優希の役割
深夜、優希はぽちの背中に乗って西へと歩を進めていた
話を終えたリリーは宿探しではなく、すぐに旅立つことを優希に提案した
「そろそろ急ぐ理由教えてくれてもいいんじゃないの?」
「着けばわかります」
優希に抱きついた状態のリリーは相変わらず理由を説明しようとしない
「あとどれくらいかは教えてくれてもいいんじゃない?」
「そうですね……このうえです」
「えっ?」
見上げると目の前には崖があった。ぽちは壁と空中を交互に蹴りながら空へと登っていく
「ひぇっ!?」
2百メートルはありそうな岩肌を軽々と登っていく
「これはっ、空気を、踏んでるんっだよね?」
「魔法で足場を作る応用ですね。一瞬だけなら消費量も少ないですから」
「いろいろ、つかえ、そうっでっは、あるねっ」
平地とちがい優希はジェットコースターで揺らされているかのような錯覚を受ける
崖を登りきるのにあまり時間はかからなかったものの、優希の気分を悪くするには十分だった
「うおっぷ…うげぇ…」
「ぎりぎり間に合ったようです」
「え、何に?」
優希が見上げるとリリーは空を見上げていた。視線をさらに上にあげると月がかけ始めたのであった
「時間は長くありません。手短にお願いします」
「え?どういうこと?」
月が完全に見えなくなると、リリーは優希をしっかりと見据える
「急ぎの件でしたのでこのような形で失礼します」
「その声は…」かつて優希をこの世界に導いた者の声だ
「そして、あなたに説明することなく全てを任せることになり本当に申し訳なく思っています」
そう言うと彼女は深々とお辞儀をした
「で、それを言うためにこの場を作ったんです?」
「いいえ、現状を伝える為です」
「現状とは?」
「まず、世界のバランスはあなたを起点に動いています。あなたが動くほど引き込まれるように物語が動き出すのです」
「それは動かない方がいいってこと?」
「いえ、動くことは問題ではありません。動く事によって結末が近寄ることが問題なのです」
「同じ事では?」
「既に終焉を招く者は産まれました。あなたは遅かれ早かれその者と戦うこととなります。結末として決まっていることはひとつ、その者が負けないという事だけです」
「つまり、動くほど期限が迫るってこと?」
「はい。ですが、動かなければ結末はより悲惨なものとなるのです」
「より良い結末へと向かうためには動かなければならないけど動くほど時間は無くなるってことだね?」
「はい」
「そう、ですか…」
「この世界にはあなたが必要ですが、あなたには何の責任もありません。あなたが望むのであればこの世界から抜け出すことも出来ます。無責任かも知れませんが、このような事しか我々にはできないのです」
「もしこの世界を抜け出すことを選択したら?」
「結末は、ひとつだけです」
「考える時間はあるの?」
「この子から私へと報告ができるようにしてあります。1週間ほどではありますが猶予もあります」
「すこし、考えさせてください」
「本当に…すみません…貴方には…何も…」
そう言葉を呟き、彼女は力なく崩れ落ちる。
意識をなくしたリリーを、地面に届く前にぽちが受け止める
見上げると月が世界を照らし始めるところだ
「…まったく、世界を頼まれるような人間じゃ無いのになぁ」
その呟きに答えるものは、何もない




