4
通学のバスのなかでもアオは、あまりにも美しいブルーだったから羨望と憧れの対象となった。
みんなの視線を集めるアオ。
褒められているのはアオだというのに、まるでバスに乗ってる女の子たちがみんな、あたしと話しをしたがっているみたいに勘違いしてしまう。
教室に入っていってもその状況はいささかも変わりはしなかった。腕にアオを巻きつけて得意満面になったあたしのもとにクラスじゅうの女の子たちがわらわらと駆け寄ってきた。
「こんなきれいな蛇、いまの今まで見たことがないよ。すごいね。名前はなんていうの?」
早速の問いかけにあたしは押し合いへし合いしながらこたえる。クラスメイトに取り囲まれるなんて、はじめての経験だ。あやかなちゃんにでも、なったみたいな気分。すごく嬉しい!
「プシコパニキアっていうの。お父さんが付けた名前なんだけど、変てこな名前だからアオって呼んでる」
あたしは胸を張り、堂々とした態度でいった。弾んだ声が少しだけ、上擦っていたけどね。
「ごめんね」
いきなり謝ってくる女の子がいて、面喰らってしまう。
「なにが?」
「あたし、これまでさ、ちびくろちゃんの魂ってものすごく汚い、と思ってたんだけど、こんなに素敵できれいな蛇を飼ってるんだね。すごいよ」
やっぱり飼い主が褒められている。賛同する声があちらこちらから上がった。もちろん、あたしの魂がすぐにきれいにならないことぐらいあたし自身がよく知っていること。だから、口々に浴びせかけられる賛辞を認めることは自分にたいし、嘘をつくことにひとしいということもわかっていた。けど、あたしはすでに酩酊したみたいになり、頭が芯から痺れてふらふらしていた。すっかり有頂天になってしまっていたということね。
ちなみにあたしの渾名、ちびくろという。どういう意味かはわかるよね。ちっこくて皮膚の色が浅黒いから、ちびくろだ。まるであたしの魂そのものみたいに。
「ねぇね、それよりもさ、あやかなちゃんはもう学校にきてる?」
あたしは訊いた。
「う。あやかなちゃん?」
うしろから、「あ、あやかなちゃんならもうきてるよ」と声がかかる。
「呼んでこようか」
こういうとき、お節介さんがいてなにかと世話を焼いてくれるので助かる。あたしは言った。
「うん。お願い」
「あやかなちゃーん」
誰かが呼んだ。そしてそれに一拍遅れて、みんなが唱和する。
「あやかなちゃーん」
これだけあたしを中心にして人だかりができていたのだ。あやかなちゃんが気づかないわけがなかったが、彼女の姿はここからでは見えなかった。
誰よりも先にアオのこと、あやかなちゃんに見てもらいたかった。そしてあやかなちゃんに褒めてもらいたいかった。あやかなちゃんがあたしのお母さんになり、結局はアオではなく、あたしのことだけを《ほ》褒めて欲しいと願ったのだ。
あたしは信じていた。いや、疑いすらしなかった。あやかなちゃんがあたしの願いをかなえてくれないはずはないってことを。
「あやかなちゃーん、ちびくろちゃんが蛇をもってきたんだよ」
女の子たちがあやかなちゃんの背中を押し、輪の中心にいるあたしのところへと押し出した。びくびくおどおどしながらも、あたしは期待を込め、あやかなちゃんのこと、みた。最初、戸惑いながらも微笑んでいるのはいつものあやかなちゃんだった。でも、アオのすがたをみた瞬間、あやかなちゃんはひどく驚いた表情をした。たぶん、それがほんものの蛇ではなく、あたしがいつもそうしているみたいな、いわばビジネス的なしかけでもってきたフェイクの蛇だと思っていたようすなのだ。けれど、アオはそうではなかった。草色のクサとおなじく神さまから賜った蛇であり、しかも魂がきれいでなければ、その蛇のオーナーにはなれないのだ。そのことは、あやかなちゃんにもわかったようだった。そしてアオがさらにクサとちがっている点は、アオがただひたすらに「ただしい」蛇だということなのだ。




