prologue
【 】は問う。いつまでも、いつまでも……ただ、昔の面影を追い求めて――。
【 】は、この大陸が世界に現れるよりも先に存在し、後に創造されたモンスターや人間を平等に慈しみ、愛で、膨大な知識を授けた。時に友として、同志として、家族として付き合いながら。【 】は、いつしか【白銀の宝玉】と呼ばれ親しまれる。しかし、永遠とも思える長い月日の中で、【 】はいつの間にか世界から忘れ去られ、存在意義を失っていった――。
『君の願いを一つだけ叶えてやろう』
だからなのかもしれない。【 】が人間に対してこんな投げかけをするようになったのは。――自分が持っている膨大な力を少し分け与えるだけで、生き物たちは自分に振り向いてくれる。自分に気付いてくれる。最初はそれだけの気持ちで【 】は人間に対し問い始めた。昔も始まりはそうだったから。【 】はまだ信じていた。生き物たちは昔と同じように畏敬の念を自分に向けてくれると。
『何でもいい。巨万の富を望もうと、死者を蘇らせたいと願おうと。永遠の命を願おうと、憎い人間を苦しみの果てに殺すことを願おうと。君が願うなら、それこそこの世界の全てを君に与えたっていい。私は君ら人間が一度は必ず考えたことであろう願いを叶えるだけの力を持っている。』
気がつけば、【 】の投げかけはひどく歪んだものになっていた。遥か昔、初めて一人の人間に同じ質問を投げかけたとき、人間はこう言った。「自分はまだ知らないことがたくさんある。それを学び、同族を助けたい。だから、私に同族を助けられる技術を授けて欲しい」と。【 】はその願いを快諾した。しかし、自分の事よりも他人を優先できるこの人間が理解できなかった。【 】には、本当の意味で仲間と呼べる存在が居なかったから。だが、理解できないながらにその人間の答えはとても美しく、訳もわからぬままに【 】の心を打った。そのためだろうか。【 】は、人間に同じ質問を投げかけたとき、同じ答えが返ってくることを知らぬうちに期待していたのだ。しかし、その期待はあっさりと裏切られる。同じように問いかけたその先には、仲間への気遣いは愚か、欲望と、仲間から抜きんでることへの愉悦に溢れていた。【 】はその禍々しい感情に吐き気がしたものの、叶えてやった。この願いがその人間一人のものであると願いつつ。人間の根源は変わっていないことを信じながら――。
『さぁ、最後にもう一度だけ聞こう。君の願いは、なんだ?』
結果は、同じだった。【 】は失望すると同時に人間と関わることに何の感慨も抱けなくなっていた。しかし、【 】は新たに現れた人間に同じ言葉を未だ繰り返す。自我を失い、少しずつ歪んで、自分自身も染まりながら、ただ昔の面影を求めて…何度も、何度も―――。
「君の願いは、なんだ?」
人々は言う。この世界には、世の全てを手に入れられる【紫黒の宝玉】が存在すると――。