3-2
先輩に勧められ、二人で茶を飲む。
この人が、有栖花都先輩…。
高校生3年生にして、小説家でもある。ジャンルは純文学。既に大学の文学部への推薦入学の話が数件来ているらしいが、本人はこのまま作家になることを望んでいるとか。
今は次回の芥川賞を狙うために新作を執筆中らしい。
話を聞くだけであきらかに住む世界の違う人間である。
そして…見るからにズボラな人である。
長い髪はボサボサで目にはくま、上下スウェットで額には冷えピタが貼ってある。
部屋も昼間からカーテンを閉めており、机の灯りだけが光源で薄暗い。部屋もゴミ袋がたくさん溜まっていた。
「ごめんなさいねこんな部屋で、いつもはもう少し綺麗なんだけど…」
これが多少マシになったところで綺麗になるんだろうか。
「で、あなた達の話は市川先生に聞いたわ」
早速本題に入る。
「はい、実はこのたび映研を復活させるためにシナリオライターを探しておりまして…」
「けど、私はやらないわよ」
もう返事がきた!しかも断った!
「え…そんな…」
「私、せっかくそのためにわざわざゴミ屋敷にまで来たんですよ!?」
おい、余計なこと喋るな白百合。
「市川先生には以前お世話になってね、にべもなく断れないから話を聞くことになっただけよ。それに、この状態を見れば多少は事情も理解してくれるかと思おって」
確かに…部屋は惨状である。とてもこんなクールな人が生活する環境に見えない。
「それに、私芥川賞を狙うために忙しいの。聞いてるでしょ」
それは聞いた。ここは編集部から缶詰用に用意された場所であることも。
「あくたがわ?がなんか知らないけど、それってそんなに重要なんですか!?」
おい白百合ー。もう勘弁してくれー…。
「あら、もしかして知らないの芥川?昔教科書で羅生門とか蜘蛛の糸とか」
「…なにそれ?ラーメン屋?」
「白百合ー。話が逸れるからもう喋るなー」
静止するも、ギャーギャー騒ぐ白百合を無視して会話を続ける。
「…何しに来たのこの珍獣は…」
「すみません、ちょっと脳が…」
有栖先輩は白百合をジロジロ見つめた。まるで珍しい生き物でも見るように。
「な、何よ…?」
「もしかして、この子主役なの?」
「ええ、一応そのつもりですが…」
「ふーん…あっそ。大変そうね」
白百合が再度暴れ出した。
その言葉に、俺はちょっとイラついた。
「先輩、それは失言です」
先輩のまゆが、ピクリと動いた。
「先輩はここで見た白百合を見て言ってるんでしょうけど、こいつは実はそんなに粗末な扱いしていい奴じゃない」
言いながら、俺の瞳の奥がジリジリ痛むのを感じた。
思わぬ発言に、白百合もどうしていいかわからない風だった。
「…」
再度、有栖先輩が俺達を品定めするように見ると、頭をかいてから大きなため息をついた。
「…確かあなた達、奉仕部でもあったんですって?」
俺と白百合はキョトンとした。
次の日、俺は威嚇する安藤を尻目に再度有栖先輩の家に来ていた。
「…まさかの奉仕部再開か…」
先輩の提案は「検討するかわりに家事をしてくれ」というものだった。
そこまでやってようやく「検討」なのかと思うとうんざりするが、正直これ以上宛もないのでしょうがない。やるだけやってダメだったらその時諦めようと思う。
「まったく、私に雑用させようなんて何様のつもりかしら」
正直、白百合は連れてきたくなかったが、有栖先輩から「絶対に白百合にも作業をさせること」と命令があったのだ。
こいつ役に立たないどころか、足を引っ張るだけなのに。
呼び鈴を鳴らすと、先輩が出迎えてくれた。
「じゃあ私は作業部屋にいるからてきとーにやっておいて、じゃあね」
とだけいうと、再度部屋にこもってしまった。
兎にも角にもまずはごみ捨てだろう。
ゴミ袋に弁当の空箱やペットボトルをまとめていく。
「しっかし汚い部屋ねえ」
と言いながらスマホをいじってる白百合。
ゴミを適当にどけてソファーに既に寝転んでいた。お前もよくこんなゴミ溜めの中で寝ころべるな。
「いいからお前も仕事しろよ」
「何よ、演者に雑用させる気?」
どこでそんな言葉覚えたのか、余計な知恵ばっかつけやがる。
「アホか、そもそもシナリオが無けりゃ映画撮れないんだぞ。まだ撮影にも入ってないんだから今のお前はただの一般人だ」
「ちっ…わかったわよ」
しぶしぶ動き始める。
「とりあえずゴミは俺がまとめるからお前は脱ぎ散らかしてる服とかをまとめてくれ」
はいはーいとやる気のない返事…。
とその時、なにかの視線に気付いた。
感じた先を見ると、それは先輩の仕事部屋だった。その扉は閉まっている様に見える。しかし、先程かすかに開いて覗いているのを感じた。
先輩は俺たちを疑って監視でもしているのか?執筆を放って置いて。
「ねーねー見てよ諏訪。有栖先輩めっちゃ巨乳よ巨乳!」
白百合が落ちていた下着を着用していた。
…まぁ、こんな様子では監視もつけるか…。