最終話 神様からのエピローグ
『――お前たち、ご苦労だった。見事、各々の使命を果たしたな』
人間の身体と使命を与えた神様、塵塚主命から労いの言葉を贈られ、ナホとディルは静かに顔を上げた。
自分たちの足先から、パチパチと光の粒子になって、ゆっくりと消滅が始まった。
だが――今の二人の心に恐怖や後悔といった感情は、微塵もなかった。
「ご主人といれた時間は、とても幸せでした」
大好きな人の温もりを思い出すように、ナホは優しく微笑んだ。
「あーあ、もっと美味いもの食いたかったな。せめて最後のギガントステーキ……」
ディルは首の後ろで腕を組み、いつも通りの不遜な顔。けれどその目は、いつになく穏やかだった。
「でもなんか、今オレ幸せだわ」
二人の付喪神の身体が、いよいよ光の渦へと溶けていく。
「ありがとな、ナホ――」
「わたしも、ありがと、ディル――」
そして。
消え去る最後の瞬間まで、二人の付喪神は、各々の主人の幸せを願い続けた。
◇
それからしばらくの月日が流れた。
良悟は大学を卒業した後、伊織の住む町へと引っ越した。大学在学中に取得した資格を活かし、現在は高齢者施設で食事管理の仕事に就いている。
夫婦となった良悟と伊織は、今は小さな一軒家で仲良く暮らしていた。
そんな夫婦は四年前、新しい家族を一度に二人も授かるという幸運に恵まれた。
賑やかな夕飯の時間。伊織が子供たちを呼びつける。
「穂奈美、出琉、パパのご飯が出来たわよー」
「「はーい!」」
元気な声と共に、子供部屋からバタバタと騒がしい足音。
「二人とも手は洗ったか? 今日はパパ特製のカサ増しハンバーグだ!」
エプロン姿の良悟が、大皿をテーブルへ運んでくる。豆腐や野菜をたっぷり使った、独身時代から作り続ける節約レシピだ。
「わあぁ……! パパ、美味しそう」
くりくりとした大きな瞳を輝かせる穂奈美。
その手に握られているのは、だいぶ色あせたカエルのぬいぐるみ。なぜか良悟が昔から捨てられずに持っていたモノで、今は穂奈美が宝物のように扱っている。
「オレでっかいほう食べる!」
ヤンチャで食いしん坊な弟の出流が、負けん気の強そうな三白眼を輝かせ、我先にと身を乗り出す。
騒がしくも賑やかな光景に、良悟と伊織はどちらからともなく顔を見合わせ、クスッと笑い合った。
「ほら二人とも、ちゃんと手を合わせて。せーの」
『『『『いただきます!』』』』
小さな食卓に、四人の元気な声が重なる。
パパのことが大好きな優しいお姉ちゃんと、ママのことが大好きな生意気な弟。
窓の外から差し込むオレンジ色の光が、幸せな家族の食卓を、どこまでも温かく包み込んでいた。
付喪神の縁結び おしまい




