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透明の灰皿

作者: 眠る
掲載日:2014/11/21

昨夜書いた手紙を読み返して、やっぱりこんなものは渡せないとびりびりに破いた。

ごみになった手紙を持って、立ち上がる。ぼさぼさの頭のまま部屋を出ると、台所でふみさんが煙草を吸っていた。白いマグカップを灰皿にしている。


ふみさんは、何でも灰皿にしてしまう。コンビニで当てたお皿から買ったばかりの高いグラスまで、家には灰皿になってしまった食器がたくさんある。


何かを考え込んでいるように見えたのでどうしたんですか、と聞いてみると思いつかないんだよねという答えが返って来た。


「思いつかないって、何が」


「いい返事が」


ふみさんはそう言って煙をふーっと吐き出す。吐き出した唇の形のまま宙を見つめている。

牛乳を飲もうと思って使えるマグカップを探しながら話を聞くと、知り合ったばかりの男性から好きな映画は何かとメールで聞かれて返事に困っているということだった。

ふみさんはとてつもない映画好きで、煙草を吸い始めたのも映画の影響だ。相手もなかなかの映画好きで、だから何と答えるかとても迷っているのだと言う。映画はあまり観ないわたしはふみさんに何も言えないのでそっとしておくことにした。


結局マグカップは見つからず、ワイングラスで牛乳を飲み、支度をして家を出た。


電車に揺られながら、手紙を書き直さなければいけないことを思い出して憂鬱な気持ちになった。いっそのこと、手紙なんて出すのは辞めておこうかと思った。いい天気なのでどこか遠くへ行きたいなと思いながら職場に向かった。


その日家に帰るとふみさんがいなかった。テーブルの上にはふみさんの携帯と、灰皿になってしまったワイングラスが置いてある。

携帯を持たずに出るなんてと思いながら放っておいたけれど、深夜になっても帰って来ないので不安になって立ち上がる。朝まで帰って来ないときはいつもなら連絡が来る。

携帯を持たずに何も告げずに出て行ったひとをどうやって探せばいいかわからずに途方に暮れた。とりあえずパジャマのまま上着を来て、靴を履く。ドアの鍵をかちゃりと回して外に出ると、すっかり夜なのでよけい不安になる。

どうしたものかとしばらく夜の街を眺め、ふと、朝遠くへ行きたいと思ったことを思い出した。家の鍵をかけて、夜の中を歩き出す。


即興小説に投稿した内容を加筆・修正しました。

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