この世とあの世の生活〜第14話〜
「地獄は暑い。むしろ熱い。このくらいの暑さなど…」
「じゃあ、その足にある水の入ったタライはなんですか?」
こん助の指摘通り、閻魔大王の足元には水の入ったタライがあった。
「暑いよぉ〜!!白刃、何でそんな涼しい顔してんのぉ〜?」
と杏慈は黒い鱗の龍の下半身を伸ばして仰向けになってうちわで自分をあおいでいた。ツンッと涼しい顔をしている白刃は杏慈を見て呆れる。
「お前、煮えたぎった血の川とか平気で泳いでるだろ?何故暑がる?」
「なんかさー、現世の暑さと地獄の暑さって違うんだよね…こう…湿気ってないじゃん。閻魔様の言う通り、熱いって感じでさ…火の山とか火の川とか湿っぽくない」
「いや…よくわからんのだが…」
「皆さんはいいじゃないですか…僕は毛皮着てるんですから…」
とこん助は舌を出してハッハッハと息を吐く。と、杏慈が自分のうちわに広告があるのに気がついた。そこには、前に閻魔大王らが行ったスポーツ施設のプール開放の広告だった。涼しげな広告に杏慈が上半身を起こした。
「みんな!ここ行こ!ぷーるとか何か涼しそう!水風呂っぽいところ!!」
と杏慈はうちわの広告を閻魔大王らに見せた。そこには水着姿の女性たちがプールではしゃいでいる姿だった。
「「「?!」」」
男2人とオス1匹は目を疑った。
「な、何だ?!このはしたない姿は?!裸ではないか!?何と言う施設だ?!風呂でもない、人様の前で女が肌を公然の目の前で晒すとはっ!!」
「杏慈!お前は嫁入り前だぞ!?見知らぬ男に肌を晒す気か?!」
「何ですか?!この布一枚の格好で人前で泳ぐなんて!!」
と“水着”と言うものを着ていても裸同然な格好に閻魔大王、白刃、こん助は驚いた。
「えー!!でも涼しそう!この衣、かわいい!」
とビキニ姿の女性を指差す杏慈。だが、男たちは止める。
「破廉恥な!!そんな格好を男共の前でしてみろ!皆、衆合地獄に堕とすぞ!」
「ええい!それだけではたりませぬ!目を抉りましょう!!」
「ついでに引っこ抜きましょう!!」
「ちょっと!!そこまでしなくてもいいんじゃない?!これも現世を知るため!時代は変わってるのでしょう?!閻魔様!」
「くぬぅう〜!!」
と閻魔大王は顔をしかめた。
杏慈は閻魔大王に人間の姿にしてもらい、一行は炎天下の外に出て、最寄りのデパートへ向かった。
「暑かった…」
「閻魔様…バスに乗ったらよかったのでは…?」
「何だ…移動手段があったのか?!」
「わー!この建物の中、なんか涼しい〜!!」
と黒ずくめのバンドマン風の男2人に、女子大生風の女と小学生の男と言う不思議な一行がデパートにやって来た。こん助はタブレットを見る。
「杏慈さんが言ってたのは“水着”と言う衣ですね…」
「あ、あれかな?夏の特設って書いてる!」
と杏慈は走る。
「杏慈!走るな!」
と白刃は杏慈を追いかけた。
「杏慈さん、人間の姿になれたのも嬉しいんですね…と言うか、何故だろう。2人を見てると、アツイ」
「初々しいものよー」
とこん助と閻魔大王ははしゃぐ杏慈を追いかける白刃を見て和んだ。と、水着が売っている特設販売所に着いて、閻魔大王と白刃とこん助の足が止まった。目の前にはビキニなどどう見ても面積の狭い衣しかなく、目のやり場と中に入る事が出来なかった。
「ぅぐっ?!ななななな!」
「…っ」
「な、何ですかー?!このあらでもない衣は?!」
そんな男たちを後ろに杏慈はズカズカと入って行く。色とりどりの柄の水着があり、杏慈の胸は弾む。
「わー!いっぱいあるー!!どれがいいかなー!!」
と杏慈が目移りしていると、女性店員が杏慈に声をかけて来た。
「水着をお探しでしょうか?」
「あ、はい!でもどれがいいかわからなくて…」
「そうですか…お客様でしたら…こう言うのはいかがでしょう?」
と店員にそれぞれ選んでもらった。5着ぐらい気に入ったのがあったが、迷う。
「う〜?」
「今日はお1人でしょうか?」
「いえ、付き添いはいるんですが…」
と杏慈が目を向けると、特設販売所の前にある長椅子にバンドマン風の2人と子供1人の全員俯く男たちがいた。
「お友達ですか?」
「いえ、上司と上司の御付きと幼馴染です」
「そ、そうですか…」
と戸惑う店員。杏慈は5着持って閻魔大王たちのところへ行った。
「閻魔様ー!白刃ー!こん助ー!この中でどれがいいと思…」
「「「却下」」」
「見てないじゃん!!」
と皆目をそらして声を揃えた。
「え、閻魔様…!上司なのですから、ビシッと言ってくださいよ!」
「馬鹿者…!こう言うのは幼馴染で恋仲である白刃が言うべきだ!」
「恋仲ではありません!」
小声で小競り合いをする閻魔大王たち。杏慈はムーッとし、
「白刃!!」
と叫んだ。白刃は驚いて顔を上げたが、また伏せた。
「白刃、どれがいい?」
「ば、馬鹿か!?何故私に選ばせる!?」
「だって、1番歳近いし、幼馴染だし…!」
と杏慈の頰が少し赤くなった。チラッと黄金色の瞳でそれを見た白刃の頰も赤くなった。そして横を見ると、ニヤニヤする閻魔大王とこん助がいた。
「〜〜っ!!来い!杏慈!!」
「え?」
と白刃は立ち上がって、杏慈の腕を掴んで特設販売所に向かった。そして先程の店員のところへ来た。
「すみません!私はこいつの幼馴染なんですがっ!」
「え、はい?!」
「こいつはとても泳ぐのでこの衣では心もとないので、もう少し頑丈なものはありませんか?!」
「あ!泳ぐ方だったんですね!」
と店員が言うと、別な場所へ行き、いくつか持って来た。
「こちら、競泳用の水着となっております」
と競泳用の水着を持って来た。
「む…体の線が見える…。もっと形の違うのはありませんか?」
「でしたらこちらはいかがでしょう?」
数分後、紙袋を持った白刃とうなだれる杏慈が出てきた。
「して、白刃よ…選んでやったのか?」
「無論です。こちらです」
と白刃はガサリと紙袋から水着を出した。それは上半身は脱着しやすい前にチャックがついていて、下半身はスパッツ型で尚且つ体の線が見えにくいデザインの水着だった。
「うむ。それならいい」
「それなら目のやり場に困りませんね」
と閻魔大王とこん助の許可が降りた。杏慈は、
「私は…あっちが…」
と言うが、白刃は牙をむき出し、
「駄目だ!あんな衣でお前の両親の前に出てみろ!お父上様とお母上様が卒倒するぞ!」
「ぅ…お父さんお母さん…」
と言われて杏慈は小さくなる。
「気は済んだだろう、杏慈よ。さて、甘味処でかき氷でも食って帰るぞ」
この後、うなだれる杏慈を引きずりながら、閻魔大王らはデパートを堪能し、涼しくなった頃に家路に着いた。
ちなみに白刃に選んでもらった水着はアパートに飾ったままである。
私は「プールで遊ぶ」ってどうやって遊ぶの?状態の競泳用水着で25mプールをバタフライ以外で泳ぐ人です。遊び用水着はありません。戦うんだ!