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抱き寄せた彼女は

俺は肩に頭を寄せる彼女の肩に小刻みに震える手を回し、抱き寄せた。

 触れば折れてしまうような華奢な小さな肩は、肉付きこそは薄いが女性特有の柔らかい感触で、手に少し熱い体温が伝わり心地いい。

 俺はその感触を楽しみつつも少しの後悔の念が生まれる。

 俺は彼女を友人ではなく女性として見ている。

 彼女は俺の理想。

 華奢でありながら充分な柔らかさを感じさせる体。

 顔はそれほど整ってはいないけど、可愛らしい目鼻立ち。

 胸は控えめで少し小さい背丈。

 そんな俺の理想を体現したような彼女に俺が触れてしまうと、絵本の人魚姫の様に泡となって消え去ってしまうかもしれないそう思った。

 高貴なる存在に触れる事をためらう人間の様に俺は彼女に憧れと幻想を抱いた。

 だからこそ彼女に淡い感情と憧れこそは抱いても、深く彼女に触れ友人としての一線は超える事が出来なかったのだ。

 でも、友人関係ではもう満足できない。

 彼女と触れそう感じ確信してしまった。

 自ら幻想に触れる事は人間においてはタブー視させる事さえある。

 幻想は幻想でありその手で触れてしまえば幻想のベールは砕かれる、幻想は砕かれると何が出てくるのか。

 それは現実以外あり得ない。

 幻想は夢幻を纏った現実である。

 現実の彼女失くしては幻想すら生まれない。

 彼女という存在無くしては。

 彼女の肩に回した手は、普段よりわずかに力がこもりそんな俺の姿を、彼女が不思議様に見つめていた。

 幻想を纏わない彼女は小さくとても魅力的で、幻想に触れた後悔の念は僅かな時と共に消え去り、俺の目に彼女だけが映る。

 上目遣いでほんのり頬を朱に染めた彼女。

 その視線は俺に媚びるように吐息は熱ぽく見えて。

 二人の視線は自然と重なり近づいて唇をそっと重ねた。


 「ごめんなさい……」


 唇を触れる寸前彼女がそう呟く。

 俺はその言葉の意味をその時は知る由もなかった。

 このキスがすべでの始まり。



似ている世界観のものが出てきても作品同士繋がっていません。


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