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 そうそ、――あやかなちゃんの蛇についても話しておかなければ。


 それはみずみずしい草の色をした小さな蛇だった。


 少しくすんだ草の色だけど、見ているだけで心が朗らかに明るく変化してゆく、そんな自然な浄化作用があるようで、さすが神さまから魂のきれいな人だけにもたらされた蛇のことだけはある。

 あやなかちゃんが学校に持ってきてくれたおかげで教室の雰囲気が洗ったみたいにぴかぴかになり、蛇がいるおかげでとてつもなく慰められる思いがした。


 あやかなちゃんの蛇は、草色のクサという名前だ。

 クサは黒いつぶらな瞳で、いつも愛おしげにあやかなちゃんのこと、みつめている。

 腕に何かのアクセサリーみたいにからみついていたし、コップの水に舌をちろちろさせ、呑むすがたもキュートで、あいくるしかった。

 あやかなちゃんの吹くリコーダーのメロディにあわせ、くねくね踊っているすがたをみたことがある。時にあやかなちゃんはクサとキスをしていたし、小さな牙で彼女の指を甘く噛んだりしていた。

 さすがに刷り込みをした蛇だけあって、クサはあやかなちゃんのことをお母さんだと思っていたし、あやなかちゃんが命じる大抵のことは大人しくしたがっていた。


 あやかなちゃんがあたしに、ちょっとのあいだクサを貸してくれたことがあったときも、クサはいやがるそぶりなんてみせなかった。それもこれもあたしのことが好きだからじゃなくって、あやかなちゃんの命令がクサにとって絶対、ということの証明なんだろうな、と思うけど。


 あたしはクサのひやりとし、すべすべとしたうろこおおわれたからだにおそろおそるふれてみる。けっして噛み付いてきたりはしない。賢いんだ、とても。

 クサはあたしの右の手くびに巻きつく。あたしは彼の瞳に魅了される。黒くつぶらな球体のなかではきらめく星の雨が降っていて、その斜めに降っている雨を見つめていると、なんだか、きゅ、と好きな人に抱きすくめられたみたいな気持ちになる。どきどきと息が浅くなり、憧れの感情とよろこびでとでいっぱいになるのだ。


 いずれにしても、あやかなちゃんは学校に蛇を持っていったりしても誰からもとがめられることはなかった。なぜなんだろう?


 先生はもとよりクラスメイトからも。


 それはやっぱりみんな、あやかなちゃんの魂が清い、と思っていたし、蛇はやっぱり神さまがくださるもので貴重だったし、希少性の点からもみんながあやかなちゃんのことをリスペクトしていたからなんじゃないかな。

 たいして勉強ができるわけでもない。ちょっぴり可愛いところもあるけど、あやかなちゃんはけっして美少女というわけではなかった。

 でも、あやかなちゃんは光輝く純なる魂をもっている女の子だったから、彼女がその場所にいるだけであたりの空気が澄み切って底光りしてくる。


 彼女の指はすべての人にやさしくふれ、みんなの心をやすらぎと慰めで満たした。あやかなちゃんの唇からは花びらがあふれてこぼれだしてくるんじゃないかと思うくらい、すてきな香りがしたし、彼女に言葉をかけてもらった子らはうっとり、恍惚こうこつの世界を彷徨さなよったりもしたのだ。

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