第二十四話 隻眼と少女と鉄と
『鬼神』化計画と表して行う形となったが実際にどうしようかを話すことにしてある程度の方向性は決まったのだが、それまでは『シュバルツ・アイゼン』の改良を含めた修理をしなければならないということで取り敢えず手持無沙汰になってしまった故に、レイジは、『ミラー』を案内することに決め歩いていたわけだが……。
『……実際には、俺もそんなに知ってるわけじゃないから、あんまり紹介できないっていうな』
「まぁ、ただ歩くだけでも情報自体は手に入るから、おいちゃんらは別に気にはしてねぇさ、『ヌル』ちゃんよ」
『でも、紹介された方が分かりやすくね?』
「そりゃそうだけんども……」
でも、
「知らんとこ知らんように紹介されて、あとで違いました~ってやられるよりかは何も知らんもん同士で適当に見て回るだけでもいいってな」
レイジのフォローをしてくる『ミラー』の有難みを感じ、
『恩に着る』
と言っておく。
その言葉に、『ミラー』は片手を上げ、ひらひらと適当に振りながら、
「気にすんな、『ヌル』ちゃん。困った時にはお互い様だ、ってな」
まぁ、だからこそ、
「……気にするな」
と口にする。
そう言った『ミラー』の口元には、笑みがあるので、
これはこの文字通り、
……気にするなってことか。
成る程。
『すまない』
「だから、気にするな」
……って言っても、
「『ヌル』ちゃんは気にするよな……」
ってか、
「自分でそんなに気にするな、って言ってるのに、言われる立場になると気にしだすってどうなのよ?」
『……そんなこと、言われてもな……』
まぁ、
『これは生まれつきの性分みたいなもんだからな……』
だから、こっちに関しては、
『気にするな』
「ハハハ。まぁ、『ヌル』ちゃんがそう言うんなら気にはしねぇよ」
あぁ、
「これ以上突く気にもならねぇしな」
そういえば、
「おいちゃん、しばらく気になってたんだけどよ。あの……『撃雷』?」
『「シュバルツ・アイゼン」?』
「そうそう、それそれ。……で、その機体の盾」
アレって、
「『スパイクシールド』で合ってるか?」
『それ以外に「撃雷」につけるモノってあるか?』
「まぁ、ないわな」
いや、
「そんなことより、あの『スパイクシールド』……」
アレって、
「……なんか変なペイントしてあったよな?」
それって、
「なんか意味とかあったりするのかい? いや、おいちゃん、全然知らねぇんだけどさ」
意味があるのか、と訊かれ、
レイジは一瞬、頷きそうになるが、
……待てよ。
待てよ、と思考する。
……フェンリルさんのことを言ってしまっていいのか……?
言うことは簡単だ。
ただ、それを言ってしまえば、なんでそうなっているのかについて話さなくてはならないし、
そうなれば、テュールとの出会いについても話さなくてはならない。
そうなってしまえば、そのテュールの手を借りてあの龍をどうにかならないか、という話になりかねない。
テュールはこちらには来れない。
その代わりに……、フェンリルが来た。
それは、レイジなら別に話もしないし、特に頼ることもしないだろうと、
そんな風に思われているから、なのかもしれない。
信頼されていなければ、預けようとも思わないだろう。
つまり、これは信用と信頼に関わる問題だ。
だとすれば……、
……言わない方が賢明か。
そうした方がいいだろう。
であれば、
『ちょっとあってな……。知り合いが遠くに行くらしいんで、その間に……忘れないようにってことでやってもらった感じかねぇ……』
「へぇ~……。おいちゃんがいないうちに『ヌル』ちゃんはそんなことやってもらえる人ができちまったと……」
こりゃ、
「ライバルが多すぎるだろ……」
『どんなライバルだよ……』
はぐらかせたかどうかは、分からないが、取り敢えず『ミラー』が変な方向に勘違いしているらしいことが分かったので、一応ツッコミを入れることにする。
そのツッコミに対し、
「恋敵って書いて、ライバルって読む感じだな」
あぁ、
「向こうにいた時にゃ、おいちゃんと『ダガー付き』しかいなかったのが、こっちだとその倍近くのヤツが取り付いてるとか……。ある意味、結構すげぇと思っちまうが……。う~ん……」
『どうした?』
「いや、『ヌル』ちゃんのフォロー役がいねぇのに、『ヌル』ちゃんはよくやってるな、って思ってな。普通は女房役がいての活躍ができるってもんなのに、いなくても十分活躍できるって、それはそれで、いかんと思うぜ、『ヌル』さんや」
『って言われても、俺はやりたいようにやってるだけだぜ?』
「そのやってる野郎が、すごくて何もやれねぇから困ってるって話をしてるんだけどなぁ……」
ま、
「おいちゃんが来たからには、掩護にゃ期待してもらっても構わないんだぜ、『ヌル』ちゃん?」
『お前の援護には、十二分に有難みがあるから、頼りにさせてもらうさ』
「流石だねぇ、『ヌル』ちゃん。人のハートをがっしり掴みやがる。そこに痺れるゥ、憧れるゥ、ってか?」
『俺に訊かれても困る』
「……通じるネタの振れ幅が狭いってのも考え物だけどな……」
まぁ、
「そこが『ヌル』ちゃんのいいところ、ってな。」
なんだかな……、とレイジは呟く。
そう言えば、と改めて気が付くことがある。
『そうと言えば、よ、「ミラー」』
「あぁん? どうした、『ヌル』ちゃん?」
『ずいぶん前になるんだが、亡くなった人の墓に食器とか詰めるのを見たんだが……、』
あれ、
『なんでか知ってたりするか?』
「なんでか? ……う~ん」
いや、
「おいちゃんは知らねぇが、エルトちゃんなら何か知ってるかもしれねぇ……。」
ってなわけで、
「どうだい、エルトちゃん? なんか知ってる?」
えっ?
「いや、私そこまで詳しくないし、私が知ってたら、君が知ってるはずだよね?
いやいや、おいちゃん、人のプライベートには踏み込まない主義だから、知らねぇもんは知らねぇぞ?」
えっ?
「でも、君、私よりも知ってること多いよね?
おいおい、エルトちゃん。そりゃ、当たり前だろ? おいちゃんの方がエルトちゃんより長く生きてるんだぜ? ……えっ? それ言ったら、神様とかそういうのなの、君?
いやいや、エルトちゃん。おいちゃんみたいなのが、神様だったら人様皆困っちまうだろ?」
どうやら何も知らないらしい。
となれば、アレは結局何だったのか……。
何かの機会があれば、ミハエルに訊くのもありなのかもしれない。
……それだったら、師匠に訊くってのもありか……?
テュールはテュールで近くに用事があるとか言っていた気がしなくもないが、
それでも、出会える機会は少ない上に、また来るとは確証は出来ない。
……だとしたら、会えた時に訊くってのもありか。
また、夢で会えるのかもしれないし、会えた時にでも訊いてみるのもいいのかもしれない。
それまで、自分が訊こうと覚えているかは分からないが。
そんなことをぼんやりと考えているレイジたちの背に、
「……お兄様!!」
元気な少女の声が掛けられた。
また白い身体に変えているのを見つけ、すぐに彼であると分かったのはいいものの、ヒュンフは、隣に立つ女性の姿を見つけると声をかけるべきかどうか悩んでしまう。
と言ったところで、
……お兄様はお兄様だから、大丈夫。
それは果たして大丈夫なのか、と思いそうだが、ヒュンフにとってはそれで大丈夫だと思えた。
故に、
「……お兄様!!」
声を掛けることにする。
『あ? ……おぅ、ヒュンフ。どうした、こんな所で?』
「あん? おいおい、モテモテだな、『ヌル』ちゃん。ま、おいちゃんは別に構わねぇけどよ……、ってガキじゃねぇか!!! 罪作りな男だねぇ!!!」
こちらに振り返りながら、声を掛ける彼と、
よく分からないことを口に出している、何故か左目を閉じている名を知らない女性がいた。
……なにかあった……?
病気なのか、どうなのかはヒュンフには分からないし、
もしかしたら、何かしらの呪いを受けているのかもしれない。
ゼクスのように怪我によるものなのかもしれなかった。
怪我らしきものは見受けられないから、恐らくは呪いなどそういったモノの影響なのかもしれないが。
だとしたら、助けてあげた方が良いのかもしれないが、
ヒュンフには、何が何だかは全く分からない。
だが、不安な気持ちは出てくる。
そんなヒュンフの様子を見て、悟ったのか、
彼は女性の方を一瞬だけ見て、
『あぁ、ヒュンフ。こいつは大丈夫だ。こいつのこれは元からでな。こいつがこいつである証拠でもある。……なぁ、「ミラー」?』
「あ? おいおい、人がもとからやってることを証拠だなんだという野郎がいるか? おいちゃんのこれは生まれた頃からの病気だって、言ってるじゃねぇか。……惚れるぞ?」
……惚れる? ……カッコいいってことかな?
彼女が何を言っているのかはよく分からないが、
彼がカッコイイのは、ヒュンフにもよく分かる。
なので、
「ですよね!」
ヒュンフは激しく同意した。
そのことに、
『……おい、「ミラー」。お前、どうすんだ。ヒュンフが勘違いしちまったじゃねぇか……』
「おいおい、『ヌル』ちゃん。『ヌル』ちゃんにおいちゃんが惚れてんのは事実で、この子も同意してんだから、この子も惚れてるってことだろ? だったら、いいじゃねぇか」
何やら二人で話し始めた。
何だろうか、と思っていると、改まって彼が彼女を紹介する。
『あ~……、ヒュンフ。こいつ……、あ~……、彼女は、エルトって言ってな』
「……えっ? でも、お兄様。先ほど、『ミラー』って……」
『あ~……、そうな。……そうなんだよ。説明が難しいんだが、彼女には違う人物が入って……、違う魂がいてな?』
「魂とは、一つの身体に二つ入るのですか?」
『……おい、「ミラー」。……助けてくれ。俺一人じゃ上手く説明できん。』
「まぁ、『ヌル』ちゃんは、『ダガー付き』との相手は上手くできるんだけど、それ以外の子供だと全くできないっていう弱みがあるからなぁ……」
仕方ない、
「ちょいと手伝ってやろうか。」
何を手伝うのか、それはヒュンフには分からないが、
『ミラー』と呼ばれたりエルトと呼ばれたりしている女性は、こちらを見ると、屈んだ。
「初めまして。おいちゃんは『ミラー』って言うんだ。」
んで、
「この身体は、エルトって言う女の子のもんだ。」
「……『ミラー』さん? は女性ではないのですか?」
「おいちゃんの元の身体は男だったから、違うわな」
「『ミラー』さんは、どうしてエルトって言う人の身体に入っているのですか?」
「それはおいちゃんにも分からねぇのよ。気が付いたら、こうなってたんでな」
「『ミラー』さんは、お兄様とは知り合いなんですか?」
「知り合いも知り合い。時々同じ戦場で戦ってる……、」
いわばまぁ、
「……戦友だわな。」
「……戦友」
「そうそう。親友でもありと言えばありだけど、どちらかというと戦友の方が近いだろうな」
「……ということは、『ミラー』さんはお兄様の知り合いで、戦友? なんですか?」
「そう言った方が早いかねぇ……」
「成る程……」
ほとんど頭に入らないし、理解も出来ないのだが、
目の前にそういうのがいるとなると、これは事実で起こっていることなんだ、とヒュンフは自身を納得させることにする。
……『ミラー』さんはお兄様の知り合いで、お兄様とは戦友……。
あれ?
……そうなると、お兄様は元々戦士だった……?
言葉を文字通りに、捉えるとそう考えられなくもない。
考えられなくもないが、彼が元々戦士だとは一言も言ってない気がしなくもない。
しかし、『ラーズグリーズ』等の戦乙女の名を知っているということは、
少なくとも、何かしらの戦場に関わったことがあると考えられなくもない。
ということは、やはり、
……お兄様は元々戦士で、……それ故に、戦っておられる……?
どんな時も、前に出て戦っているのであれば、
戦士だったと考えられなくもない。
ヒュンフのその考えはある意味では合っているのだが、ある意味では合っていないという物凄く微妙なラインを攻める考えをしていた。
しかし、
現状は、事実しか出さない。
それ故に、
……つまり。
「……お兄様はすごいのですねっ!!!」
「おぅ!!! 分かるかっ!!! その通り、『ヌル』ちゃんはすごいのよ!!!」
レイジの凄さが分かったのか、ということを嬉しいように頷きながらそういう女性だったが、
「……あっ? どうした、エルトちゃん?
えっ? いや、どう考えてもそれ、勘違いしちゃうからね? 勘違いさせないようにしないといけないじゃん?
いやいや、『ヌル』ちゃんはかっけぇし、すげぇってのは実際すげぇんだから、仕方ねぇって。
……えっ? だからそういうのが勘違いさせちゃんだって? ちゃんと言い直さないといけないよ?
いやいや、何処をどう言い直したらいいんだよ?
……えっ? それだったら、私が言い直すから替わって?
おいおい、そんな話途中で替わるとかっていくら何でもそりゃねぇって」
何やら、一人芝居をし始めたかと思うと、
唐突に、閉じていた左目を開けた。
そして、
ヒュンフの前に出て屈むと、言った。
「えっ……と。初めまして、かな?
私はエルトって言うんだ。さっきまで話していた彼は『ミラー』って呼ばれてるらしいんだけど、また、機会があったら呼んであげてね?」
「あっはい。えっ……と」
あの、
「エルトさん? で合ってます?」
そう訊くと、
彼女は、頷く。
「うん。私は、ね?」
それで、
「片目閉じてるのが、『ミラー』って人ね?」
「片目……」
もしかして、
「左目を閉じているのが『ミラー』さん? です?」
「そうそう。それで合ってるよ」
『悪いな、エルト。俺だけじゃ上手いこと説明ができなくてな……』
「いや、大丈夫だよ、お兄さん」
それに、
「自分のことを自分で説明できなきゃ上手くいかないからね」
だから、
「……うん。気にしないで?」
あぁ、それと、
「ヒュンフちゃんだっけ?」
「あっはい」
「えっと……ね。私も分かりにくいんだけど、お兄さんと彼は元々戦士でもない普通の人だったみたいだよ?」
「普通の……?」
「そう、普通」
普通の人と言われ、ヒュンフは考える。
……普通の人? お兄様が?
だとすれば、
……普通の人が戦乙女について知っている……?
何も出来な筈の普通の人間が、戦乙女など自分とは何の関係もない事柄に知っている……、
知ろうと思えば、知ることができるということだろうか、
あるいは何かしらの知識を与えられるということか、
どういう事なのだろうか、とヒュンフは考え始めるが、
『……ところで、ヒュンフ。なんかあったのか?』
考えの対象が自分であることも知らない彼が声を掛けてきた。
エルトとの会話で何かについて考え始めたヒュンフを見ながら、急に考え始めたヒュンフをどうしたらいいのか悩み始めたエルトを横目に、レイジは、ふと思った。
……そう言えば、何でヒュンフはこんなとこにいるんだ?
ヒュンフとは、この前の演奏会以来、演奏会で披露した曲が評価が良かったらしく、色々な人に声を掛けられるようになったと喜んで話していたので、多分忙しくなるんだろうと思って距離を取る様にしていたので、その時以来ではある。
しかし、ヒュンフがこうしてレイジに会いに来たということは、何かしら困ったことがあったのか、或いは他で……、という可能性が考えられる。
なので、
『……そう言えば、ヒュンフ。なんか、あったのか?』
「えっ……。い、いえ、それ程のことはありませんけど……、」
ですけど、
「最近、お兄様にお会いしておりませんでしたし、お兄様は私と距離を取ろうとしておられる気がして……。それはそれで、悲しく思いまして……」
えぇ、
「こうした次第です。申し訳ありません、お兄様」
そう言って謝罪するヒュンフの言葉を聞いて、
レイジは片手を前に出し、
『いや、それは俺の方が悪い。最近、忙しそうに見えたし、俺みたいな野郎に付き合うのも……なんか、な。だからと思って距離取ろうと思っただけだ。だから……』
だから、
『お前が悪いわけじゃない。悪いのは、何も言わなかった俺のせいだ』
「そんなっ!! お兄様は悪くありません!! 忙しかろうとも時間を取ろうとしなかった私のせいです!!!」
そういう彼女の言に、どうしたものかとレイジは考える。
恐らく、このままでいけばお互いに譲らず、お互いに落としどころを見つけるのは難しくなるだろう。
そんなことはヒュンフは望んでいないはずだ。
となると、どうすべきか……、と悩むレイジに、
いつの間にか、左目を閉じていたエルト……、もとい、『ミラー』が笑う様に言った。
「まぁ、なんだ。ヒュンフちゃん、別に『ヌル』ちゃんはそんなに気にしてねぇから大丈夫だし、」
それと、
「『ヌル』ちゃん。ヒュンフちゃんも気にはしてるけど、そこまでじゃねぇって言ってんだろ? だったら、それでいいじゃねぇか」
『いや、それでって……』
「だからよ」
だから、
「気にするな……って言ってやれよ。外野のおいちゃんが口にするのは流石に変だろ?」
『ミラー』は笑う様に言った。
そして、頷く。
その表情を見て、
……つまり、……そういうことか。
レイジは察する。
何処がどういう事で、
何処をどうやって考えるか、
それはレイジには分からない。
だが、
『ミラー』が言いたいことは、そういうことではない。
故に、
『まぁ、なんだ。……ヒュンフ、気にするな』
まぁ、
『お前が自分が自分が、って自分を責める様に、俺だって自分が自分が、って自分を責めちまう。
そんなことやったところで、意味なんざ何にもねぇってのな……』
だからこそ、
『ヒュンフ。……気にするな。
難しいだろうが、俺も気にしねぇ。気にしてみたところで意味はないからな……』
「で、でも、お兄様。気にしてしまうことは、気になりますよ!」
『だとしても、だ』
「だとしても?」
『あぁ。だとしても、だ』
そう、
『気にするな。俺も気にしない。気にしてみたところでほんとにどうでもいい結果にしかならないからな……』
そうだ。
気にしない方が良いのだ。
一回のミスを延々と気にしてみたところで、また同じミスをする確率が上がるだけだ。
だったら、いっその事、気にしないでやってみるしかない。
気を付けたところで、前回よりかは多少はマシになるか、あるいはもっと悪くなるか。
そのどちらかだからだ。
過去に一度、自分のことを責めたことがあった。
しかし、責めたところでどうにもならない。
であれば、もういっその事、
気にしない方がいい。
気にしなければ、それ程大きなミスにはならないし、
気にしなければ、延々と責めることもない。
だからこそ、気にしなければいいのだ。
それに、実際にそこまでレイジはヒュンフのことを気にはしていない。
少し忙しいのかなぁ程度には気にはしていたが、
それでも何をしているのかが気になるほどには気にはしていなかった。
だからこその、
気にするな、だ。
こちらがあまり気にしていないことを気にしてもらっては気分的にも悪くなる。
それだったら、いっその事、気にしてもらわない方が良いということだ。
それに、
……こうして元気な顔が見れたら、問題ない、かな。
元気かどうかを気にしているのだから、こうして元気な顔が見れれば、レイジとしては特に問題ないのだから、
尚更、気にしてもらわない方がいいというものだ。
と言ったところで、
恐らくヒュンフは気にしてしまうだろう。
であるなら、
……話を変えて意識を逸らすか。
それがどれだけ意味のあることかは、判断しにくい所ではあるが、
多少は意識がそれる。
だとしたら、
『……そう言えば、ヒュンフ。お前、最近どうだった?』
逸らした方がいいだろう。
「……最近……、ですか?」
そうですね、
「最近は、少し忙しかったですね……」
『忙しかったのか……』
……まぁ、忙しかったら来れねぇわな。
ま、当然か、とレイジは思う。
そして、具体的に、ではなく、忙しいと抽象的になるのであれば、
……なんか言いたくないことでもあるのかね。
と思ってしまうが、
先程の流れを鑑みると、また自分自身のことを責めてしまうのではないかとレイジはぼんやりと考えてしまう。
だとすれば、
『まぁ、なんだ。……ヒュンフ、前みたいに来てもいいからな? 俺も、多分、親父殿も嬉しいと思うから、いつでも来てくれ』
「……はいっ、お兄様!!」
そう言うしかないだろう。