世界の終わるその日に
カッチコッチと針が時を刻んでいる。夏の太陽が痛いほどに我が家にさし込んできた。
「今日って地球が滅びるんだっけ」
同居人の間の抜けた問い。いや、間が抜けてるというよりも、単純に事実を並べているだけであるのだけど。
だって、今まさに、太陽が刺しこんできているのだから。
「地球が滅びるだけで済むっけ」
「恒星がぶつかったら、太陽系も全滅するのあり得るんじゃない?」
正常性バイアスというのだろう。どう考えてもそんな場合じゃない危機的状況なのに、私たちは平気で会話をしている。
「でも、そもそも、太陽が刺しに来てるのに、溶けてない状況も変じゃん」
「それはそうだけど、どこから疑問に思えばいいかの段階で止まってるんだよね」
ちなみに。
太陽が刺しこんできているというのは、別に比喩じゃない。しっかり、包丁を握っているのだ。太陽のサイズからしても、しっかりとなにか分かるレベルの包丁。間違いなく、この地球よりもでかいんだろうなあ。
「あんた、二股とかした?」
「意外かもしれないけど、俺はあなた一筋なんですよね」
「いやでもほら、一夏の気の迷いとかあるし」
「相手が太陽ってスケールでかすぎない?」
それはそう。でも。
「ほら、スケールの大きい男の人のほうがモテる傾向にあるらしいから」
「銀河系を股にかけるレベルなら、異性だけじゃなくて同性からもモテるだろうなあ……」
「まあ、違うか。あんたモテないし」
「あなた限定でモテてるしぃー?べ、別に悔しくなんてないしぃー!」
でもこの場合って、太陽は性別的には女の人ということになるのだろうか。大体、神話とかだと男の人が割り当てられがちなイメージ…………いや、本邦の太陽の神様は女神様のイメージがあるな。つまり、女の人で間違いないということか。
いやさすがに違うか。そうなると。
「無機物に取られた……!」
「どっちかつうと有機物じゃねえかな」
カチコチと時計の針がうるさい。ジリリリリリと目覚ましがなった。
こんな時間になんでだ。
「昼寝から覚める時間かなあ」
「あー。そっか」
目覚まし時計は、午後4時を指していた。たしかに、ぼちぼち夕飯の買い物とかに出かけることを考えたら、いい感じの時間かもしれない。
まあ、そうだよね。こんなの現実なはずがない。まあ、だからきっと夢なんだろう。
そう気づいたからか、私の意識はどんどん浮上して。
ぱっちりと目が覚めた。
「うーん、太陽がメール送ってきたんだけどさ」
「なんて?」
from太陽
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さよなら
「やっぱり、浮気?」
「むしろどうやってするのさ」
世界は無事に滅んだ。