末路は
「夢……?」
気が付いたら寝ていた浩介は、朝日の日差しと共に目を覚ます。
朧気に、昨日の夜の事を思い出す。
悠介が、何か言っていた。
「あと、すこしだけ……。」
二週間前にも言っていた。
あと少しだけ、そばにいたい。
きっと、そう言いたかったのだろう、きっと、そう伝えたかったのだろう。
悠介の最後の願い、それは。
「わかってるよ、悠介……。僕達は、ずっと一緒だ。」
悠介の手を握り、誓う。
ずっと一緒にいると、死んでしまったとしても、心はずっと一緒だと。
*
一週間が経った。
子供達は毎日の様に顔を出しては悠介に声をかけ、大吉や紗也乃、祥太や哲太達も顔を出しに来る。
浩介は、丁寧に来た人達に対応をしながら、出来る限りの手伝いをしていた。
悠介はあれからずっと、目を覚ましていない。
言葉を発する事が無ければ、体を動かす事も無い。
点滴はしているが、みるみるうちに痩せていってしまっている。
「浩介さん、少し休まれた方が良いのではないでしょうか?お疲れの様子が伺えますが。」
「陽太さん……。僕は大丈夫ですよ。陽太さんこそ、いっつもお仕事されて、大丈夫ですか?一週間、お休み取ってないでしょう?」
「私は慣れていますからね、それに、他の看護師に任せるのはちょっと嫌でしてね。看護師長は信頼していますけれどね。」
浩介も気づいていた、悠介に対して良い感情を抱いていない看護師がいる事に。
陽太や看護師長以外の誰かが来る時、浩介に話しかけもせずに、ただやらなければならないからと仕事をしている様子が、簡単にわかったのだから。
「陽太さんが頑張るなら、僕も頑張らなきゃです。悠介が言ってたんですよ、あと少しだけ、そばにいたいって。だから、僕はずっと傍にいてあげたいんです。」
「そうでしたか。なら、お互い体調には気を付けつつ、頑張りましょう。」
徐々にゆっくりになっていく心電図の音が、悠介の死期が近い事を告げていた。
だから、後少しだけ、無茶でも頑張りたいと、二人は思っていた。
「浩にいちゃ!」
「浩ちゃん、悠ちゃん、いらっしゃい。」
「僕達もいるよ。」
「悠治、綾ちゃん。二人とも、時間大丈夫だったの?」
気が付けば午後四時、悠治は今日は仕事を休みで、子供達は学校や幼稚園が終わってから来たのだろう。
皆で悠介の様子を眺めている、と。
「……。あり、が、と……、う……。」
「父ちゃ……?」
「悠にぃ?」
「……。」
悠介が、小さく、とても小さい声で呟いた。
一瞬だけ意識が戻ったのだろう、目を開いていたわけではないが、確かにそう言った。
そして。
ピー……。
「……。悠介さん……。私は先生を呼んできますので、お別れの言葉をかけてあげてください。」
心電図の音が、鳴り響く。
波形も動かなくなってしまった、それは悠介の心臓が鼓動を止めた証。
「父ちゃ、だいすきだよ……。」
「ぼくも、父ちゃのこと、わすれないよ……。」
「悠にぃ……。お疲れさまでした。」
「私達、頑張るからね……。」
一人一人、最期の言葉をかける。
不思議と、誰も泣いてはいなかった。
ただ、悠介が死んでしまった、その事実に悲しみながら、しかし。
最期は笑顔で見送ろう、と決めていたのだからと、呼吸の止まった悠介の頭を撫でながら、一人ずつ声をかける。
「悠介……。悠介、ずっとありがとう。僕達を守ってくれて。でも、もう大丈夫だよ。皆で、一緒に歩いていくから。だから……。ゆっくり、休んでね。」
別れとは、かくもあっけない。
悠介は、幸せそうな笑顔を浮かべながら、逝った。
*
「陽太さん、来てくれたんですね。」
「はい、もちろんです。」
三日が経った。
葬儀場には、これまで悠介が関わってきた子供達、浩希達、悠治達、そして浩介、悠介の親戚が一堂に集まっていた。
僧がお経を唱え、静かに見送る時間が過ぎていく。
「それでは、お焼香を故人に。」
僧がお経を唱え終え、最期の別れの時間がやってきた。
「悠介さん、あたし、頑張るからね。」
まずは紗也乃が、焼香を上げる。
「悠介さん、俺、絶対国体出るっすから……。」
次に、大吉が。
「今まで、ありがとうございました。」
祥太が。
「悠介さん、貴方に教えてもらった事、ずっと。」
哲太が。
「皆で、前を向いていきますから。」
敬太が。
「私に任せなさい、悠介君。きっと、皆を導いて見せるよ。」
敬太の父が。
「悠介さん、俺、頑張っからな。」
雅也が。
「悠介さん……。今日だけは、涙を流す事を、お許しください。」
陽太が、いつもの笑顔はどこに行ってしまったのか、涙をこぼしながら。
「父ちゃ、だいすきだよ。」
浩希が。
「父ちゃ……。」
悠介が。
「悠にぃ、ありがとう。」
綾が。
「悠にぃ、ずっと幸せにね。」
悠治が。
「悠介、悠介は幸せだった?僕は……。僕はずっと幸せだったよ。」
最後に、浩介が。
焼香を上げ、別れの言葉を告げる。




