第二十話 黒鉄との邂逅
銀狼との戦いから早三年が経とうとしてる中、相も変わらず傭兵なのかどうなのか分からない生活を送りながら、レイジは今日も今日とて、いつもの日課になった朝のランニングを行っていた。
前回の戦いの折、噛み砕かれた左腕は無事に修理を終え、
今ではすっかり動かすのに問題ないわけだが、
武装面をどうするか、
それについてミハエルは悩んでいるらしい。
個人的には、今まで通りマシンガンと槍の二つ、
いや、
スパイクシールドを入れれば、三つか。
この三つにしたいというのが個人的の要望ではあるわけだが、
ミハエルとしては、この三つでは決定打に欠けてしまうらしい。
レイジ個人としてはこれ以上ともなく装備としては上等なのだが、
確かに攻撃手段としては少ない様な気がする……。
といったところで、
『……まぁ、どうやって増やせばいいんだっていうな』
よく分からないですよね、ねぇ?、と言外が言いながら、
左腕に視線を向ける。
その左腕には、スパイクシールドなる盾が取り付けられているのだが、
その盾は、色が蒼に変わっており、盾の上部、その両端には目のようなデザインがされている。
盾のスパイク部分、
先端部には牙のような白いデザインとなっており、
どこか野性的なデザインとなっていた。
何故そうなっているのか、と言うと、
『師匠も師匠であれだけど、どうやって話せってな……』
それは少し前に遡る……。
機体の調整ということで、意識を一時的に眠らせるというミハエルの言葉に異を唱えることなく実行に移ったわけだが、レイジは、そこで見るはずがないと思ってた光景を見てしまった。
それは、
「……。……あの、師匠」
「うん? ……おぉ、久しぶりよな、レイジ」
「……えぇ、お久しぶりです。……いや、そんなことより、」
なんで、
「なんで、そいつがここにいるんですか……ッ!!!!」
テュールが何故かいることには、特に追及することがないので流すことにするにしたのであろうが、
そんな彼女と共に何故かいる銀狼を指差しながら、ほぼ叫びに近い声で追及する。
そう、
指を差す方向、
そこには、
大きすぎる図体を部屋に押し込めながらいる銀狼の姿があった。
身体に合わないおかげで部屋に押し込められているわけだが、
柔らかそうな毛に身体を預けながら、こちらを見る彼女の姿を見ると、
……いや、めっちゃ気持ちよさそうだけどさ……!!!!
と思ってしまう。
しかし、個人的にはあの激闘を戦った敵同士だった。
そう易々と気を許すのはどうなのかと思ってしまうが……。
一方、テュールはというと、
そんなことは全く気にならない様子で、
「しっかし、おまんもそげんとこにおらんではよ、こっち来んかい。温いぞ」
……いや、温いぞ、じゃないんですけど。
彼女はそう言ってくるが、
レイジとしては、それはどうなんだろうか、と思ってしまう。
そう言って不審がるレイジを気に留めたのだろうか、
ようやくテュールは何かに気が付いた様子で、
「あぁ、構わん、構わん。
今はこやつとて大人しい故な。
この前のは、小賢しい知恵を使うたヤツに掛かったが、
今はおらん」
じゃからの。
「こやつとて、そこが気になったんじゃろう。
おまんの力になれるなら、儂の代わりに力を貸そう、と。
そう言うておるわけよ」
「……成程」
でも、
「確か、首輪掛けたからそう簡単には出られんとか言ってませんでしたっけ?」
この前、確かそう言っていた様な気がするので、
レイジは確かめる。
その言葉に、彼女は一度頷き、
「肉体は、の。……精神的なもんは、ワシと同じじゃけん。
身体は離れとらんから、首輪をしておっても問題なか」
「え~……」
……それって、いいんですか……。
神様的にそれっていいのかなぁ……、
いや、神様的にいいんだろうなぁ……。
いいのか……?
それは果たしていいのかな……、とレイジは考えてしまう。
だが、問題ないと彼女は言う以上は恐らくは問題ないのだろう。
それが限りなく黒に近いグレーゾーンであったとしても。
「……そしたら、どうしたらいいですかね、自分」
「おっ? やる気になったか?
そうさな……、フェンリルのヤツとてバカではなか。
勝手にどっかに憑りつくじゃろうから上手く使うてやれ」
「……はっ?」
……いや、それどういうことですかね、師匠……?
何が言いたいのか、それが分からずレイジは疑問の声を出してしまう。
それが分かってか、
あるいは分かってはいないのか、
彼女はよいしょ、と言うと、
「さて、と。であれば、ワシは行くからの。
なに、別に遠くまで行くわけではなか。
近場でちと面倒ごとが起きとる様での。
ちとそれを収めるだけよ」
面倒じゃがの、と言外で呟きながら、
彼女はフェンリルの毛を撫でる。
彼女は遠くまで行くわけじゃない、とは言ってはいるが、
……たぶん、遠いんだろうな。
安心させるためにそう言ったのだろうと、
レイジは考える。
とすれば、自分はどうするべきか、
それを考えようとするが、
そんなレイジを置いて、
彼女は立ち上がる。
「あまりここに長うおったら、根が生えてしまうからの。
ワシはそろそろ行くことにするわい」
おぅ、
「フェンリルや。
大事にせいよ。
こやつはワシを師と呼ぶたった一人のバカ弟子じゃけん。
死なすことがあれば、おまんのことは地の果てでも追って殴うてやるからの。
そのつもりでおれよ、のぅ?」
物騒なことを言う彼女の言葉は、
考えるのに夢中だったレイジの耳には届かない。
だが、
彼女が立ち上がったことでレイジの意識は外に戻ってくる。
「あっ、師匠」
「おぅ、レイジ。わしゃ、そろそろ去るけん。
……くたばるなよ」
「分かってますよ。
……師匠も、お気をつけて」
そう言うと、
テュールとレイジは互いの言葉に、お互いに笑った。
「ワシはそう簡単にゃくたばらん。安心せい」
「自分こそ、そう簡単にはやられませんよ。……大丈夫です」
互いに頷くと、
二人は互いに手を差し出し、
互いの手を握り合うのであった。
その時はその時で終わったのはいいものの、意識が戻ってから様子を見るとは言ってたけどどうやって見るのだろうかと思って手元に視線を下ろしたときに、レイジは、左腕の盾の柄が変わっていることに驚いてしまった。
それ以降は、意思がある盾とはどう使うべきなのだろうかと時々で考えたりはしているが、
如何せん、フェンリルが盾に憑りついてからの実戦はまだ行っていないので、
考えたところで意味があるのだろうか、
レイジは考えてしまう。
考えても恐らくは無駄なのだろうが。
考えるな、感じろ、という場合もある。
そうなった場合が、慣れるのに時間がかかってしまうので、
早いうちに慣れたいところではあるのだが、
何故か急にガラクタ退治の依頼が減っている。
結果的に依頼も少なくなる。
つまり、
戦う機会が少なくなる。
実戦データを積む必要があるのに、
実戦が行えないとはこれ如何に、となってしまうわけだが……、
出来ない以上は悩んだところで意味がないわけで……。
最終的に言葉に出てくるとすれば……、
『泣けるぜ……』
という皮肉に似た言葉だった。
走り進んでいた足を数歩進め、
レイジはその足を止めた。
この身体が人の身であれば、
唐突に止まっても、
急に走り出しても、
息が上がったりする状態になって上手くいかなくなるものだが、
この身体ならば、急に止まろうとも、また急に走り出そうとも、
息も上がらないし、そもそも呼吸を必要としないのでバクバクと脈が速くなることもない。
六年の年月をこの身で過ごしており、
最初は意思とのずれがあったわけだが、今はそんなにずれを感じる程にはなくなっている。
これには、ミハエルには感謝せざるを得ない。
まぁ、毎回毎回大きな戦闘が起きてはボロボロになってしまうことについては、何も言えないわけだが……。
しかし、
向こうからやって来たものに、自分から踏み込んで向かっているのだ。
そんな現状で、自分の面倒を見てくれているミハエルに対し、
ああだ、こうだと文句を言うのはお門違いだと言えるだろう。
としても、
……ただ単に向かってきた野郎にアッパーカットで殴り飛ばす勢いで行かんとな……。
やれやれだ……、と思いながらレイジは止めた足を動かす。
走り込んでいた足を歩きに換えてから、早数分、ほんのごく数メートルという歩数を数えようと思えば出来てしまうであろう距離をレイジは歩いていたわけだが、手を挙げて向かってくる声に足を止めた。
「義兄さん!!」
『……ティアナ?』
何かあったかな、と思いながら、
レイジは彼女、
駆け足でティアナに問い掛ける。
『……ゼクスはどうした?』
「ゼクスさんなら、多分家だと思うよ?」
いやさ、
「最近、あの……、なんだっけ? ほら、義兄さんが言ってる……、」
『……ガラクタ?』
「そうそう、それそれ。お父さん曰くは、急に依頼が減るってことは、何か大きなものが動き始めようとしてるんじゃないか、って話だけど……」
『でも、近場で、んなデカいもんが出来たって話はないだろ?』
「ないにはないけど……」
でも、
「もしかしたら、私達の耳に入らないだけかもよ?」
『だとしても、だ』
いいか、
『周りに影響が出る程、デカいもんだったら、噂にならないわけがない。
……いくら秘密にしてても、どこからか情報ってのは洩れるもんだしな……』
「そういうモノなの?」
『そういうものさ……』
ひらひらと片手を平らにして振るレイジの言葉を、
ティアナは考える。
しかし、すぐに思考を放棄したのか、
「あっ、そう言えば、最近はヒュンフさん? 来ないね」
『最近、調子がいいみたいでな……。こっちに寄る余裕が無くなったんじゃないか?』
いや、知らんけど、と言外で呟くレイジに、
ティアナはジト目をしながら、レイジを見てくる。
とまぁ、そんなことをされた所で、
……まぁ、実際は知らないんだけどな……。
困ったもんだな、と思いながら、
歩き始める二人の横を、
長い棒を担いだ女性が歩いていく。
それは、特に代わり映えもない普通の光景だ。
しかし、
レイジには何処か、妙な印象を与えた。
女性でありながら、何処か男性を思わせる……、中性的な印象だ。
そう言えば、とレイジはふと思う。
『「ミラー」……?』
「えっ? どうしたの? 『ミラー』?」
鏡? それってどういうこと? と疑問符を上げながら訊いてくるティアナを半ば無視する形で、レイジはその女性を見つめていた。
「……義兄さん?」
『……。……? おぅ、ティアナ。どうした?』
「いや、どうした? じゃないよ。義兄さんこそどうしたの?
なんか、『ミラー』とかって言ってたけど……」
『「ミラー」……』
そうか、
『「ミラー」か……』
と言って、
先程横を通り過ぎた女性を見る様に振り返る。
すると、そこには……。
ハンターとしての生計を立てるべきかそれとも傭兵として生計を立てるべきか、女性はそれを悩みながら歩いていく。
と考えていると、
頭の中で別の人間の、
男性の声が聞こえた。
『大変だねぇ、エルトちゃん。』
……いや、大変は大変だけどね、君。
女性は、生まれてから聞こえる声に反応する。
聞こえないことなど一回もなく、どんな時でも聞こえる声だ。
彼女にとっては、顔は見えないが、幼少期から付き合っているので、
長く付き合っている彼氏彼女……、の関係ではなく、
どちらかと言うと兄と妹の関係に近い。
『とは言っても、おいちゃんはライフル……もどきで撃つだけの簡単な作業をしてるだけだがねぇ……』
……私的には結構、有難いんだけど?
『ははは。そりゃどうも。お褒めに預かり恐悦至極』
……思ってもないのに、そう言うの?
『こういうのは、そりゃどうもって皮肉を言うもんさ、エルトちゃん』
……私、そういうの分からないからねぇ……。
『そういう時には変わってもいいんだぜ?』
……でも、君に変わらなくても対応しないと。
はぁ、とため息が出てしまう。
『……にしても、ここは平和だねぇ……。帝国の方は魔装機甲だっけ?
アレの新型が出来たかだがで色々荒れちゃいるが、こっちは静かすぎるよな』
……噂によると、こっちはこっちでなんか黒鉄? さん? が頑張ってるってね。
『あぁ~……、なんだっけか。なんか「シュバルツ」……、
「シュツルム」……、「ノワール」……、……。
なんかそれっぽいワードに鉄が付いたヤツだったな……』
……なんか傭兵みたいなことやってるみたいって話だけど。
『傭兵か……。ってなると、うちらとは商売敵って感じか……』
……あんまり敵対とかしたくないよね……。
『ハハハッ、リーガスッ!! そりゃ、無理な相談ってもんだぜ、エルトちゃん!
ま、平和に解決出来りゃそれに越したことはないわけだがな!!』
……そうなんだよねぇ……。
彼とは長年の付き合いとは言っても、いまいち距離感が掴めない。
近いようで遠くにいて、
かと言ったら、いつの間にか近くにいる。
いや、距離感とか言っても近いことには変わりないのだが。
しかし、どうしたものかというのは変わらないことで……。
また、ため息が出そうになる。
そうして歩いていると、
黒い色をした鉄、
文字通りの黒鉄の、その隣を歩く黒い髪の女性が見えた。
……うわっ、これかな? 確かに黒いねぇ……。
『確かに黒いな……。しっかし、このデザイン、どっかで見たな……。
……。……あぁ!! そうか!!! これ、「撃雷」のデザインか!!!
うわっ、懐かしいなぁ、おい!!!』
……ゲキライ……? えっ、そんなのあるの?
『元々いた世界の方じゃ、「機動戦士龍王」ってのがあってだな……。
それが人気作品で、確か50とか、60周年とか言ってなかったかな?』
……へぇ、結構愛されてるんだね……。
『その作品に出てる「撃」って機体の……、「撃改」だっけな?
それに内部炸裂式反応装甲だかの「ウェブラルアーマー」って呼ばれる装甲……。
あっ、表面のごつごつしたあれな? その装甲を張り付けた近接専用の機体なんだわ』
……それって使いにくそうだね……。
『おいちゃんもエルトちゃんも遠距離専門だからなぁ……。
ただ、近接戦が好きなバトルジャンキー……、ウォーモンガーとは違うから要注意な?
そのバトルジャンキーの皆さんには好かれてたな……。
盾だってほれ、先端になんか尖がってるのが付いてるだろ?
近接武器が使えなかったら、あれで突っついてひとまず敵機をダウンさせるとか選択肢があるわけよ』
……私たちは、この筒一つだけだもんね……。
『せめて、ハンドガンなり、マシンガンなりあったら文句はないんだが……。
まぁ、ないものねだっても仕方ないわな……。
にしても、何だ、あの盾。なんであんな目立つペイントしてんだ?
しかも、あのペイント、妙に生々しいな……。まるで生き物みたいだし……』
そう伝えてくる声に、怖いなぁ、と女性は思いながら、
黒鉄と女性の二人組とすれ違う。
すれ違って数歩以内に、
『「ミラー」……?』
と呼びかける声が聞こえた。
『……。……あん?』
……どうしたの?
『いや……。俺のことを「ミラー」って呼ぶのは、俺が知ってる中で一人だけなんでな……。
……悪い、エルトちゃん。ちと、変わってもらえるかい?』
……えっ、いいけど?
そう、声に応えると、女性の意識が切り替わった。
振り返ると、先程までの纏っていた雰囲気がいきなり変わり、女性が纏うそれではなく男性が纏う雰囲気があることに、先程までは開いたであろう左目が閉じられていることに、ティアナは戸惑っている様子だったが、レイジは笑う。
そして、
『……、……、……、……、……』
自分と、『ミラー』の二人が出会った時にお互いを確かめ合う時に、と取り決めたある歌を鼻歌で歌った。
すると、
女性も応えた。
「……、……、……、……、……」
合っている。
曲は合っている。
であるのなら……、
歌う。
『神か、悪魔か。鋼鉄のカイザー』
「ズババン、ズババン、稲妻で敵を討て」
『胸の、ゼットは、俺たちの約束』
「ズババン、ズババン、立ち上がれ、友のため」
そこまで歌ってから、
女性と、黒鉄は確信する。
こんな姿になっても、互いに忘れなかったんだ、と。
『よぉ、「ミラー」』
「久しぶりだな、『ヌル』ちゃん」
彼女の言葉に、レイジは一瞬考える。
……『ちゃん』……?
ちゃん付け呼びはしていたかどうかについて、
レイジは考える。
まぁ、会うたびにちゃん付けで呼んでいたわけではなく、
たまに会う時に呼んだりしていた様な気はしなくもない。
また、車に轢かれる前の電話では、ちゃん付けで呼ばれた気もしなくもない。
となると、目の前にいる女性は自身が知ってる男性、
『ミラー』こと、田辺鏡也である可能性は高い。
更に付け加えるなら、あの合言葉的な確認をしていたのは、『ミラー』と自分だけであり、
唯一の女性であった『ダガー付き』とはこのことは一度も話してはいない。
であるなら、目の前の女性は、『ミラー』本人だと言えるだろう。……なぜ女性なのかは不明だが。
『……ってか、お前、死んだんか』
「いやいや、『ヌル』ちゃんの方こそ、何くたばってんのよ。『ダガー付き』の試合、観に行かないとな、って話してたじゃん」
『いや、まぁ、そうなんだけどな……』
と言ってから、ふと違和感を覚える。
それは、
……『俺が』、『話した』……?
あの時、『ダガー付き』の久々の試合を観に行こうと誘ったのは、『ミラー』のはずだ。
だが、……彼女、
もとい彼は、
レイジから話を振られたようなことを言っていた。
しかし、レイジから振られたと言われれば、そうかもしれないと思うのも事実だ。
ふとした拍子で、そう言えば、と話を振った気もしなくもない。
まぁ、何年も前のことに確証を以って断言などは出来ないのだが。
しかし、『ミラー』の記憶力はそこそこに良かった……気がする。
であるのなら、彼が言うのも、また事実なのかもしれない。
それよりも、
『……ってか、お前、女なんか……』
「ははは、まぁ、そうなるよな。
……一応、言っとくけど、身体の所有権? 俺じゃねぇから」
……は?
彼の言葉にレイジは思考を止める。
身体の所有権、それが『ミラー』ではないという事なのだろうか。
思考する。
……身体の所有権、ってことは『ミラー』のヤツは別に女性になったわけではないってことか?
所有権が別にあるというのであれば、
『ミラー』としての意識のみがくっ付いているだけというのであれば、
レイジが女なのかという言葉に対して、身体の所有権は別にあって、女の身体になったわけではないということを言っているのだろう。
そうなれば、身体の所有権というのも納得できなくもない。
意識だけそのまま、というのもどうなのだろうか、という話ではあるが、
それを言ってしまえば、
……機体に意識を貼り付けてどうにかしてる俺が言えることじゃねぇからなぁ……。
レイジの存在自体が、どうなのか、という話になってしまう。
となれば、
これはそういうもの、と確定させておく。
『成る程な……』
まぁ、なんだ。
『だいたいわかった』
「……そうかい」
『ミラー』の対応を見るに恐らくは分かってないんだろうな、と思っているんだろうな、とレイジは判断する。
しかし、レイジだけでなく、『ミラー』も、となると『ダガー付き』もいる可能性がなくもないような気がしなくもないわけだが……。
……出来りゃ、それはない方が良いよな……。
彼女は自分と『ミラー』よりも若く、確かまだ高校生だった気がする。
夢半ばという意味では、レイジも『ミラー』もそうだが、
まだ経験を積むのには、始まったばかりだ。
まぁ、そう言ったところで、
……ま、これは俺の願い的なもんだしな……。
実際がどうなっているのかが分からない以上は、何も出来ない。
何も出来ない以上は、ただ願う事しか出来ない。
たとえ、
願いや祈りといったものは、大抵裏切られるものだとしても。
彼女の安全を祈りつつ、『ミラー』に視線を戻す。
そして、気が付く。
『……お前、それ、ライフルの替わりか?』
「弾ぶっこんで、ハンマー叩いて出すだけの簡単な作業だがね。
ただ、照準が付けずらいってのが難点なんだわな。
せめて、照準器があれば、いいんだが……。
それがなかなかうまくいかないのよ……」
『大変なんだな……』
「そうさな。
ついでに言うと、この身体……、
あぁ~、エルトちゃんはそんなに筋肉あるわけじゃねぇから、あんまり重いのは持てねぇんだわ。
だから、出来るだけ簡素化にして、出来るだけ効率的に……、ってなによ、エルトちゃん?
……えっ? なんでも私のせいにしないでよ?
いやいや、エルトちゃんのせいにしてなくない?
……えっ? だけど、他の人にするのと対応が違う?
いやいや、そりゃ違うでしょうよ。……だってよ、『ヌル』なんだぜ? そりゃ違いますよ、エルトちゃん」
途中から一人コントをやり始めた『ミラー』を見ながら、レイジはやはり、
……大変なんだな。
と、感想を抱いた。
ハンマーを叩くだけと『ミラー』は言っていたが、果たしてそれはどうなのだろう、と考える。
普通であれば、弾丸の尻には火薬が入っており、これを撃鉄部分、ハンマー部分で叩くことで弾丸が発射される。
であれば、ハンマーを叩くだけと『ミラー』が言うのもあながち間違いなのではないかもしれない。
レイジも一応銃器、
厳密には外見をそれっぽく似せただけのまがい物なのだが分類上は恐らく銃器なので、銃器と言っておくのだが、
銃器は使っているとは言え、こちらはハンマー部分で叩くものではなく、単に魔法で打ち出しているだけでしかない。
最初は単発だったのが、連射できるようになったりとそれなりに改良はされている。
と、そこまで考えてから、レイジはふと思い出す。
……そう言えば、折角だからってライフルにしてもらったのがあったな……。
アレはまだ、単発しか撃てなかった頃だったはずだ。
単発でも威力が低いままなら、銃身を長くしていっそのことライフルにしてしまおうか、
というところから始まって、
ライフルなら普通のビームライフルよりも銃身が長いスナイパーライフルの方が良いのでは、
折角スナイパーライフルなのに威力が低いままなら使い物にならないから威力上げよう、
威力上げたんだけど使わないの? いや、俺は単発のライフルより連射のマシンガンがいいんだ、という形で今では無用の長物、倉庫の中で眠る邪魔モノの一つとなっていたはずだ。
ライフルは、レイジでは手が余る。
そもそも、単発では反動が大きい上に、次弾が撃てるようになるのに時間が、
ラグが出てしまう。
それだったら、連射にすれば、次弾が撃てるようになるまでの時間がかからなくて済む上に、反動も少ない。
更には、動きに合わせ弾道を左右に振れるのも連射ならではの長所だと言っても過言ではない。
単発ではその長所が無くなってしまう上、使いにくくて仕方がない。
それだったら、とレイジは口にする。
『そう言えば、「ミラー」よ。
お前、ライフル使うの、問題ねぇよな?
ライフルあんだけど、使う? 俺、使わないから困ってるんだけどさ』
その問いに対し、
「はぁ~? お前に使いにくいモノをおいちゃんに使わせようってか?
……最高じゃねぇか。ぜひ使わせてもらおうか」
使いたくなさそうな第一声から一転、
使いたそうに答えるという相も変わらずよく分からない答え方をすることにレイジは、安心した。