8話 三人の名前、三人の旗(フラッグ)
ギルドの一角にある、登録カウンター。
昼下がりで人は多いが、三人は簡易テーブルを囲んで座っていた。
「さて……パーティー名を決めるわけだが」
ライアンが腕を組み、真剣な顔で言う。
リアはすでにやる気満々で、
ミナトは“嫌な予感しかしない”と顔に書いてある。
「まずは私から案を出そう!」
リアが手を挙げた。
「我らは光と剣と知略の三柱! ゆえに――《聖煌三撃旅団》なんてどうだ!」
「却下で」
ミナトとライアンが同時に言った。
「なぜ!!」
ライアンはため息をつきながら言い返す。
「いや、長いし言いにくいし、絶対覚えられねぇだろ」
ミナトも苦笑しながら続ける。
「あと“旅団”ってそんなに人数いないし……三人だし……」
「じゃあ、他に何かいい案があるの!?」
リアがぐいっと身を乗り出す。
正直ミナトはあまり考えていなかったが、ぽつりと呟いた。
「……三人で戦うなら、シンプルな方がいいかな。
せっかく役割もはっきりしてるし……《三光》とか」
「お、悪くねぇな」
ライアンが即座に反応する。
リアも腕を組んで考え込む。
「ふむ……三つの光……つまり私が三倍輝くという意味にも取れ……」
「いや違うだろ」
「絶対違う」
リアが暴走する前に即座に遮る2人。
だが本人は満足げだ。
「まあいい! 三人の光……よかろう!ただそれだと地味すぎるので――《トリニティ・レイ》などどうだ!」
「悪くないかも……」
ミナトは小さくつぶやく。
ライアンは少し照れたように笑った。
「いいんじゃねぇか? 言いやすいし、意味も通るし」
三人は自然と顔を見合わせる。
「じゃあ……《トリニティ・レイ》で」
「決まりだ! よし、登録しよう!」
◇ パーティー登録カウンター
ギルド職員の受付嬢は、三人が来た瞬間ぱっと笑顔になった。
「はいはい! パーティー名はお決まりですか?」
リアが胸を張る。
「もちろん! 我らは今から《トリニティ・レイ》だ!」
「はいっ、かっこいい名前ですね〜!」
受付嬢は迅速に書類を広げる。
「それではリーダーをひとり決めていただきます。
基本的には書類代表としての役割なので、誰でも構いませんよ」
三人は顔を見合わせる。
一瞬の沈黙。
そして――
「ミナトだな。俺はこういうの向いてないし、そもそもパーティーを作る発端になったのミナトの発言からだからな」
ライアンが真っ先に言った。
「えっ、僕!?」
ミナトは目を丸くする。
リアも頷く。
「うむ、君は判断を間違わなそうだ。異論はない」
「2人ともやりたくないだけじゃ……まあいいか」
おそらく2人ともめんどくさそうだからやりたくないだけだろうとミナトは思ったが、かといって任せれそうにもないので引き受けることにした。
「わかったよ……じゃあ僕で」
「はい、では代表者:ミナトさん、と……」
受付嬢はてきぱきと書類をまとめ、登録証を三枚渡す。
「本日より正式に《トリニティ・レイ》はギルド公認パーティーとなります。結成、おめでとうございます!」
リアが勢いよく手を挙げる。
「よし! 記念すべき初仕事は――」
「五階層のリベンジだな」
ライアンが引き締まった声で言った。
ミナトも真剣な表情で頷く。
「昨日、あそこで負けたからね……。今度は三人で、ちゃんと勝って帰ろう」
リアも珍しく落ち着いた声になった。
「5階層か。任せてくれたまえ。私が君たちを死なせない。光術師リア・クロセルの名に懸けてな」
三人の間に、自然と士気が満ちていく。




