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婚約を破棄し令嬢を奴隷商に売った王子、後悔して買い戻そうとしたが決して令嬢を渡さなかったただの奴隷商の話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/06/27

 私は第一王子フリードリッヒ、婚約者は義妹を虐める心根が卑しい女であった。


「・・・故に婚約を破棄する。義妹ミーシャに賠償を命じる」



 侯爵とは話がついている。もう彼女は侯爵令嬢ではない。



「・・・はい」


 罰も必要だ。修道院はいろいろ面倒くさい。父上、母上に説明せねばならない。

 また、復権してミーシャを虐めるかもしれない。


 しかし、偶然に耳にした。ここ数日間、奴隷商が王宮に滞在しているようだ。



「罰として奴隷商に売却とする。その代金をミーシャに渡すとしよう」

「・・・はい」



 呼び出し交渉をしたが、すぐに、売却とあいなった。

 値段は金貨30枚、まあ、令嬢としては高い方だそうだ。

 ドレス10着分か。まあ、まあだ。


 奴隷商は言う。


「殿下、一応、取り決めを話します。ご令嬢は王都の河港から船に乗ったら返品は不可でございます」

「くどい、するわけなかろう」


「分かりました。ではご令嬢、何か言うことはありませんか?」


「殿下、お世話になりましたわ」

「うむ」



 お世話になった?何かおかしい。娼館に行くと決まっているのに・・・・



 それが朝の事だ。

 遅れて侯爵夫妻とミーシャがやってきた。


 本来なら、家族の元、相談して断罪を行うはずであった。

 侯爵の案だと婚約者は貴族籍を抜け。義妹のメイドとして一生を捧げる予定であった。


 生ぬるい。



「ミーシャ、断罪は行った。イジメ女は今日中に王都を出るであろう。これが売却代金だ。受け取り給え」


 喜ぶものだと思っていたが、ミーシャの顔は曇った。


「え~、殿下、そこまでするなんて・・・」


「だって、見たくないと言ったではないか?それよりも今後の事業について話をしようか?」



「・・・殿下ぁ」

「「殿下」」


 3人は困惑している。


「この素晴らしい計画を立てたのはミーシャだろう?金の落ちるインフラ作り。正に為政者の考える計画だ」



「・・・実は殿下・・・」

「何だ。侯爵殿?」



 話を聞いて目眩がした。

 計画は婚約者アウグティーナが立てたもの・・・


「なら、それを実行すれば良いではないか?」


「現地の業者ですら、アウグティーナが調整していまして、はっきり言って分からないのです」


「まさか・・・」



 父上にも褒められた領地間をつなぐ街道の工事は、全てアウグティーナが作った物・・・だと?



「ミーシャ、君が私にプレゼントしてくれた詩は?ここで吟じてみよ」


「え、えーと、詩集がなければわからないわ」

「自分で書いた詩であろう!」



 何て言うことだろうか?全てはアウグティーナの計画、献身だったのか・・・

 連れ戻さなければ。



 私は側近達を連れて奴隷商を探した。

 顔を伏していたが、だいたい30くらいの男性だった。赤茶髪で不思議と記憶に残らない顔だ。



 しかし、奴隷商は言っていた。河港から船に乗ったら返品不可とか。

 やはり王都から出るのなら、船を使うだろう。ポー河という大河が物流の要になっている。

 河港と街をつなぐ街道を作るのが今回の計画だった。


 港についた。すぐに分かった。



「殿下、いました。あの男ではありませんか?」

「そうだ。間違いない!」


 私は荷の積み込みの指揮をとっている男に話しかけた。いや、命じた。


「おい、お前、朝、王宮にいた奴隷商だな。アウグティーナを返してもらおうか?

 金髪に碧眼、髪は上でまとめていて、首筋が見える令嬢だ。茶色の質素なドレスを着ている。

 返金してやるから、さっさとつれて来い」




 だが、奴隷商は朝の態度とは打って変わって傲慢にも断ったではないか?



「・・・朝のお客様ですね。お断りします」


「はあ?」



 金か。値をつり上げようとするのか?全く卑しい商人である。



「分かった。倍の金貨60枚をくれてやろう。さっさとつれて来い」



「いや、決まっているのです。このポー河の船に乗った奴隷は・・・」


「奴隷は?」



「返品不可でございます」


「はあ?知ってる。だから私が王子令として命じているのだ。人を商品のように扱うのか?」


「はい、左様です。私は人買いですから、売ったのはお客様ですよ」


「だから、取り消すと言っている。ロイ、こやつを斬れ!王族に対する不敬罪だ」

「畏まりました」


 護衛騎士が剣を抜き高く構えた。


 だが、手で制した。



「もう一度、命じる。アウグティーナを返せ。金は三倍だそう」


 奴隷商は大きく息をため込んだ。

 さすがに命は欲しいのだろうが・・・・



「お・こ・と・わ・りです!」

「命が惜しくはないのか?奴隷商ごときが。何故だ?」



「ですから、決まりなのです」


「分かった。四倍出す。決まりと言っても法ではないだろう形式であろう!」


「お客様・・・あってもなくても良いのが形式ですが、これは違うのです。理由があるのです」



 奴隷商は外道ですよ。

 だからこそ最低限の決まりが必要なのです。


 人を自由に返品できたらどうなりますか?人を質にように扱うようになるでしょうね・・・過去、それでトラブルが頻発しました。


 飢饉の時、子を売った親が、次の年、豊作になったからと子供の買い戻しを要求した事例が頻発しました。


 それでは人買いの秩序が保てません。


 ですから、人買いとお客様を守るために一律に買い戻しを禁じる慣習が出来たのです。

 この王都ならば、ポー河の船に商品として乗った奴隷は買い戻し不可でございます。



「なら、お前を殺し。船に火をつけるぞ」


「いいですよ。これも仕方ない。ご令嬢も死ぬことになりますが」


「なら、わ、私はどうすれば良いのだ!?」



「殿下もご令嬢と共に売られてみてはいかがでしょうか?

 殿下なら男娼窟に売れましょう。同じ買い主に売られるように算段します」



【ええ、もう良い!】




 結局アウグティーナは諦めることにした。

 何、私が計画を主催すれば大丈夫であろう。

 これで王太子の座も安泰だ・



 王宮に戻ると、父上、母上、姉上、弟のカールが私を出むかえるようにいた。


「フリードリッヒよ。河港に行っていたか・・・」

「父上、実は・・・」

「婚約者の交代だろ?」


「父上・・・」


 何故、知っていたのだ?



「ゴホン。フリードリッヒよ。そもそも何故、奴隷商が王宮に滞在していたか?気にしなかったか?」

「父上」


「フリードリッヒ兄様、王族は思慮深くなければなりません」


「カール、まさか、そんな」


「カールが王太子だ。フリードリッヒは真面目で能力はあるが、人の話を聞かない。断罪ですら勝手に決めた。一端決めたら人の話を聞かない。王に不向きではある」


「そ、そんな、父上!私には侯爵家の後ろ盾があります」



「ミーシャ嬢は庶子だ。これからは、宮中伯としてカールを支えてくれ。夫婦でな」


「そんな!」



 たかが、令嬢を売っただけで私は臣籍降下になった。

 朝に婚約を破棄をしたら夕方には王族の籍が抜けてしまった。

 何故だ?


 侯爵家も跡取り無しで領地没収?ミーシャは庶子だっただと。


 どうして、こうなった。


 アウグティーナが悪いのだ。彼女は私に説明しなかった。いや、したが不十分だった。


 自らの潔白を証明できないアウグティーナは娼館行きが相応しい。


 





 ☆☆☆奴隷商視点



「さあ、お嬢様、つきましたよ。ここは辺境伯の領地です」


「あの、お世話になりました」

「いや、商売ですから」



 俺は人買いのジエラ、王宮で令嬢を買うように仕向けられた節があった。

 ポー河を下り辺境伯の領地についた。


 実は買取り先は決まっている。



「アウグティーナ様!」

「ベントリー様!」


 もう、迎えに来られている。

 辺境伯閣下の三男で騎士団長の1人、ベントリー様だ。



 何でも、実母存命中に、避暑旅行で偶然あって一目惚れして。

 母君が生きていたら婚約もあった。文通だけはしていたのだと。


 ケッ、やってられないね。


「お客様、商品に手を触れ抱きつかないで下さい。さあ、契約書です」


「あ、すまない。今、払う」

「ベントリー様、申訳ございません」

「私は誤魔化さない。君を買ったという事実を一生背負って行くよ」



 ・・・ビィクトリア朝時代、妻売りの風習があった。キリスト教の教義解釈では離婚は認められない。

 法的には多額の裁判費用、寄付が必要であった。


 庶民では離婚は実質的に不可能であった。

 それ故に妻売りの風習が離婚の機能を果たした。

 結婚生活が破綻した夫婦が選んだ最後の選択肢だったのだ。



 この異世界でも。



「はい、お嬢様、同意書を書いて下さい。形式ですが・・・」

「あっても、なくても良いのが形式ですわね。クスッ」

「あ、聞いていたのですか?」



 売却先には女性の同意が必要との慣習があったのは地球の妻売りと同じとは知るよしもなかった。



最後までお読み頂き有難うございました。

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― 新着の感想 ―
辺境伯に売るのは王家も合意だったのかな。売り先を知らず、侯爵令嬢を売り飛ばしたなら鬼畜。 侯爵家と王太子は王位から遠ざかり自分で仕事しなきゃいけなくなり、無実の正嫡の娘を売り飛ばした醜聞の中で生きて…
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