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あと少しだけ、傍に居たい。  作者: 悠介


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あと少しだけ、傍に居たい

「河野、今まで世話になったな。坂入さんの様に、良いカウンセラーになるんだぞ。」

「こちらこそ、お世話になりました。師長がいてくださったおかげで、私は大切な友人と出会う事が出来ましたから。」

「……。本当は、お前を辞めさせろという看護師全員を解雇してでも、引き止めたかったんだがな。しかし、お前が選んだ道だ、後悔の無いように生きろ。」

「はい。」

 陽太は、看護師を辞め、大学進学を選んだ。

 悠介に唆された、と本人は言っているが、本人の意思で、カウンセラーの道を目指そうと、そう決めたのだ。

 看護師長は、名残惜しそうにしていたが、今生の別れではないのだから、と陽太を病院の外まで見送った。


「あれから一か月、ですか……。」

 陽太は、一人歩きながら、思い返す。

 思えば、悠介と初めて出会ったのは、悠介が最初に入院した時だった。

 あの頃の悠介は、何もかもに怯えていて、精神的にとても不安定だった。

 それが、余命半年と言われてから、急に落ち着いて、友達になって。

 あっという間に、悠介は逝ってしまった。

 しかし、その想いは、その願いは、その言葉は、今でも生きていると信じていた。

「大学生活、ですか。」

 ギリギリ、入試のない通信大学に応募し、四月から大学生として生活することになる陽太。

 学生だなんて久しい、と思いながら、出来る限りの時間を一緒に過ごそうと思った相手と、待ち合わせの為に公園による。

「パパ……?」

「美波……。」

「あなた……。」

「琴葉……。」

 最後に会ったのは一歳の時、覚えてはいないだろうと覚悟していた娘と、もう同じ道は進めないだろうと思っていた、元妻。

 悠介の言葉に勇気づけられて、一度でいいから会っておきたい、と久々に連絡をしたのだ。

「パパ!」

「美波……、覚えてて、くれたんだね……?」

 ぱっちりとした目は妻に似ている、娘。

 美波は、大声を出して、陽太に抱きつく。

「ママがね!しゃしんでみせてくれてたの!」

「そうだった、のか……?」

「貴方を裏切ってしまって、離婚になって。一時は、二人で生きようと思っていたのよ。でも……。貴方が連絡をくれた、だから……。」

 そこから先は言って良いものか、と琴葉は悩んでいる様だった。

 陽太は、不思議と琴葉が考えている事がわかった、それはきっと。

「私は、看護師も辞めてしまった。無職の大学生になる。自分自身の生活位は何とかするつもりだけれど、君達を養っていくには時間がかかる。」

「知ってるわ。でも、私はもう一度、貴方と家族になりたい。美波と一緒に、三人で。」

「……。大学を卒業したとしても、稼げるとは限らない。また、仕事にかまけて君達を放ったらからしにしてしまうかもしれない。それでも、良いのか?」

「貴方と離婚してからずっと、考えていたの。なんで貴方と結婚して、美波を生んだのか。それは、真剣に仕事をしている貴方の姿が、好きだったからなのよ。優しいだとか、そういう理由もあったけれど、一番はそれだったの。寂しいなんて理由で浮気した私にこんな事を言う資格がないのはわかってる。でも……、私は、貴方ともう一度夫婦になりたいの。」

 琴葉は、真剣な眼をしている。

 陽太は、その瞳を見て、そう受け取った。

「パパ!いっしょにくらそう?」

「……、うん、わかった。私も、ずっと一緒にいたかったんだ。私が仕事にかまけて、君に寂しい思いをさせてしまって、申し訳ないとずっと思っていたんだ。産後間もなくて、不安定だった君を、独りっきりにしてしまった。だから、私の方からお願いしたい。また、一緒に暮らしてくれるか?」

「ええ……。ありがとう、貴方。」

 美波を抱きしめながら、陽太と琴葉は手を繋ぐ。

 一緒に暮らしていこう、と約束をして。

「悠介さん、これで良かったのですね……。」

「どうかした?」

「友達にね、言われたんだ。いつか、また縁があるかもしれないから、と。その通りだったなと、思っているんだよ。」

 寂しそうな笑顔、悠介が死んでしまってから、ずっとそんな調子だ。

 患者の死なら慣れているはずだったのに、友となると何故か慣れない。

 一か月も前の話なのに、昨日の様に、悠介の言葉を思い出す、と考えながら、少しまだ寒い風の中、三人は家へと向かっていった。


「大吉―、今日は遊べんのか?」

「ごめ、今日予定入ってんだ。」

 中学三年に上がる直前、大吉は空手道場を出て友達と話をしていた。

 悠介が死んでから、半月ほど休んでいたが、それは悠介の為にもならない、必ず国体に出ると約束したから、と空手に励んでいた。

 道場で友達を別れ、自転車を走らせて大吉は目的地に向かう。

「お、やってんな。」

 目的地では、何やら野球の試合が行われている様だ。

 少年野球で、まだティーボールだが、小さい子供達が、頑張って球を打ったりしている。

「浩君じゃん、頑張れー!」

 少し離れた所から、見学している大吉。

 その瞳の先には、バットを振り被る少年の姿があった。

「お、打った!」

 三塁の方へ抜けていくボールを見ながら、少年は一塁へと走っていく。

 その速さは中々なもので、小学二年生とは思えない程早かった。

「よっし、行くか。」

 それを見届けると、大吉はまた自転車を走らせ、次の目的地に向かう。

 まだ冬の終わりで寒いと言えば寒いが、ウィンドブレーカーを着ているから、風は感じない。

 むしろ、空手で火照った体に、心地良い位だ。

「父ちゃん、久しぶり。」

 十分ほどで到着したのは、悠介が入院していたのとは別の病院。

 私立病院であるここは、入院患者もいる。

「……。大吉か。今更何をしに来た?俺が怖かったと言っていたのに。」

「……。もう、逃げねぇって決めたんだ。あんたからも、誰からも。だから、話がしたくて。」

 大吉の両親は離婚していて、大吉は母親の元で生活していた。

 その原因は、酒に酔うと暴力的になる父親からの、虐待。

 今は肝臓をやられて入院している、という所までは聞いていたが、今まで会うことはなかった。

 ずっと大吉は父親を怖がっていたし、父親も大吉に会う事はないと思っていたのだろう。

「何があった?以前のお前とは面構えが違うが。」

「……。大事な人がさ、教えてくれたんだ。立ち向かう勇気ってやつと、向き合う大切さってやつを。だから、あんたとも向き合いたい。」

「……。強くなったな、大吉。漢になったな、俺とは大違いだ。」

 父親は、目を見開いて驚いてから、微笑む。

 ずっと母親の後ろに隠れていた子供が、いつの間にかこんなにも大きくなっていた。

 それが嬉しくて、少し寂しくて。

「よく顔を見せろ、お前は俺とは違って良い子だ。母さんの育て方が良かったんだろう、それに、その大切な人というのが、良い人だったんだろうな。」

「ずっと傍にいてくれたんだ、父ちゃんの代わりに、色々教えてくれたんだ。」

 まだ怖い、怯えが無いわけではない。

 しかし、悠介が教えてくれた事を、無意味にはしたくなかったのだろう。

 大吉は、ゆっくりと父親に向かって歩いていき、その手を取った。


「紗也乃ちゃーん!こっち焼けたからデコレーションしてー?」

「はーい!」

 地域に根差したケーキ屋で、紗也乃は忙しそうに働いていた。

 もう午後四時頃だが、行列が出来ている為、追加のケーキを店長が焼き、それを紗也乃がデコレーションする。

 従業員三人の小さな店だったが、それはそれは忙しい。

「紗也乃ちゃん、俊明君、それ終わったら休憩入りなさいな。後は私がちゃちゃっと済ませるから。」

「はーい!」

「了解です!」

 元々は、悠介と面識のある初老の女性が一人で切り盛りしていた店だったのだが、店が繁盛する様になってから求人があり、丁度調理師専門学校を卒業予定だった紗也乃と俊明という男の子が入って、今は三人だ。

「紗也乃ちゃん、お疲れ様。」

「俊明君も、お疲れ。」

 休憩に入った二人、紗也乃は、悠介と体系の似ている俊明に、甘い缶コーヒーを渡す。

 俊明はケーキが好きだからパティシエを目指した、という位甘党で、少し健康に気を遣わねければならない程度に太っていた。

 その姿はかつての悠介にいていて、坊主という所も、また悠介を想起させる。

「ねぇ紗也乃ちゃん、ちょっと話があるんだけど……。」

「何?あたしに話?」

「うん。ずっと、迷ってたんだ。紗也乃ちゃんは好きな人がいるって言ってたし、僕がこう言うのは間違ってるって思ってるけど……。」

 俊明は、少し悩んだ様子を見せてから、覚悟を決めた様に真剣な眼つきになる。

「紗也乃ちゃん、僕と付き合ってください。紗也乃ちゃんの好きだった人の代わりになれるかどうかはわかんないけど、僕は紗也乃ちゃんが好きなんだ。」

「俊明君……。あたし、俊明君の事、悠介さんに重ねちゃってるよ?死んじゃった人に、俊明君は似てるからさ。そんなあたしでも、良いの?」

「うん。いつか、その人に幸せだって報告出来る様に、その人が安心出来る様に。答えは今じゃなくてもいいから、考えて欲しいんだ。」

 俊明は、悠介と面識はある。

 悠介が入院する直前、ケーキを買いに来た悠介と浩介の、会計をしたのだ。

 ただ、それを覚えているかどうか、紗也乃の好きな相手というのが、悠介であるかどうかはわからない。

 悠介がカウンセラーだという事も、知りえない。

「僕はね、紗也乃ちゃんの一生懸命な所が好きなんだ。なんにでも全力投球で、それでいて優しくて。悠介さんって人が、大事なのはわかるよ。だから、僕は代わりでも良い。紗也乃ちゃんを支えられるのなら、悠介さんの代わりでも。」

「……。そんな事したら、悠介さんに嫌われちゃうよ。きっと悠介さんは、そんな事望んでないから。……、俊明君。」

「だめ、かな……?」

「ううん、嬉しい。あたしなんかで良ければ、これからよろしくね。」

 紗也乃の言葉を聞いて、俊明は嬉しそうに笑う。

 その顔が、何処か悠介を彷彿とさせて、紗也乃は少し寂し気な笑みを浮かべた。


「祥太、そっち終わったかー?」

「はい!」

「武志さん、今日の作業、これで終わりです。」

「わかった、では今日はここまでだ。」

 祥太と武志は、同じ土木建築会社にいた。

 祥太は、県内トップの大学にも入れる成績を残していて、進学を望まれていたのだが、武志と敬太に迷惑をかけたくない、と就職を選んだ。

 その時に、武志の紹介で今の建築会社に入社し、武志と共に働いている。

「撤収だ。」

 今日の作業は終わり、トラックを走らせて事務所に戻り、退勤処理を終えて家に帰る。

「あ、お帰りなさーい。」

「兄ちゃん、父ちゃん、お帰りー。」

 学校から帰ってきて、夕食の準備をしていた哲太と敬太が、二人を迎える。

「お風呂湧いてるから、入って来ちゃってー!」

「父ちゃん、お先どうぞ。」

「お、そうか。では、先に入るかな。」

 現場から帰ってきて泥だらけの二人、そんな二人に風呂に入る様に言う敬太。

 元々武志と敬太二人暮らしだった所に、祥太と哲太が加わって、今では敬太が母親の様な立ち位置にいる。

「ふぅ……。」

 現場での疲れと若干の寒さを癒しながら、武志は思い返す。

 ずっと、悠介に頼りっきりだった子供達が、いつの間にか大きくなっていた。

 それは悠介の力が大きかったが、三人とも、自分達の力で生きて行こうと頑張った結果だろう。

 父親である自分も、順当に行けばいつか悠介と同じ様に、子供達をおいて逝く事になる。

 しかし、安心して逝ける、と武志は考えていた。

「悠介君、私はね……。」

 風呂の中で一人語り、いつもの癖だ。

 悠介が死んでから一か月が経った、親子ともども世話になり続けて、いつか恩を返したいと願っていた。

 それなのに、悠介は四十五になる自分より、先に死んでしまった。

「……。」

 浩介達とは、交流を続けている。

 いっその事全員の養親になろうかという話もしたのだが、浩介は自分達でなんとかできるから、と断られてしまった。

 それが武志なりの恩返し、だと思っていたのだが、何処の子供も、思ったより成長していたのだ。

「はぁ……。」

 小さな子供達でさえ、気丈に振舞っている。

 というよりも、支えてくれる人達がいるから、元気でいられるのだろう。

 本当に、いつの間にか子供というのは、親の元から巣立っていくのだな、と武志はしみじみ感じていた。


「まーくん、髪の毛だいぶ良くなってきたわね。もう、帽子もいらないんじゃない?」

「そっかな?やった!」

 雅也は、母親と父親と三人で食卓を囲んでいた。

 退院して一か月ちょっと、だいぶん髪の毛も生え始めていて、コンプレックスにはならずに済みそうだ。

 学校にも通い始め、友達も少しずつ接してくれる様になってきた。

「でもさー、みんな友達っていってっけどさ、結局一回も連絡くんなかったんだよな。」

「でも、病院で友達が出来たと言っていなかったか?雅也、嬉しそうに言ってたじゃないか。」

「……。悠介さんは、死んじゃったから。でも、ずっと友達だって、決めたんだ。独りっきりだった俺の、大事な友達だから。」

「パパ、話さなかったかしら?ほら、浩希君パパのお話。」

 雅也の父親は、詳しい事情を聴いていなかった様だ。

 悠介の葬儀以降、あまりこの話題にならなかった、というのもあるし、仕事があり悠介とは会った事が無いからだ。

「そうか……。浩希君のお父さんは、癌で亡くなったとは聞いていたけど、雅也の友達になってくれたのか。それは、嬉しい事だ。」

「お礼言いたかったのにさ、結局言えないまんまでさ。浩希達と関わり続けて欲しい、ってお願いされちまってさ。」

「嫌なのかい?」

「そんな事ねーよ!嬉しい位だって。だって、悠介さんが俺に任せてくれたんだぜ?俺だけじゃねぇかもしれねぇけど、友達に任されたんだから、嬉しいんだよ。」

 雅也は、夕食のハンバーグを頬張りながら、寂しそうに笑う。

 悠介が言った、関わり続けて欲しいという言葉。

 それを、雅也は子供なりに、浩希を任された、と思っていた。

 だから、嬉しいと思っているのだ。

「まーくん、来週から野球も行くんでしょ?浩希君、きっと喜んでくれるわよ。」

「電話、してくれっかんね。友達だって電話してくんなかったのにさ、雅也先輩は元気?何て聞いてきてよ。」

 健気な子達だ、と雅也の母親は浩希達を見ていた。

 葬式で会った時は泣いていたが、母親が野球のクラブに顔を出すと、笑顔で精一杯野球に励んでいて、それでいて何処か寂しそうで。

 弟の悠介も、見学に来ていた時には明るく振舞っていたが、しかし何処か寂しそうなのは一緒だった。

 悠介と一緒に、野球をやりたかっただろう、とその心のうちを見ていると、胸が苦しくなってくる。

「さ、喋るのもいいけどご飯食べちゃいましょ!まーくん、ハンバーグ美味しい?」

「美味い!」

 病院食で少し瘦せていた雅也も、だいぶ体力も体重も戻ってきた。

 経過も順調で、もう大丈夫だろうと医者からも言われてた、それに両親は心の底から安心していた。


     *


「浩にいちゃ!いってらっしゃい!」

「いってらっしゃーい!」

「はい、行ってきます。」

 浩希は八歳になり、次は小学三年。

 悠介は次は幼稚園の年長、そろそろ準備を整えなければならない時期だ。

 悠介が死んでから一か月、ふさぎ込んでいた時期もあったが、今では笑顔を取り戻していた。

「ほら、浩ちゃん、悠ちゃん、準備して?学校と幼稚園いかないと。」

「はーい!」

 綾の言葉に元気よく返事をし、洋服を着替える。

 綾は、そんな何気ない日常に、ホッとしていた。

「悠治、いってらっしゃい。」

「行ってきます。」

 悠治も仕事に出て、浩希がランドセルを背負って部屋から出てくる。

「それじゃ、行きましょっか。」

「はーい!」

「いくー!」

 幼稚園と学校が近い為、浩希を送りながら悠介の送迎をする、それが日課だった。

 悠介がしていた時期もあったのだが、そして悠介でないと嫌だと二人が泣いていた時期もあったが、今ではそれも落ち着いている。

「きょうのきゅうしょくなんだろ!」

「綾ねえちゃ、おべんとーなにー?」

「今日の給食はね、シチューだったはずよ?お弁当には、たこさんウィンナー入れてあるからね。」

「やったー!」

 二人と手を繋ぎながら、、綾は本当にこの子達は、と思う。

 悠治と結婚して四年ほどになるが、ずっと支えているつもりで、支えられていたのだと。

 悠介に出会って、悠治に恋をして、子供達の姉になって。

 両親には反対されて縁を切ってしまったが、これで良かったのだとしみじみ感じる。

「らんらんらーん。」

「悠ちゃん、おうたすきだね!」

「うん!こんど、父ちゃにうたってあげるんだ!」

 死ぬ前に約束した、練習した歌を聞かせると。

 それはもう叶わない約束なのだが、悠介はずっと傍にいる、という言葉を信じて、子供達はそれを励みにしていた。

 浩希も悠介も、悠介の言葉を覚えていて、それをしっかりと信じようとしていた。

 ずっと傍にいるよ、浩ちゃん達の中に。

 その言葉が、二人を元気にする原動力になっていた。


「あ、悠治!」

「良太、おはよう。」

「おはよ、今日も元気?」

「元気だよ、もうだいぶ気持ちの整理もついたしね。」

 悠治は、仕事に向かう途中、同僚の良太に出会う。

 良太も悠介の事は知っていて、職場の代表として葬式に来てくれていた。

 だから、悠治の事をずっと気にかけていた。

 同僚でもあり、同期でもある悠治の事は、気にかけてしまうのだろう。

「なんかさ、悠治って寂しそうに笑う様になったよね。お兄さん亡くなってから、なんかそんな感じだよね。」

「癖になっちゃったのかもね。僕、ずっと悠にぃの事好きだったから。浩にぃと一緒に、本当はずっと一緒にいたかった。」

「それは仕方がないよ。お兄さんも、ずっと寂しそうに笑ってたら、天国に行けないんじゃない?」

「かもね。頑張って、笑える様にならないと。」

 無茶はしちゃだめだよ?と良太は言う。

 悠治は、良い同僚に出会ったと思った、それは良太だけではない、他の同僚もだ。

 皆、悠治達の事を心配してくれている、葬儀の為に忌引き休暇を取った時も、嫌な顔一つせずに送り出してくれた。

 それだけ、悠介が悠治にとって大切な人なんだと、理解していたからだろう。

「でもさ、悠治って本当に優しいよね。僕だったら、そんなに人の事想えないもん。」

「そうなのかな。皆、それ位当たり前だって、そんな感じだよ?みんなで約束したんだ、笑って生きようって。それって、皆が悠にぃの事を想ってないと、出来ない約束なんじゃないかなって。」

「お兄さん、愛されてたんだね。色んな人に、そう言ってもらえるって。良いなぁ、そんなに人に好かれるって、ある意味才能だよ?」

「違うよ。悠にぃは、ずっと努力してきたんだよ。色んな人を守りたいって、誰かを助けたいって、浩にぃを守りたいって、ずっと願って努力してきたんだ。だから、皆が想ってくれるんだって、僕は思ってるよ。」

「そっか。凄い人なんだね、僕も友達になりたかったな。」

「ありがとう、そう言ってくれて。」

 もうすぐ会社に着く、悠治は少し寒い春の空を見て、思い出す。

 悠介の、最初で最後の願いを。


「坂崎、そろそろプロジェクト戻るか?」

「え?良いんですか?」

「うちのエースがいないんじゃ、あの話は進まんからな。お前さんお気持ちが落ち着いたなら、戻ってくれると助かる。」

「ありがとうございます、社長。」

 従業員三十人程度の、小さな広告会社。

 浩介の勤めている会社は、社運を賭けた新しいプロジェクトに心血を注いでいた。

 浩介は、そんな中で営業部のエースと呼ばれていて、社長からの信頼も厚かった。

 だから、休職扱いにしてもらえた、それだけ抜けて欲しくない人材だったのだろう。

「恋人さんの四十九日は、再来週か?」

「はい、そうですね。お休み、頂いても良いですか?」

「構わんよ、存分に見送ってやれ。」

 豪胆な社長が、がははと笑いながら浩介の背中をたたき、当たり前だろうと伝える。

「さて、今日は外回りか。行ってこい、取引先もお前さんが復帰するのを、首をながーくして待ってるぞ。」

「はい、行ってきます。」

 浩介は、資料と鞄を持って会社を出ると、取引先の企業へ出向く為、歩いていく。

「……。」

 途中、悠介が入院していた大学病院の前を通る。

 そういえば、陽太とは連絡を取っているが、もう一人、看護師長にはきちんとお礼を言えていなかったな、と思い出しながら。

「ずっと、傍にいるよ、悠介。」

 悠介の遺品である指輪は、浩介がネックレスにして身に着けていた。

 病院を見かけると思い出す、最期に一緒に過ごした時間の事を、これまでの事を。

「僕達、頑張るからね。」

 きっと、見守っていてくれる。

 いつか、自分が死んだ時、もしも悠介にもう一度会えるのなら。

 頑張ったよと、一生懸命皆で生きたよと、前を向いて歩けたよと、伝えたい。

 あと少しだけ、そばにいたい。

 その願いは叶わずとも、心はずっと、共にあると。

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