優希の決意
朝日が丘の向こうから顔を出し、大地が明るく照らし出す頃、リリーは未だ目覚めていなかった
「砂糖とミルクはある?」
優希は手頃な石に腰掛けて手元の指輪に話しかけていた
「じゃあよろしく」
そう言って優希は手元のカップにコーヒーを注ぐ
空中に小さな小窓を作ると中から砂糖とミルクの小瓶を取り出しカップに移すと小瓶を戻して窓を閉じる
「まさかこっちでコーヒーが飲めるとは」
元々甘いコーヒーを飲むのが好きだった優希にとって、豆が見つからないと知ったは辛かった
「崖の上にあるんじゃあ見つからないのも仕方ないよね」
話し相手もいない優希はぽちに向けて話しかける
登った場所は開けた場所ではあったものの、取り囲むように木が生い茂っていたのだ
「ふぅ…これはお店でも出したいね」
優希は悩む心を落ちつかせるために夢を口にする
「本当に…」
繰り返しカップを傾けながらも優希は下を向いたままだ
もぞり、とリリーが目を開けぽちの背に預けていた身体を起こす
「飲む?」
「お願いします」
優希は魔法で豆を煎り、砕いて熱湯に落とす
「魔法って便利だよね。幾つもの道具を使って淹れるものが道具も使わず簡単にできるんだからさ」
しばらくの時間を置いて空中に浮かべた熱湯から、役目を終えた豆を取り出して残ったコーヒーをカップへと移す
「はい。砂糖とミルクは箱に入れてもらったから」
カップを受け取ったリリーは先程優希がやったように小窓を出現させる
「私を、嫌いになりますか?」
「どうして?」
「…」
ミルクを入れたリリーは唇を噛み締める
「例えリリーが神様と繋がっていたとして、これからの行動に変化があるわけじゃない。片方が生きていれば完全に死ぬことは無いんでしょ?」
「…それは、そうですが」
「ならば考えることはひとつだけ。起こりうる結末までに何が出来るかって事だけだよ」
カップを傾け喉を鳴らした少女は肩を震わせながら俯く
「結局のところ出来ることをできる者がする。そうして世界が回っていくってだけだよ」
優希は悩まなかった訳では無い。どちらにせよ優希はこの世界に骨を埋めることになるのだから、かつて見た英雄になるという夢を実現してみようと考えたわけだ
「本当に、それでいいんですか?勝てない相手と戦うことになるんですよ?」
悲痛な顔でリリーは優希に尋ねる
「やらずに後悔するくらいなら、やれることをやりたくなっただけだよ」
「…」リリーは
「それに、まだ僕はリリーの事をあまり知らないからね?」
優希は立ち上がるとリリーのそばまで近寄ると彼女の顔を見つめる
「は、はい…」
目をそらす事無く、リリーは優希を見つめ返した。
ふたりが2人の世界に入っている傍らで、ぽちは風に吹かれて揺れる花を、あくびをしながら眺めていた




