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壁ドンテイク3

季節は秋。

 実りと活力の季節。

 秋に蓄えた栄養を冬を超え春に持ち越す準備の期間。

 夏の日差しは弱まりをみせ。

 だんだんと過ごしやすくなっている。

 すこし前までの猛暑が嘘のようだ。

 太陽はいつだって気ままに人々を晴らす。

 過ごしやすい秋も、雪の積もる冬も、肌寒さの中に暖かさが芽ばえる春も、一番力を入れる夏も。

 少しぐらい人の事を考えてもいいのではないだろうか。

 そんな人間の考えなどわれ関さず、太陽は光り続ける。

 でも、人を照らす太陽は天だけにあるわけじゃない。

 これは、俺の太陽と俺の話だ。


 「ようはそれだけ? どいて邪魔よ」


 「待てよ」


 俺は後ろの壁に片手をつき進路をふさぐ。

 その程度の用事だったら俺だって呼び出さない。

 そんな俺に対し――は俺を睨みつけ。

 その俺の腕に細い指先を沿わせるように掴む。

 彼女の指は肉付きは薄く華奢な感触がした。


 「何まだ、なにかよう」


 不機嫌な彼女は俺を澄んだ瞳で睨みつける。

 普段の清楚な印象と違い。

 明らかなる怒りを感じる。


 「お前状況分かってんか?」


 「私の目の前にこれ見よがしに壁ドンした痛い男がいるだけね」


 全くこいつは、思わずため息が零れそうになる。

 彼女はやれやれと肩をすくめ。

 俺の腕を無理やり取り払う。

 その力は華奢な腕から想像できないほど強く。

 難なく取り払われてしまった。


 「いくわね。――君」


 「待てよ。――」


 「なによ放してよ……」


 彼女を掴み見つめる。

 さらさらな茶髪は昼の日差しを反射し艶やかな光沢を放ち。

 釣り目がちながら整った顔は困惑で僅かに歪むが、その美しさは崩れていない。

 華奢な腕は予想以上に柔らかくて、気のせいか脈が速く波打っているきがした。

 次に彼女の頬に紅が灯る。

 恥ずかしいのだろうか。

 何故がそれが可愛らしくて。

 色っぽくて。

 つられて俺も頬が熱くなる。

 もう片方の手は自然と彼女の下あごに動いて。

 顔を強引に俺に向かい合わせる。


 「俺の事嫌いか?」


 そのつい出てしまった言葉に思わず顔を覆いたくなる。

 限界まで近づけた彼女の甘い芳香が鼻腔をくすぐる。

 ヤバイ……ドキドキしてきた。

 唇と唇は少し近づけただけで触れ合ってしまう距離。

 彼女は顔を崩さず、真摯な顔で俺を見つめる。

 その表情からは好意も敵意も感じることができない無機質な物で。

 その神秘的な表情は実に様になっていた。

 そして彼女は、

 

 「……卑怯よ。嫌いなんて言えるわけないじゃない……」


 俺は彼女を抱きしめる。

 その手には思わず力が入り、彼女が苦痛の声を上げる。

 俺は卵を扱うようになイメージで力を抜き。

 彼女の顔を見た。

 俺に抱きしめられた彼女はとろんとした顔で俺を見つめる。

 その表情は清楚で時折高潔な姿を見せる彼女からは程遠く。

 一人の女の顔をしていた。

 俺の目にも彼女の目にもお互いの事しか映らず。

 甘い香りはますます濃度が濃くなり、クラクラしそうだ。

 彼女も甘い香りにやられたのかますますだらしないけど、可愛らしい表情を浮かべる。

 彼女の口が薄く開いた。

 でも声は聞こえない。

 何かを言ったのだろうか。

 俺の疑問を他所に、彼女は目をつぶり唇を尖らせる。

 これが彼女の言葉の代弁。

 俺の答えなんて決まっている。

 俺は彼女への返答を唇に返した。

 二人が溶け合って一つになったよな感触。

 この甘い蜜月が永遠に続けばいいのに。

 このまま時が止まればいいのに。

 彼女の唇は柔らかくて、痺れる様に甘くて、溶けるような快感ともなっていた。

 唇をそっと離した。

 唇と唇は離れも見なえない糸でまだ繋がってさえいるとさえ思える。

 彼女の顔が直視できない。

 彼女の表情を見つめたいけど。

 何故か顔を見るのが恥ずかしくて。

 顔は熱湯でも詰まっているかのように熱い。


 「ここまでやる? 凄いよかったけど」


 「仕方ないだろ、脚本コリ過ぎてついノリで」


 思わずやりすぎてしまった。

 ポケットに突っ込んだ脚本をちらりと見る。

 これは彼女たっての希望で、始めた練習だったはずだ。

 それをノリとはいえ唇を重ねたのはやりすぎだ。

 未だ彼女の柔らかい唇の感触の残る唇に指をはわせる。

 柔らかくて刺激的で癖になりそうだった。

 そんな俺に彼女はぼそりと、


 「まぁ、いいわ好きな人とファーストキスできたんだから」


 「いまなんて」


 「ふふ、秘密~」

 

これで壁ドン終わり

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