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リトライダンジョン ―死を超えて踏破せよ―  作者: カサタ


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11/18

11話 崩れる前線、響く詠唱

光矢が炸裂し、白い残光がゆらめいた。

その直後、地面を踏み砕く衝撃が一帯を震わせる。


ドドッ!!


赤亜種が、一直線にリアへ突進してきた。

初手の攻撃でヘイトを買ってしまったようだ。


踏み込みの勢いが三人の想定より速い。

地を削る砂の跳ねと、空気を押し割る圧が肌を叩く。

リアは撃った直後で体勢が戻っていない。

アーチャー側に踏み出していたミナトも一瞬、息が止まる。

そして、リアのフォローに回ろうとするが、


(間に合わない——!)


「リア!」


ガァンッ!!


「通さねぇ!!」


ライアンが横から飛び込み、大剣を盾のように突き立てた。

衝突音で空気が振動し、地面が沈む。

ライアンの靴裏が土を削り、膝が震える。


「っぐ……!」


その背後で、リアが杖を掲げる。


「……っ!瞬光護!」


光がライアンの脚へ絡むように走り、折れかけた体勢が辛うじて保たれる。

ミナトはその光景を確認すると、すぐに自分の役割を思い出す。


(……ここは、ライアンとリアが押さえてるうちにアーチャーを——!)


1秒でも早くアーチャーを処理するため、ミナトは最高速度で倒木の影にいるアーチャーへ突っ込む。

弦がミナトに向かって引かれる。


(間に合え!!)


ミナトは滑り込むように踏み込み、矢が放たれるより速く骨剣を振り抜いた。


一体目、撃破。


その直後——


ドゴォッ!!


背後で重い衝撃音が走った。

何かが“吹き飛ばされた”ような音だ。

ミナトは一瞬だけ振り返る。

そこに映ったのはライアンが地面を転がっている光景だった。


「ライアン!!」


鎧の継ぎ目が潰れ、脇腹から血が溢れ出ている。

数メートル先でようやく止まり、ライアンは大剣を杖代わりにしながら立ち上がろうとしていた。


もといた場所には赤亜種が立つ。

拳を振り切った姿勢のまま、次の踏み込みへ移ろうとしていた。


(……まずい……!)


リアが震える手で杖を突き出す。


「光壁!!」


透明な光壁が赤亜種の前に展開された。


バキィン!!


拳が触れた瞬間、一撃で砕ける。

リアは息を詰め、すぐにもう一枚。


「光壁ッ!光壁!」


薄い光板が重なるように広がる。

赤亜種がためらいなく拳を叩き込む。


ガアンッ!!


壁が大きくひび割れ、リアの肩が震える。

バリアが破壊されるたびに一歩、また一歩とライアンに距離を詰める。

それでも、ライアンが立ち直るための数秒だけはと、できる限り最速で展開していく。

リアは歯を食いしばり、魔力をこめる。


ミナトは茂みに飛び込み、二体目 のアーチャーを斬る。

その瞬間——またバリアが砕ける乾いた音が走った。


シャラッ……


光の破片が落ちる気配。

リアの短い息遣いが戦場に滲む。


(……リア、まだ張ってる……!でもそう長くはもたない……!)


ミナトは奥の岩陰のアーチャーへ走る。

最後のアーチャーが弦を引いた。

照準はリア。


(急げ!!)


ミナトは射線へ身を滑り込ませ、放たれた矢を骨剣で弾き落とす。

そのまま斬り込み、三体目を倒した。

これでなんとかアーチャー三体は全滅。


振り返ると赤亜種と2人の距離はもう間近だった。


リアはライアンの前に立ち、全ての集中力を魔力の制御に使っている。


赤亜種が砕けた光壁の残滓を踏み締め、踏み込むたびに地面が砕け、また一枚とバリアが砕ける。


ライアンはリアの肩に手を置いて、軽く感謝の意を送ると、荒く呼吸をしながら前に出て大剣を構える。

もう赤亜種との間にバリアを張るほどのスペースはない。


赤亜種は大剣を振り上げると、そのまま力任せに振りおろした。


ガキンッ!!


「ぐあっ!!」


大剣で受け止めるが、その衝撃に耐えられず、また吹き飛ばされて岩に背中を打ち付けた。

ろくに力が入らな状態で、攻撃を受けたライアンは大剣越しとはいえもろにダメージを受けてしまった。

どこか内臓をやられたのか、口の中に血が込み上げてくる。


もう赤亜種の前にいるのは一人しかいない。

リアが一歩前へ出る。


「こうなったら私がやるしかないわね…!5階層の亜種ごときがこのリア=クロセルをやれるとでも思ってるのかしら?」


リアの頬を一筋の汗が伝う。

今の言葉が虚勢であるのは一目瞭然だ。

足が震えている。


「無理だ……!下がってろ!!」


ライアンが叫ぶが、リアは言うことを聞くつもりはない。


赤亜種は完全に“殺し”へ来ていた。

ライアンの瞳がミナトを捉える。

その目が、ただ一つを訴えていた。


“急げ——!”


その距離——もう“バリアを挟む余地すらない”。


赤亜種が、溜めもなく踏み込んだ。振り上げられた刃が、リアの額の目前に迫る。


(まずい!!)


ミナトが横から飛び込む。刃と骨剣が交差した瞬間——


ガキィンッ!!


衝撃が腕を突き抜け、視界が跳ねる。軽量級のミナトでは受け止められるものではなかった。

骨剣ごと押し飛ばされ、ミナトは地面へ転がる。


「っ……!!」


肺から空気が抜ける。今の衝撃で右腕があらぬ方向へ曲がっていた。

それでもミナトは泥を払う暇もなく立ち上がる。

ミナトがダウンすれば続けざまにリアがやられてしまう。そうなると戦況を立て直すことは不可能に近い。

赤亜種がゆっくりと向き直る。殺意が、リアから“邪魔をした相手”へ切り替わった。


(……ヘイトが……ぼくにうつった……!)


「リア、ライアンの回復を!!」


赤亜種が地を沈ませて踏み込む。赤い残光が弧を描いた。

その直後、リアの瞳が強く光る。


「《光槽、開門——白輝の源よ、忘却の底より浮上せよ……脈動せし光流、第一層——“始源展開”ッ!!》」


リアが長詠唱へ入った。

ミナトは振り返る。


(え……ここで!? 今!?でも……今は突っ込める余裕もない!)


リアの回復詠唱はやたら長い。派手で、独特で、回りくどい。できれば最短で唱えられないかと問いたいところだが、一撃必殺の刃が迫る今、言葉をかける余裕はなかった。

赤亜種の一撃は、その一撃一撃が必殺。集中を切らせば一瞬でダンジョンゲートに転送だ。


ライアンも血を吐きながら立ち上がる。


(……こんな時でも大詠唱かよ……だが、もう戦況を回復するにはこいつに期待するしかかねえ...)


ミナトは拳を握る。


(リア……任せる。僕達が時間を稼ぐ!!)


リアの足元に白い粒子が吹き上がる。

赤亜種が再びミナトへ踏み込んだ。


「来る!!」


両手剣が振り下ろされる。

ミナトは、刃の軌道をギリギリで見切り、地を滑るように横へ抜けた。


ガシュッ!!


刃が地面を抉り、砂と石片が爆ぜる。風圧だけで頬が切れ、血が散った。


(……今は僕がひきつけてる……避けて、稼ぐんだ……!)


この時、ミナトは無意識に回避タンクの役割を果たし始めていた。

赤亜種はすぐに踏み込み直す。

ミナトは後方に下がりながら、ほんの一瞬だけ刃に触れ、衝撃を逃がして再度転がる。


「っ……!」


わずかな擦れでも左腕が痺れる。

それでもミナトは立ち上がる。その背後で、リアの詠唱が段階を進めていた。


「《第二層、“循環陣”起動……漂え、凝縮せよ……光の環……境界を縫合し、万象を繋ぎとめろ……“聖環拘束—フレームロック”!!》」


杖先の光球が脈動し、空気が震える。

赤亜種が一瞬リアのほうに視線を向けた。

そこに、ライアンが低く唸りながら赤亜種に踏み込み大剣を薙ぐ。


「まだ……行かせねぇ!!」


ライアンの一撃が赤亜種の横腹に食い込むが、それまでのライアンに蓄積されたダメージの影響で力がうまく入らず赤亜種の体勢を崩すだけにとどまる。

赤亜種はすぐさま肘を返してライアンの肩を打ち抜いた。


「が……っ!!」


骨の潰れる音。

ライアンは意識を繋ぎ止めながらなんとか数歩下がり、距離をとる。


赤亜種がライアンへ追撃をしようとしたところに、ミナトがすぐさま切りかかる。

浅くまた一筋に裂傷がついたが、すぐに風を切る音ともに反撃がくる。

赤亜種が横薙ぎを放ったのだ。

ミナトはしゃがみ込み、刃の真下を滑り抜ける。


ブオォッ!!


髪が持っていかれるほどの風圧。

ミナトは転がりながら距離を取った。

赤亜種の猛攻に2人は回復薬を使うタイミングがない。


(……っ、重すぎ……でも、避けられる……!時間は……稼げる!!)


赤亜種が吼え、次の標的をミナトに定める。


ライアンは血まみれのまま叫ぶ。


「ミナト! 跳べ!!」


赤亜種の踏み込みに合わせて、ミナトは横へ体を投げるように飛ぶ。

刃が地を抉り、石が跳ね、地面が裂ける。


ミナトは荒い息のまま叫ぶ。


「ライアン、こっちは引きつける!!」


ライアンが頷き、体勢を整え直す。


赤亜種はミナトへ襲い掛かり——


——その渦中。


リアの詠唱が最終段階へ突入した。


「《最終層“光還流—救命律”……いざ集え、全光素……展開域、極限解放ッ!!——この身を媒介に、汝らへ還れ!!》」


巨大な白光が花開くように膨張する。


赤亜種が動きを止めた。


ミナトとライアンも、リアの詠唱が完了したことに気づく。


「よし!!」

「間に合ったみたいだ!!」


リアが瞳を見開く。光源のような白が宿る。


「《——“解放リベレイト”!!》」


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