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【電子書籍化】あの猫を幸せにできる人になりたい  作者: 霧島まるは
二年生編

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文化祭

「花さんのクラスの、文化祭の出し物は、何?」

 秋がきて十月も終わりになると、学校の話題は文化祭へと移行していく。学校帰りの花と倉内の会話も、自然とそれに流れる。

「恐竜屋敷です」

「きょ、恐竜?」

「はい、お化け屋敷の亜種みたいなものです……ほら、日本のお化けって、直接的な攻撃力は高くなさそうじゃないですか」

「えっと、そう? かな?」

「だから、うらめしやーってやっても、怖さを感じにくい人もいると思うんです」

「そう、かも?」

「でも、暗がりで肉食恐竜に出会ったら、怖くないですか?」

「怖いね……」

「はい、だからちょっと怖い恐竜迷路スタンプラリー、みたいな感じになりました。全部の恐竜に会えるかな? みたいな感じです。行き止まりで待っている恐竜と、迷路内をうろうろしてる恐竜といます」

「襲っては、来ない感じ?」

「はい、危ないので」

「安全に配慮できて、よいと思う」

 倉内のまとめに、花はうんうんと頷く。クラスでもその点が議論となった。文化祭の出し物で、怖がらせ過ぎもいけないという女子の意見により、ちょっとどきっとする程度の出し物となった。

「面白そうですよね。恐竜に詳しい男子も多くて、造形は頑張ってくれるみたいです」

「あー、うん、時々ブームが来るよね、恐竜」

「楓先輩は、何の恐竜が好きですか?」

「セントロサウルス、かな……カナダには、この化石が、たくさん出た州があって……」

 花は、あっと思った。今日の文化祭の出し物を決めるクラス会議でも、起きたことが倉内でも起きていた。いわゆる「スイッチを押した」状態になったということだ。

 一度でも、その分野にハマったことのある人特有の現象というか。しまいこまれていた箱のふたが突然開いて、思い出と情報が次から次へとあふれ出してくる。

 百人の男子高校生を並べて「恐竜スイッチ」を押したら、何人がこの状態になるのだろうか。花はそんなくだらないことを考えていた。

「楓先輩のクラスは……あ、三年生って文化祭は出店しないんですよね」

 倉内の恐竜スイッチが終了した後、花は話題を倉内の文化祭へと切り替えた。

「そうだね。受験のこともあるから、班学展示、だけだね」

 班学とは、三年だけの取り組みだ。班でテーマをひとつ決めて、調査、研究、まとめ、そしてクラス内で発表、という形となる。そのまとめられた資料の展示を、文化祭に行われる。

「何の研究をしたんですか?」

「……髪の毛」

「え?」

「髪の毛が、リンスや、トリートメントの違いで、どれだけ艶に、差が出るか……」

 面白い研究だとは思うのだが、倉内の声はセントロサウルスの時とはまったく違う、淡々としたものだった。女性の好きそうな研究テーマであることから、いろいろあったのかもしれない。

「えっと、相談に乗りますよ?」

「ありがとう、でも、大丈夫だよ。自分の意見は、ちゃんと言えたから」

「そうですか、よかったです」

 寄り添う気持ちを差し出すと、彼はそれを気持ちだけ受け取った。

「でも、リンスですか。うちはお母さんのおススメです。ほどよくしっとりですね」

「うん、天使の輪っか、出てる」

 そう言われて、反射的に花は彼の髪を見た。花の髪より細くて繊細だ。光をいっぱい反射するけれども、黒髪のストレートと違い天使の輪、のような形の光沢とは違う。

「楓先輩は、ツヤツヤです」

「そう、かな? うちも、母さんと同じやつ、だよ」

「ちなみに、研究結果によるおすすめは何でしたか?」

「女子に人気だったのが……」

 まさか倉内と、美容に関する話をしながら帰宅する日がくるとは。花は夜にそれに気づいて、一人ひっそりと思い出し笑いをしたのだった。


 そして、やってくる文化祭。

 思った以上にリアルな造形になった恐竜のせいで、暗がりに立っているだけで、女子の悲鳴が響き渡ることとなる。

 出来栄えのよさに男子が写真を撮りまくる中、女子のテンションは全体的に低い。しかし恐竜につられて、次から次へと男子がやってくるので、別の意味でテンションを上げている人はいたようだ。

 倉内楓も、恐竜につられて写真を撮りまくる人だった。

「すごいね、花さん。とても、よくできていると、思うよ」

「そうですね、すごいですね。暗がりでなくても会いたくないですね」

 花の休憩時間に合わせてやってきた倉内と一緒に、自分のクラスの迷路に入る。

 角を曲がった瞬間に、男子渾身のティラノサウルスと出会い、出てはいけない声が出そうになる。何度も見ていたというのに。

「ティラノサウルスは、やっぱり旧型が、浪漫だよね……分かってるね」

 その横でティラノに、スタンプラリーのハンコをもらって写真を撮っている倉内の横顔は、とても嬉しそうだ。

 悲鳴ではなく褒められたティラノは、手を持ち上げて照れた風に頭をかこうとしたようだが、短い手が頭に届くことはなかった。頑張って頭を傾けて何とかしようとしていた姿が、何ともいじらしかった。

 最終的にスタンプラリーをコンプリートした男女比は七:三。男子はほぼ百パーセントの成功率だった。むしろ全部見つけるまで絶対に薄暗い迷路から出ない、くらいの熱意だった。

 そんな男女で評価の変わるものではあったが、終了後に恐竜の着ぐるみがほしいという男子から、多数問い合わせがきた。校外からの問い合わせまで来た。クラスの人の話では、ツーブヤキで恐竜の写真を公開して人気だったらしい。

 結局恐竜の着ぐるみは、クラスの男子で分け合ったようだ。思い出として取っておくには、かさばると思った花は、浪漫が足りないのかもしれない。

「セントロサウルスがあったら、僕も問い合わせしたと思う」

 倉内楓も、そちら側の人だった。

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