お茶を求めて
「和菓子を作ろう」
そのために優希はとても欲しいものがあった
「お茶ですね!」
権兵衛さんに教えられた茶葉を作っているという町に少し分けてもらいに行くのだ
「久しぶりにのんびりと、護衛でもしながら行く?」
久しぶりの定位置についたぽちが
「わんっ」
と声を上げた
「では、あとを頼みます」
スタッフに見送られながらの出発である。
お店をまるっと任せるとはいえ、何かあれば瞬間戻れるのであまり心配はしていないわけであるが…
「まずはギルドだね!」
久しぶりの旅で心が踊るのは仕方の無いことだと思う
「セイファス行きのものは昼に出発するものがありますね」
ギルドの掲示板でいくつかの依頼を見ながらリリーが教えてくれる。
それなりに読めるようになってきているとはいえ、まだ優希が読めない文字は多い。
「翻訳魔法を作れば楽なんだけどね」
どこか負けた気がしてしまうのが嫌で地道に覚えているのだ
「東の国ってセイファスって言うんだ?」
言葉以外にも知らない事は多い
「宗教国家と言いますか、かつて勇者を産んだという自負により大きくなった国です」
「って事は勇者崇拝的な?」
「今は次の勇者がどうなるかで盛り上がっているようですね」
「もし国内で生まれようものなら凄いことになりそうだね、それ」
「勇者誕生の予言が出てから、出産率が上がったようですし勢いを増してくるのは間違いないです」
「若干嫌な気配を感じるよ」
「穏やかだった事はないですからね…また何か起こるとは思います」
「せめて、大事では無い方がいいな…」
そんなぼやきは当たり前のように外れるのであった
「道中宜しくお願いします!」
たぷたぷと体の肉を揺らしながら喋るのは今回の依頼者である商人なのだが、どう考えても長く走れなさそうな体型をしている
「宜しくお願いします」
馬車1台に商人と付き人二人、そこに優希達が護衛として加わるわけなのだが…
「どうやらハズレみたいですね」
優希にだけ届く小さな声でリリーが囁く
「ハズレとは?」
これまた小さな声で尋ねる
「そのうちわかります」
教えてはくれないんですね?
「どうかされましたか?」
商人はずずいと顔を寄せてくる
「いえいえ。夜をどうするかの相談をしていただけですからおきになさらず」
「ほっほ。そうでしたか。これらにも火守りをさせますので使ってやってくださいな」
フードを深くかぶっていて顔がわかりにくかったのだがどうやら女性らしい
「長く話しているとひがくれてしまいますからな、そろそろ出発しましょう。ほら、さっさと支度せんか!」
商人は振り返りながら二人の従者を突き飛ばすように肩を押した
「…なんとなくわかる気がする」
人をぞんざいに扱う人間に、ろくなやつはいないからね
「おそらく、その予想よりも悪い結果となりそうです」
ただ送り届けるだけでは終わらないのが優希の旅ということである