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第三章 LIVE: 廃屋心霊突撃

 オレらはいつも通りノリで動いてるだけだ。

 幽霊? いねーよ、そんなもん。

 でも“いない”って証明するのは、動画が早い。

 だってバズれば真理だろ?


 このネタを持ってきたのは、緒方真理子さん。美和さんの親友らしい。

「科学者の知り合いが、例の家に行って帰ってこなかった」なんて話を、真顔でしてきたんだ。

 マジで? って笑ったけど、泣きそうな顔してたから、オレらも空気を読んで「じゃあ配信で行くか」って。


 要は心霊スポット巡り。

 視聴者が盛り上がればそれで正解。

 今日もそう思ってた。


 【配信開始:2025/08/14 22:03|低遅延ON(約2秒)|8,000kbps/1080p60|AV1|ノイズゲート-42dB|リミッター-3dB|視聴 12,381】

(OBSの「現地ロケ」シーン。右上に同接、左下に寄付バー、画面下にテロップ「#生配信で廃屋」)

(ジンバル装着アクションカム+胸元ラベリア。バックアップにスマホRTMP)


REN(水城 蓮)「よっしゃー! 今日のスポットはここ! 公式で十二人ってヤバい数字出てる“例の家”〜!」

SHOTA(嶺岸 翔太)「サムネ盛りすぎ言うやつ、拡散だけは頼むわw 低遅延2秒だからコメ拾いマシマシで行きまーす」


【コメント欄(1x)】


www盛りすぎ

低遅延うれし

ついに来たか

今日も案件?(違います)


(玄関前。RENがStreamDeckで「照明ON」。補助ライト500lm→250lmに落とす。肌色補正OFF)

カメラゲインがわずかに跳ね、ノイズが一瞬だけ粒立つ。奥の暗部に白点。


REN「今さ、光ったよね? オーブ? てかホコリかなw」

SHOTA「どっちでもいいけど、右奥スクショの準備な〜」


【コメント欄(1.5xに加速)】


右奥白いの!

顔……見えた?

女?女?

ほこり乙w


(ジンバルが廊下に入る。床鳴りの低音をマイクのハイパスが切り落としきれず、波形が一瞬赤へ。Denoiserが自動で強くかかる)

(視聴 18,429)


REN「じゃ、恒例のルームツアー。玄関、廊下、そして……仏間!」

SHOTA「“仏間”ってワード、タイトル釣り力MAXなんだよなw」


(畳の腐朽で足場が揺れ、ジンバルのロールが一瞬崩れる。OBSの赤い「ドロップフレーム」警告が0→27→0)

懐中電灯の円外、白い布の端が、風の無い室内で「内側に」吸われるように揺れた。


【コメント欄(スロー→高速スクロール)】


今映った

白い服

奥に立ってる

逃げてマジで


REN「O・KU・GA・MI・E・N・A・I〜(歌う)」

SHOTA「いや見えてんだよw でも照明あげるとホコリだけ映る説」


(REN、StreamDeckで「サーモ」シーン切替。スマホサーマル(簡易FLIR)キャプチャをOBSにNDI転送。画面が偽色化)

部屋全体は青〜緑。しかし仏間の奥、四角の闇が真紅に飽和する。


SHOTA「……おい、赤い。これアプリのバグ?」

REN「センサ信頼度80%って出てるけど? まぁ“アツい展開”ってことでw」


【コメント欄】


奥やばい

赤すぎ

手のカタチ

指5本見える

それ掴まれてね??


(RENが端末をわずかに上下しても、赤は画面中心へ寄り、レンズ面を掴む位置で静止。疑似等温線が指の節に沿って折れ、輝度ピークが掌心に立つ。サチらない“高温”)

(視聴 27,003/トレンド3位)


REN「うわ、動かねぇ。これ固定物?」

SHOTA「固定ならカメラの動きでパララックス出るはずだが?(急に理系)」


【コメント欄】


パララックス警察わろ

今、声入ってない?

「あか……い」って

低遅延で聞こえた…


(音声プラグイン「スペクトログラム」オーバーレイをRENがうっかりON。2kHz帯に細い帯が立つ。ゲインメーターが-22dB→-18dB)

TTSはオフ。だが、女性の母音だけが薄膜のように波打つ。


REN「SE入れてないよ俺ら。BGMも止めてる」

SHOTA「ノイズだろ、帯域細すぎ——」

(言葉が切れる。仏間の暗部で、顔検出の黄色い枠が0.42→0.78→0.84で安定。オーバーレイ右上に小さく“FACE:1”)


【コメント欄(モデがスローモード入れるも追いつかず)】


顔出た

白目

口裂けてる

止めろよ…

もうやめろ


REN「フェイス反応してるの草……(笑いが引きつる)」

SHOTA「蓮、戻るか?」

REN「いや、ここで引いたら負け。——スポンサーにも怒られる(小声)」


(StreamDeck「広告読み」マクロが誤発火→すぐキャンセル。視聴者の罵倒が増える)

(視聴 34,556)


REN「じゃ、検証。ライト切って暗所性能チェック」

(補助ライトOFF。ISO自動で上がり、シャドウが“黒インキのように”詰まる。キーフレーム間隔2秒のうち、中間フレームに同一フレーム繰り返しが発生)

ジンバルのロールがさらに崩れ、天地感覚が一瞬失われる。

赤が、カメラの前面に厚みを持って迫る。掌。爪。ひとつ、またひとつ。


【コメント欄】


指、動いた

触ってる

触ってるって!!

逃げろ逃げろ逃げろ


(胸元ラベリアに低温域の風圧。RENが息を飲む音でリミッター点灯。-3dBで潰れる)

(バックアップのスマホRTMPが同時にフリーズ。保険の録画(MKV)に「書き込み失敗」)


SHOTA「足、冷てぇ……」

REN「(笑いに戻そうとする)“夏に最適の心霊体験”ってことで!」

(笑いは声帯の震えだけ。発音にならない)


【コメント欄(固定)】


後ろ

後ろ後ろ後ろ

奥の白い女

目が合った


(スペクトログラムの帯が二重に。/a/ と /i/ が交互にロックする。「あか……い」を形成)

(視聴 41,220|チャット遅延0.7s|ドロップフレーム 2.1%)


REN「……翔太、今、つかま——」

(ガン、と金属を叩くような音。カメラが床へ。画面が傾き、畳の繊維が巨大に映る。ジンバルは水平を保とうと暴れる)

仏間の奥から伸びた真っ赤な掌が、レンズ全面を覆い、表面温度が視覚的に伝わるほどの濃密さで貼り付く。

映像は赤と黒だけになる。

最後の1フレーム、白い顔がレンズの反射に“内側から”浮かぶ。

口角が裂け、眼球の白がノイズを押しのける。


【配信終了:22:47|自動アーカイブ失敗|クリップのみ一部生存】

(OBSログ:Encoder overlaod -> Recovered / Late frames detected / File finalize error)

(残ったクリップは、同じ掌のフレームが3回繰り返されるだけ。メタデータの撮影時刻が22:46:59→22:46:32→22:46:59と逆行している)


――


【コメント欄(配信終了後の残骸)】


切れた

これやばい

警察案件

クリップ保存した

スタジオに電話したけど出ない

本当に後ろに居た

真っ赤な手

あれは人の温度じゃない


(チャットは自動でアーカイブされるが、22:47以降の約1分が空白。モデレーターのログにも記録なし。視聴者の手元クリップには、必ず同じ「手」と「白い顔」が残り、別角度のはずの画面でも一致する)


(翌朝、チャンネルのトップに「昨晩のライブは技術的問題によりアーカイブされませんでした」の自動投稿。二人からの更新はない)


 配信が突然、真っ赤な手に覆われて途切れたとき、私はただ硬直していた。

 モニターには「アーカイブは利用できません」の文字が浮かぶ。

 それ以上の説明はどこにもなかった。


 数分後、電話が鳴った。緒方真理子からだった。

 受話器越しに聞こえる声は、泣き笑いのように掠れている。


「……美和、見てたよね。あの二人……帰ってこない」


 私は言葉を探したが、喉がからからに乾いて何も出なかった。

 横で聞いていた由佳が、震える声で問う。

「……どうして……直樹の時も、今回も……どうして誰も止められないの」


 真理子は沈黙し、それから嗚咽を押し殺すように言った。

「止めたよ。でも、あの子たち、笑ってたの。配信だって盛り上がってた。……私も、つい一緒に笑って……」


 由佳は両手で顔を覆い、こらえきれない声を漏らした。

 その姿を前に、私はただ唇を噛みしめるしかなかった。

 怒りも悲しみも、同じ場所で渦を巻いて、出口を見つけられない。


 野村を失い、今度は配信者の二人まで。

 “あの家”は、関わる者を確実に呑み込んでいく。

 次は誰なのか。

 そんな考えを打ち消そうとするたび、背後に赤い掌がじわりと張りつく錯覚が広がった。


 私はその夜、モニターを消せなかった。

 闇の中に白い顔が浮かぶのを、見逃すのが怖かったからだ。


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