第九話 孤高の英雄
星が輝きを見せ始め、荒く、生を刈り取る荒野の中に、一人の女性がいた。
服装は軽装で、
袖が通せるから通しているだけとなっているという形だけの上着と言っていいのか、
よく分からない服装に、
長いからという理由だけで短くしたように思えるズボンを履いており、
その見た目によっては非常に荒々しい様に思える。
しかし、
そんな彼女でも唯一、
唯一丁寧にしているであろうと思えることがあった。
それは、
癖一つなく、
風が流れるままにしていると言っても過言ではない、
空の様な青でありながら同時に雲のような白を有している色をしている長い髪、
そう、
表現するとするなら、
青でもなく白でもない色、
銀色というべきか。
彼女の拳には何一つ得物はなく、
拳を守るために着けているだろうグローブに宿るはずのない光を宿しながら、
彼女は、
女性は進んでいく。
「……しかし、オーディンのヤツも面倒な。
『世界の終わり』もまだろうに。
ベルセルクを地上に寄越すとは、の」
さてはて、
「『上の世界』ももう既に亡きモノになっているか……、」
それとも、
「これから終わらせるのか」
まぁ、
「……儂には全く分からんがな」
やれやれと肩を竦めるようにしながら、
金属を出鱈目に張り付けたとしか表現できないモノ、
言うなればそう、
ガラクタ、
それに拳を撃ちこんでいく。
「……まぁ、確かにバルドルの小僧が死んでからしばらく経つわけじゃが……」
あやつめ、
「未だに傷心でもしておるのか……?
何が起きるかはもう既に分かっているだろうに」
面倒な、と吐き捨てる様に呟きながら背後から襲い掛かる刃を躱しながら、
相手の背に身体を付けると、
静かに拳を当てた。
直後、
それほど力を掛けていないはずにも関わらず、
ガラクタは身体を瓦解させる。
そうして身体を崩してみれば、
目に映らない靄のようなモノが女性の目に映る。
「おうおうおう、汝はゆっくり休んでおれ」
ま、
「またすぐ起きるであろう『世界の終焉』の時には力を貸してもらうと思うがな。
せめて、それまでは……」
ああ、
「それまではゆっくりしておると良かろう」
そう呟くと、
彼女は顔を前に向ける。
その正面に映るは先程のガラクタと同様、
もしくは身体を変えたガラクタ達が目に映る。
その光景を見て、
彼女はため息を一つ吐く。
「やれやれ。いくら地上に堕ちた身とは言えども、力無き者を滅ぼそうなどとは思わなんだ」
じゃから、
「貴様らはここでワシが食い止めてみせるとしよう」
ああ、
「儂の名に、」
「テュールの名に懸けてな」
そう言った直後、
彼女、
テュールの姿が消えると同時に、
正面にいた数十のガラクタの身体が崩れた。