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女子高生


東京という街にももう何も感じなくなってしまった。長野という田舎から夢を持って上京、そんなドラマの主人公のような俺の姿はもうない。いつものコンビニに入って、いつもの雑誌コーナーでいつもの立ち読み。ここで、時間を潰しながら今日の夕飯を考える脳内。料理はしない。そんな気力はとうの昔になくなっていた。健康的にも文化的にも低水準すぎる生活は、親からの2週に1回の惣菜の仕送りでなんとか潤いを保っている。金にプラスして食材まで仕送りをしている親は、俺のことを何だと思って仕送りを続けているのだろう?どうして仕送りを送っているか?より俺を何だと思っているか?のほうが興味があった。親とは一切の連絡はとってないし、実家に帰省することはもう何年もしていなかった。帰省する金なんか無かった。いや、実際帰省すれば親が交通費くらいくれるだろうがそこには大人としての俺のプライドが邪魔をしていた。もっと思いっきり親に寄生できればもっと楽に生きられるかもしれないが、親にそれ以上求めることができない。それが俺の中途半端なニート人生がずっと継続されているひとつの理由だった。現実逃避。そう言えばそれひとつで片付けられる、親という現実の象徴に会うのが怖かった。


気づかぬうちに雨が降ってきたことに気づいたのは、隣で立ち読みを始めた会社員のビニール傘がふいに俺の腿に触れたからだ。やんわりとズボンが濡れたことに怒りを覚えたが2秒で消えた。よそ行きの服でもなんでもない。怒るほうが無駄だ。雨は音を立てて、降り続いた。ふとガラスから外に目をやると1人の高校生の女の子が座っていた。後姿だけでも、伝わる清純そうな雰囲気が、かすかに残る俺の心の男の部分をくすぐった。顔が見てみたい。学生時代から青春というものを味わった記憶のない俺は、きっと顔を見て心が熱くなったとしてもそのあとなにも動き出せない。きっとじゃない絶対。というか第一、女子高生が29歳ニートを相手にしてくれるわけがない。いくら金を積めば…そういう問題だ。今日の夕飯、卵ふんわりオムライスを温めてもらい、金を払って店を出た。徒歩15分程度の道のりを共にするホットスナック、今日の俺の気分は108円の唐揚げ棒。これを食いながら、音楽を聴きながら、ぼーっと歩くのが俺にとっての生きることだった。一応、健康を気にかけ、最寄りではなくここのコンビニを行きつけにしている。いらぬ健康意識、その15分の歩行をもっても唐揚げ棒一本分も消費できないというのに…。自動ドア付近のゴミ箱に唐揚げ棒の包みを捨てて歩き出そうとすると傘を持っていないことに気づく。傘立てを見るとたくさんのビニール傘。いかん、いかん。ふとそのまま目線を上に持っていくとさっきの女子高生がケータイをいじって座っていた。いかにもかわいいという顔ではなかった。正直、イメージとは違った。ケータイを見つめるその目つきは、なんとなく社会への反抗心のようなものが感じられた。いや、感じすぎか。夜の生活で感じたことのない俺は、こうした文学的人間観察で心を快感に導く。気持ち悪い、俺。それでもいわゆるブサイクではなく、大きな瞳に、綺麗な鼻、ほんのり赤い唇は、いわゆる量産型の女子高生とは一線を画していた。この子は何かを背負っている、心に何かを抱えている。見知らぬ女子高生に俺の勝手な解釈の人物設定を投影し、俺はこの女子高生という物語に集中してしまっていた。気持ち悪いことに5分くらい見てしまっていた。女子高生は俺に気づいていないはずだ、ずっとケータイを見ている。自動ドアが開いて、さっき俺の隣で立ち読みをしていた会社員が出てきた。俺は少し女子高生に近づく形に会社員の道を開けた。黒髪ショートカットはつやつやに照り、肌は雪のように白かった。かわいいでは表せない、俺のボキャブラリーでは表せない、でも心では噛み砕いて味が出るほどに女子高生に何かを投影していた。耳に三日月のピアスをしていたその女子高生は、自動ドアの音ともにピアスを外し、差し出された2万円をブレザーの胸ポケットに入れ会社員と歩き出した。え?え?ええええ?どゆこと?いかにも会社員!風なメガネの男はコンビニATMから2万円を降ろし彼女に渡しのだった。時刻はちょうど午後6時。なぜか少しだけ俺は悔しさを感じていた。そして、知らぬまにただならぬ2人の後ろを早歩きで追っていた。傘なんていらなかった。

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