Story-2『梓→朗報』
梓が上京してから数日が経ったある日……
奈美は何やら女性ものの服の絵を描いている。今年の新作を考えているみたいだ。
仕事が一段落し、軽くため息をつく奈美。上に両手を大きく広げ、伸びをしようとした。その時、ジーンズの小さな前ポケットで窮屈そうにしていた携帯電話が騒ぎ出した。奈美は慌てて取り出し、携帯電話の画面を見た。すると、梓からメールが一件入っている。早速、本文に目を通す奈美。その瞬間だった。
「え――っ!?」
奈美の大きな声はオフィス内の隅々にまで響き渡った。中にいた5、6人の同僚が一斉に奈美の方めがけて視線をやった。奈美は顔を赤らめて言った。
「あ……すみません」
それを聞くと、みんなは何事もなかったように奈美から視線を外し、再び黙々と仕事をし始めた。メールにはこう書かれていた。
゛やった――。仕事決まったよ――っ。来週の月曜日から早速来て下さいだって。なんか……゛
メールは凡そ3ページ分にも及んだ。
どうやら梓の仕事が決まったみたいだ。それにしても驚異的な早さ。あんな女の子を雇ってくれる会社が本当にあるのかぁ?と、奈美はまだ信じられないみたいだ。
そして、次の日から梓の不動産巡りが始まった。ここは東京である。やはり、どこも家賃は異常に高い。給料が出るまでは奈美の家に泊めてもらってもいいが、梓は出来るだけ奈美に迷惑をかけたくないし、奈美の家から仕事場に通うには少々都合が悪かった。しかし、一件だけ全ての条件を満たしているマンションがあったのだ。