第二十七話 『ヌル』化、開始
習慣となっているランニングを終えた一方で、『ミラー』は何かしらの決意というか覚悟をした様子だったので何かが変わったんだなと思う様にして、レイジは、『ミラー』と共にミハエル達の所に戻った。
と戻ってみると、
早速、
「あぁ、おかえり、レイジ」
早速でアレだけど、
「一応、形だけはこんな感じでやってみたんだけど、どうかな?」
とミハエルに言われた。
なので、一応見てみると、
『……なんでVの字じゃなくてYの字なんだ……?』
「ってか、これYの字じゃなくてVの字の下のとこを伸ばした感じじゃね?」
Vの下の部分が何故か伸びていた。
いや、見方によってはそう見えるだけで、
見方を変えれば、違う見方になるのではと思い、
見る方向を変えてみたりしてみたのだが、
……やっぱりYだよな、これ……。
どう見てもYにしか見えなかった。
それに、
「しかし、元が『撃雷』だから、なんかパチモンにしか見えねぇな……」
元が違うのだから、そこは仕方ないとは思うのだが、
どう見てもあべこべ……、
微妙な感じにしか見えなかった。
まぁ、やってみようと言ってやってみてもらったのは、こちらなので、
あまり変なことは言えないのだが、しかし、
……でも、Yの字だよな……。
そういう所があるのだから、やはり一つ気になるところがあると、どうしても気になってしまう。
なので、
『あ~……。親父殿、一つ訊きたいんだが』
「うん? 何かな?」
……いや、何かな? じゃねぇんだけどなぁ……。
『何でこれ、Yの字? Vの字じゃねぇの?』
「……あれ? これ、違うのかい?」
『ちげぇよ』
「いや、一応、君たちの意見を参考に作ってみたんだから、同じじゃないのかい?」
『ちげぇよ』
……いや、同じとこは同じなんだけどさ……。
違うモノは違うと言っておかなければ、これはいけない。
そんな気がしたレイジだった……。
故に、
『俺が言ったのは、Vの字』
で、
『これは、Yの字』
つまり、
『全然違う』
「……別物?」
『Yes,別物』
「……いや、でも、これでもイケるんじゃ……」
『親父殿』
「えっ?」
『これ、俺言ったのと、違う』
「……でも、その方がカッコイイんじゃ……」
『Vの字の方がカッコイイ』
「ロマンもあるしな」
ほとんど入ってこなかった『ミラー』が、
同意をするためだけに入ってくる。
それが大きかったのかもしれない。
ミハエルは渋々ながらも、
そしたら、削るか……、削った方がいいのか? 最初から作った方が早いんじゃ……、
と呟きながら、向かって行った。
『悪いな、「ミラー」』
「なぁに、気にするな。『ヌル』ちゃんがカッコよく戦えてその姿をおいちゃんが見る、ただそうしたいだけなんだからな」
そう口にする『ミラー』だったが、レイジが救われたのは事実だ。
だから、
『だとしても、だ』
あぁ、
『助かった。恩に着る』
言っておく。
そう言われたことに対し、
『ミラー』は、軽く頬を掻くと、
「って言われると、なおのこと気にするな、って言いたくなるのは、悪いことかねぇ……」
『俺も言いたくなる』
「へぇ…… そんな時、どうすんのよ、『ヌル』ちゃん?」
『気にするな、って言っとくかな』
「あ~……。 『戦場』をやってた癖が抜けねぇなぁ……」
『その分やり易いし、自分の言いたいことを伝えやすい』
あぁ、
『俺の場合は、やっててよかったって思うけどな』
「まぁ、おいちゃんも『ヌル』ちゃんや『ダガー付き』と出会えたのは『戦場』をやってたからだし、別に悪いなぁ……、とは思わんがねぇ……」
だけどねぇ、
「この癖は治そうって思ってても治りそうにゃないのがなぁ……」
『そう思う分だけ、長かったってだけだろ』
或いは、
『それだけ自分が充実してたかって話だと思うけどな』
そう口にするレイジに対し、『ミラー』はうんうんと何回か頷くと、
何かを思い出したかのように、
「ってか、よ。『ヌル』ちゃん」
『なんだ、「ミラー」?』
「それ、『疾風』だろ?」
『元になってるのは、「疾風」みたいだな』
「ってなると、『撃雷』と『疾風』の2つはあるのか……」
でも、
「なんで、その2つ? ほら、『龍王』とか、『撃雷改』とか、他にも色々種類はあんだろ?」
『あ~……。それは俺もよく分からん』
だけどな?
『親父殿が言うには、視て参考にしたんだと』
「視て?」
『そう。視たんだと』
「ってぇっと、あれかい? 一応、他の世界を観測して確認する術があるってことかい?」
『「シュレティンガーの猫」解釈の並行世界観測じゃね?』
「あ~……、な~る」
そう言えば、
「『ヌル』ちゃんは『多世界解釈』って知ってる?」
『聞いたことはあるけど、ぶっちゃけ分かりにくくてな……』
「分かる。おいちゃんも一回調べてどんなものか分かろうとしたんだけど、あれより『シュレティンガーの猫』の方が分かり易いんだよなぁ……」
『一応、「シュレティンガーの猫」が平成ライダー前期、』
特に、
『龍のヤツな。アレのTV通常版、TV特別版、劇場版が「シュレティンガーの猫」なんだよな。エンディング違うし』
で、
『平成ライダー後期の劇場版が「多世界解釈」……、じゃなかったっけか』
いや、
『俺も大体そんな憶え方で、あっそれは違うわって納得したけど』
「文字にされると分かりにくいけど、言葉で説明されると分かりやすいな」
ってか、
「それ言ったら、ライダー作品が『シュレティンガーの猫』で、ウルトラが『多世界解釈』じゃねぇの?」
『劇場版のティの字とダの字とガの字、3人のやつか……!!』
「ティの字とダの字は、ティの字の後がダの字だから本来関わり合いがないんだけど、映画で3人が会って戦うんだよな!!」
『俺、あの劇場版の本が欲しくてだいぶ探したんだけど、高知はよくてラノベしかなくてな……』
「おいちゃんも探したんだけど、全く見つけられなくてな……」
『ってか、だいたい小説であるのがライダー系しかないっていうな……。アレってウルトラ嫌いの人が多いってことかねぇ……』
「いやいや、おいちゃんもウルトラは好きだから多いってことはないだろ。ティの字のオープニング」
ほれ、
「最終回のラスボス戦時に流れた時なんか、おいちゃんも光になってたもんさ」
『分かる。俺もテレビの前で俺も光になってたからな……』
「そうなると、嫌いになるって人は少なくね? ここに、もう既に光になった人間が二人もいるんだぜ?」
『それだけ、ティの字にハマったってことだろ? ……でも、売ってねぇんだよな……』
「現実は悲しいもんだ……」
『泣けるぜ……』
「まぁ、メの字のウルトラ8兄弟も良かったけどな」
『あぁ、あれは最高だったな……』
でも、
『あれは「シュレティンガーの猫」と「多世界解釈」の合わせ技じゃね?』
「いや、それは違くね?」
『おいおい、ティの字とかは普通にサラリーマンやってたりしてただろ? メの字が来てティの字は変身できたけど』
「あ~……。ダの字が野球選手になれなかったのがなれたっていう世界線のやつか……」
『ガの字は物理学者目指そうと……って感じだな』
「そうなると、なり得なかったもう一つの可能性的な感じか……」
『やっぱり、「シュレティンガーの猫」と「多世界解釈」の合わせ技だろ?』
「オの字の時には、ティの字の力を借りたりしてたけどな」
『オリジンでガの字とダの字に会えてたから、一応、三部作メンツには会えてんだよな……』
「でも、テレビじゃやってないんだよな……」
『それは言うなよ……』
と2人で肩を下げていると、
唐突に『ミラー』が何かを思い出したかのように、
顔を上げた。
「そう言えば、『ヌル』ちゃんよ」
『おぅ、どうした「ミラー」』
「今のお前の……なんだっけ?」
『「シュツルム・アインス」?』
「そうそう、それそれ」
それよ、
「なんかカスタマイズとかされてんの?」
いや、
「あの……、なんだっけ……、ほら、あれよ、あれ」
『「シュバルツ・アイゼン」?』
「そうそう、それそれ」
それを、
「今、手加えて改良してるんだろ?」
ってなると、
「その機体も改良加えられたりしてんじゃねぇかなぁ、って思ったんだけど」
『ミラー』に言われ、
レイジは考えてみる。
確かに何回か戦闘は行っているし、
その度に改良は加えられたりしている。
とは言っても、
……前回はフェンリルさんにボロボロにされたしなぁ……。
元に戻すとは言ってもある程度改良はしなくてはならないだろう。
ふむ、そう考えれば、
思い当たる点が一つある。
それは、
『改良……なのかは分からんが』
「おぅ」
『少し、軽い……気がする』
「軽い?」
『若干な』
走っていて気が付いたことだが、
フェンリル戦の前に走った時と、
それ以降、
正確には少し前に走った時と、
その二つを比べての感じを言葉にするなら、
そうではないか、と直感で口にする。
とは言え、
……ただの勘なんだよなぁ……。
何となくそう感じただけなので、
違うといわれれば、何も言えないわけだが。
と、『ミラー』は何かに気が付いた様で、
「改良が加えられてるってことは、一応、それも違う名前が必要だよなぁ……」
口にする。
『名前?』
「そうそう」
ほら、
「鬼神も最初はVから始まるだろ? で、グレート、カイザーって名前が変わってんじゃん?」
『ゲイザーロボも無名、ドラゴン、真、真ドラゴン、ネオ、新、って変わってるからな……』
「それだったら、名前の方も変えた方が改良型ってので分かりやすいじゃん?」
『分かる』
でも、
『勝手にやって親父殿が何も言わねぇと限らねぇんだよなぁ……』
「あ~……。手加えてんの、ミハエルさんだもんな」
そりゃ、
「勝手にやったら怒られるし、出入り禁止になっちまう」
そうなったら、
「そうなったで、おいちゃんも困るしなぁ……」
ほら、
「狙撃銃も改良しないといけないしな」
『互いに改良点が多すぎるってのも困りもんだな』
「まぁ、おいちゃんの場合は、『ヌル』ちゃんより少ねぇよ?」
だって、
「弾丸入れる口作って、ケツ叩けるように撃鉄取り付ければいいだけだから」
『だけって言っても、そこが調整難しいだろうがな』
「おいちゃんも詳しくは分からねぇからなぁ……」
ま、
「多少は調整なりで時間が掛かるだろうけどな?」
で、
「そういう意味でも、それの名前ってどうなってるんの?」
『すげぇ寄り道してから戻ってくんのな』
「戻らねぇと行ったっきりでまたどこか行っちまうからな」
『それは確かに』
でも、
『どうなってんのかまでは、分からねぇんだよなぁ……』
「今の『ヌル』ちゃんのが『シュツルム・アインス』で、それがぶっ壊れた」
って、
「そんな話で大丈夫かい?」
『それを改良して元に戻したのが、これだな』
「う~ん……。『アインス』は1って意味だろ? ってなると、その改良型だから……2か」
ってことは、
「『シュツルム・ツヴァイ』ってことかになるのかねぇ?」
『それ言ったら、「シュバルツ・アイゼン」の方は如何なんのって話になるわけだがな?』
「改良と言っても、本格的な改良は今回が初だろ?」
『そうなるかな』
「ってなると……だ。『ヌル』ちゃんの名前から、『シュバルツ・アイゼン・ヌル』とかになるんじゃね?」
『じゃあ、それを改良したら、「シュバルツ・アイゼン・ヌルグレート」になんのか?』
「それだったら、グレート、カイザー式で、『シュバルツ・アイゼン・グレート』でいいんじゃね?」
『ヌル、グレート、ヌルグレート……って感じか』
「あぁ……、そんな感じだな」
成る程、成る程、と『ミラー』は納得した様に頷く。
そんなことを話していると、
「レイジ、一応終わったんだけど、見てもらえたりするかな?」
ミハエルから声が掛けられた。
……いくら何でも早すぎねぇかなぁ……。
早すぎる気がするなぁ、とぼやくやきながら向かって行くと、
「どうだい?」
『……Vだな』
胸の文字がきちんとVの字になっていた。
それを見て、
レイジはふと思う。
『……そう言えば、親父殿』
「うん? なんだい、レイジ?」
『こいつの名前とかどうなってんの?』
いや、
『さっき「ミラー」と話してたんだが、バージョンが……』
というより、
『仕様か。仕様が変わるんだったら、名前も変わるんじゃないのかって話になってな。ふと気になっちまってな』
「あぁ……。言われてみると、今までのものより形が変わるからね。それだったら、名前を変えた方がいいんじゃないかってのは分からなくもない……んだけど」
でも、
「どんな風にするのかな?」
『あの龍の野郎に改良したのが勝てるかは分からん。また負けるかもしれん』
だけど、
『「ミラー」と話してとりあえず出たのは……』
そう、
『「シュバルツ・アイゼン・ヌル」って名前だな』
「『シュバルツ・アイゼン・ヌル』……。おぉ、なんかカッコいいね!」
『まぁ、今までのヤツより少し変わるから、今までの名前を残しつつ、付け加えたってだけなんだけどな』
「成る程、成る程……。う~ん、そうした考えはなかったな……」
『んで、今のこれ』
これと言って、レイジは自身の身体を叩く。
『さっき走った感じだと、ちと軽い』
ってなると、
『今までの名前だと変になるんじゃね? って話になってな』
ほら、
『変更点があるんだから、名前も変えないといけないだろ? 変わったんだから』
「成る程。それは言えてるのかもしれないね」
『ってなると、「シュツルム・アインス」じゃなくて、「シュツルム・ツヴァイ」って呼んだ方がいいんじゃね? って話になったんだが……』
どう思うよ? とレイジは言外で呟く。
その言葉を受けて、ミハエルは考える。
「まぁ、今まで機体に回してた分の素材がない……、ってことはないんだけど、物は試しにってことで軽くしたのは、確かだ……。それを感じて、改良点と思ったか……」
成る程……、
「そこは考えてなかったな……」
うん、
「それだったら、確かにその機体の名前は変えた方が良いかもしれないね」
『……ってことは?』
「その『シュツルム・ツヴァイ』だっけ? その名前に変えるって案を受けようじゃないか」
うんうん、とミハエルは納得がいっている様子だが、
正直に言ってしまえば、
……これ、受ける受けないの問題じゃねぇんじゃね?
どうなのよ? とレイジは後ろを振り返って、
『ミラー』に視線で訴える。
その視線を受けて、
『ミラー』は肩を竦めてみせた。
……いや、この案自体お前から来たのに、その反応ってなんなん?
どうなんだろう、とレイジは内心で思った。
一先ずレイジの機体の名前をどうするかという問題が片付いたわけで、それじゃ次はどうしようかと、『ミラー』は、レイジに話しかける。
「おいちゃんの方は、『ヌル』ちゃんの方が片付くまで何もない……、」
というより、
「ほぼすることがないわけで……、まぁ、どうすっか考えてないわけだけんども」
『まぁ、俺と違ってお前のはなぁ……』
ってか、
『撃鉄付けるだけで、本当にいいのか?』
「おいおい、『ヌル』ちゃんよ。今の今まで、パイプに弾ぶっこんでトンカチ叩いてやってた野郎にそれを言うかね?」
『野郎って言ってるけど、私は女なんだけど』
「エルトちゃん、ごめん。こっちのことだ、気にするな」
『あぁ、確かに君は男性? だったっけ?』
「おいちゃんは身体は女、心は男のハイブリットに生まれ変わったからな」
『身体は私のだから、それはどうかなって思うんだけど』
「おっと~。それを言われたら、おいちゃんは何も言えねぇな……」
たははは~、と軽く笑いながら、『ミラー』はレイジに言う。
「まぁ、なんだ。さっきも言ったけど、こちとら今まで、パイプのケツにトンカチ叩いて戦ってたんだ」
今更、
「撃鉄抜きで戦えって言われてもそりゃ、無理って話になるんだわな」
『まぁ、タイミングとか掴みづらいとか言ってたよな……』
「装填のタイミングとか自分で調整した方がやり易いってのがあるけどな」
でも、
「おいちゃんとしてはこの狙撃銃にちと手を加えて使いやすいもんにしたいわけよ」
『使いにくかったら、確かに使いやすい様にした方がやり易いよな』
「そう言えば、『ヌル』ちゃんは弾の装填時間とか気にしねぇの? おいちゃんは気になったけど」
『俺の場合は、弾なくなったら蹴るかタックルするかでやってるからな……』
そう意味だと、
『あんまり気にしたことがないな……』
いや、
『最初が単発式過ぎたから、それがなくなったら、気にしねぇんだよな……』
「単発式も単発で、やり易いとは思うんだがな」
まぁ、
「『ヌル』ちゃんの場合は、接近できたら、近接で攻めるか、弾が無くなった瞬間にタックルするかのどっちかだからなぁ……」
『タックルが攻撃値50あんだから、近接で攻めるよりタックルした方が倒しやすいじゃねぇか』
「近接でコンボ決めたらそれより多いんですけどねぇ……」
『タックルの方がコンボ決めるより早いし、ダウン取れるからいいじゃん』
ほら、
『お前、右のトリガータイミング良く押すより、左右のトリガー開いた方が早いじゃん』
「それ、『ヌル』ちゃんだけだから」
はぁ、と一息吐く『ミラー』に、
エルトが声を掛けて来る。
『タックルってどんなの?』
……そのまんまの意味。あ~……、タックルにも一応何種類かあんだよ。
『へぇ。どんな風に?』
……普通にシールドタックルと、回し蹴り、機体の種類によるけどショルダータックルしたりとかな。
『色々種類あったら、やりたくなるのも分かる気がするけど?』
……おいちゃんは射撃専門だから、特に分からんのよ……。
『君ってホント撃つことしか興味ないんだね……』
……おっと、『ヌル』ちゃんには興味あるぜ!
『……いや、お兄さん、男の人じゃん』
……それが?
『君も男じゃん』
……だな。それはおいちゃんにも分かるし、そのつもりで行動してるな……。
『男なのに、男の人が好きって、それってどうなの?』
……おいおい、エルトちゃん。おいちゃんは確かにそう見えるかもしれねぇけど、男なら誰でもいいってことじゃねぇ。『ヌル』ちゃんだからこそ、だぜ? それ以外の男の野郎なんざ、興味ないな……。
『言葉……』
……間違っちゃいねぇだろ?
『かもしれないけどさぁ……』
エルトの反応に『ミラー』はやれやれと内心、
肩を竦めた。
……まぁ、『ヌル』ちゃんの方が終わるまでは、おいちゃんは暇ですよってな。
『なんかやれることがあったりしないの?』
……設計図とか描いてみる? おいちゃんほとんど何となくでしか描けないけど。
『あの、なんだっけ。パイプ? に弾入れて叩いてたじゃん。そういうのでやれないの?』
……形的なのは、理解は出来てるから一応、描けなくはないんだけどねぇ……。
『だけど?』
……細かい構造なんてのはおいちゃん、全然分からんのよ。
『じゃあ、手を加えようって言っても出来ない?』
……だいたいの設計図がわかりゃ、描けなくもないけどな。でも、分からんもんは分からんから、手が付けられないってのが正しい気がするけどねぇ……。
『やる気があるのか、ないのか、分からないね……』
……やる気自体は、おいちゃんあるぜ? ただ一からやるってなるとやる気がなぁ……。
『……お兄さんに手伝ってもらうとかは?』
あぁ……、と『ミラー』はエルトに言われたことを考える。
一人でやるとなると、やる気などは出るはずもないが、
レイジに手伝ってもらうとなれば、十二分にやる気が出てきそうだ。
……それだったら、十分出るな……。
『……君、どれだけお兄さん好きなの……』
……へっへっへっ。『ヌル』ちゃんがいるといねぇとじゃ、話がだいぶ変わるからな。
『そんなに?』
……おぅ。基本的に『ヌル』ちゃんは、突っ込んでかく乱して乱戦をするタイプなんだが、その時々で囮になったり、あえて信号弾で敵に位置を知らせて分散させるとか色々やってくれるんだよ、これがまた。
『突っ込んでかく乱して乱戦? ……出来るの?』
……敵陣に突っ込んで手当たり次第に敵をダウンさせて、目標の遠距離型……、あ~、この場合の遠距離型は一般的に『タンク』って呼んでるから、タンクって呼ぶけど。周りのヤツを手当たり次第ダウンさせて遠距離型を倒すっていう戦い方な? 簡単に説明すると。で、出来るか出来ないかって話は……、出来ちまうのよ、これが。
『……なんで?』
……基本的に、おいちゃんたちは戦い方を知らねぇ素人なわけ。その素人がプロみたいにやれるかってなったらやれないっしょ? だから、ある程度、乱されたりすると、これが出来ちまうって話よ。
『……お兄さんってすごいんだね……』
……時代が時代なら、『ヌル』ちゃんは基本大将首獲りに突っ込んで無事に帰ってくるタイプだな。まぁ、ある程度ダメージは負うだろうけど。
まぁ、そんな時代でも、今こうして出会えているのだから、
恐らくは今のような関係に落ち着くような気もしなくはない。
『……それはお兄さんが可哀そうだと思うけど』
……昔は、衆道って言ってな。野郎が野郎を相手にするって話が結構合ったみたいだぜ?
『だからって言っても、それはダメだよ?』
……たははは~、泣けちまうな、こりゃ。
『君がお兄さんのことが好きだとしても、私の身体でそんないやらしいこととか……、しないでね?』
……『ヌル』ちゃんの場合は、それをしたところで、意味がないんだよなぁ……。
『……なんで?』
……あ~……、おいちゃんが聞いた話によると、この前言ったと思うんだけど、『ヌル』ちゃんの高校時代、運動部にいたらしいのよ。
『あ~……、何か仕込まれたとかって言ってたっけ?』
……そうそう。その時の担当が、これが女性だったらしくてな。
『……その時に、色々されたってこと……?』
……いや、別に大したことはされなかったらしいんだが、その経験があるせいか、あんま女性に何されても特に反応しなくなっちまったみたいでな……。
『本当?』
……俺ら三人の仲良し組の中で唯一の女の『ダガー付き』ってのがいたんだけどな? そいつ曰くは色々アクション仕掛けてたみたいなんだが、何一つ反応されずに全スルーされて、逆に返された~、とかって言ってたっけかな?
『……何それ?』
……いや、おいちゃんに訊かれてもどう返されたのかが、全く分からんから、何も言えねぇよ?
『そしたら、一回試してみる……の……?』
……試してみるってのもありだけど、一回アイツの反応見た時に全然反応してなかったんだよなぁ……。
『そう?』
……ほれ、おいちゃんと『ヌル』ちゃんの合言葉……、合言葉って言わねぇのかもしれねぇけど。それでおいちゃんと『ヌル』ちゃん、お互いが分かったじゃん? あの時に、『ヌル』ちゃん、特に何も言わなかったし。
『それって分かるの?』
……だってよ、『ヌル』ちゃんなんだぜ? 『ヌル』ちゃんのことなら、おいちゃん何考えてるか手に取る様に分かるからな。
『そしたら、お兄さんが何を考えてるか、君、分かるの?』
あ~……、と声に出しながら、
『ミラー』はレイジを見る。
胸の部分の修正は頼んでいたのは見ていたので、分かっているが、
胸の部分以外の修正箇所となると、他は何処になるのか……、
それを考えているのか……、
……いや。
厳密には、そうではない。
実際にはそうなのだが、
厳密に言えば、そうではないのだ。
……ってなると、だ。
何かが足りない。
何か……。
『鬼神』に必要なモノ……。
そう考えて、あっ、と『ミラー』は閃いた。
「……『グレネード・パンチ』……なくね?」
『「グレネード」……、あっ』
そう言えば、
『見当たらないな……。親父殿、あるのか?』
「えっ? あっ、あ~……、そう言えば、そんなの言ってたっけ。え~っとね。アレは確か……」
そう、
「……左腕だ!! 左腕はそうなる様にしてあるよ!!」
『……左腕? ……なんで?』
「それはレイジ、両腕使ったら、なくなっちゃうだろ? それだったら、片腕だけでもあった方がいいじゃないか」
『それは分かるんだが……。なんで、右腕じゃないんだ?』
「いやだって、ほら。左腕には……、なんだっけ……」
『スパイク・シールド?』
「そうそう、それそれ。それが取り付いてるだろ? それだったら、飛ばせるようにしたら、攻撃力が上がるんじゃないかって思ってね」
……それ、右腕でも一緒じゃねぇかなぁ……。
攻撃力が上がるという意味では、右腕でも一緒ではないかと、『ミラー』は思ってしまった。