7話 癒滅の光術師”ルミナス・メディエイター”リア・クロセル
ゼファリア冒険者ギルドの掲示板は、今日も依頼書と人の声でにぎわっていた。昼時のざわつきの中、ミナトとライアンは受付の前で腕を組むようにして話していた。
「……メンバー見つかるといいな。ヒーラーか、せめて遠距離魔法ができる奴」
「だな。五階層でもうギリギリだったし、支援が一人いるだけで全然違う」
ライアンは腕を組みながら周囲を見回す。
ミナトもうなずく。
「けど、噂では優秀な後衛ってだいたいパーティーに所属してるって……」
「まあな。ギルドに“残り物”がいれば嬉しいんだが――」
そう言ったところで、ギルドの中央から妙に響く声が上がった。
「──見よ! この光! 私こそが、“癒滅の光術師”リア・クロセルだ!」
全員がそちらを向く。
ギルドのど真ん中、テーブルの上に立っていた少女は、ローブの裾をばさっと広げ、杖の先を掲げながらドヤ顔。
杖の先端の光石がちょっと反射しただけなのに、本人は大事のように胸を張っている。
「今日は! 私の力を! 見せてあげようっ!」
「──光よ集え! 万象を照らし、闇すら癒す“輝律”となれ!
《煌導球――ルミナス・スパーク!》」
バフッッ!!
杖から“光の玉”が飛び出した。
それは緩やかな軌道を描いて床にポフッ……と弾けて消えた。
ギルド中が静まり返る。
「……弱っ」
「子供の花火かよ……」
「ていうか治癒師なんだろ……?」
ざわつく声があちこちから漏れ、少女自身はというと、胸を張って満足げだ。
ミナトとライアンは、そろって無言で顔を見合わせた。
(……ないな)
(……絶対ない)
二人が同時に「あれはない」という結論に達したその瞬間――
「おっ、2人とも! ちょうどヒーラー志望を探してたんでしょう?」
ギルド職員のお姉さんが、満面の笑みで二人の手首をつかんだ。
「ちょ、ちょっと!? あれは……その……」
「紹介します! 今、売り込みをしていたリアさんです! 回復魔法はギルドでも上位クラスの実力者ですよ!」
「え!? あの子が!?」
ライアンが信じられないものを見るように目を見開く。
ミナトは心の中で(嘘だろ……)と呟いた。
職員はリアの方へ向いて、手招きをした。
「リアちゃーん! はい、こちら前衛を担当するライアンさんとミナトさんです!」
リアはひらりとテーブルから飛び降り、ローブを整えてこちらへ歩いてくる。
近づくほどに分かる、満々のやる気と謎の自信。
「光に導かれし者よ……互いの名を刻もう! 私はリア・クロセル。“癒しの光”を操る者だ!」
「い、癒し……?」
ミナトは小声でつぶやく。
ライアンも眉をひそめる。
「お前、攻撃魔法打ってたろさっき……」
「ふふん、それはほんの挨拶代わり! 私の本領は治癒……つまり仲間の命を守る大いなる使命!!」
(なんだこのテンション……)
ミナトは引き気味に思った。
ギルド職員がそこへ追い打ちをかける。
「リアさんは治癒魔法の適性がかなり高いんです。ただ……ちょっと前線に出たがる癖がありまして……」
ライアンとミナトが同時にため息。
リアは胸を張り、さらに謎のポーズをとった。
「戦場は光のきらめきの舞台! 私が最も輝くのはそこなのだよ!」
(……やっぱりやべぇ……)
(……本当に回復魔法できるんだろか)
ミナトとライアンは、視線を交わしてうなずき合う。
──五階層で味わった絶望。
──回復不足による崩壊。
今の二人には、まともに回復できる人材こそ最重要だった。
ライアンが口を開く。
「……リア、ひとつ聞かせてくれ。回復はちゃんとできるんだよな?」
「もちろん! 見ていて!」
リアはライアンの腕の、すり傷に手をかざした。
淡い光がふわりと広がる。
次の瞬間――
シュン、と傷が完全に消えた。
ミナトと思わず顔を見合わせる。
「……すげぇ」
「ほんとに治ってる……」
リアはしてやったりの顔。
「フフ……これが“聖光癒還奏・完全再生の輝輪”の力……!」
(名前クソ長っ!!絶対ただのヒールじゃん!)
(でも治癒は本物だ……)
ライアンは笑って頭をかきながら言った。
「よし……リア。回復の効果が本物だと言うことはわかった。一旦考え――」
「入ってくれって、言うんでしょ? わかってる!」
リアは胸に手を当て、堂々と宣言した。
「今日よりこのリア・クロセル、あなたたちと共に“光の未来”を切り開こう!」
ミナトは思わず苦笑した。
(……大丈夫かな、この子)
ライアンも頭を抱えつつ、
「ま、まあ……戦力にはなるよな」とぼそっと言う。
ギルド職員だけが満面の笑顔で拍手していた。
こうして、
ライアン × ミナト × (自称光術師)リア
という、どこか騒がしい三人組が結成されたのだった。




