドアを締めて中に入ってしまった。


「……冷たいのね」


 仁はそう呟くと、肩を落としてとぼとぼエントランスに戻っていった。

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