第一話【輪廻転生】
緑豊かな広大な大地と雲一つない青空、背の低い草木ばかりでとにかく見晴らしがいい。丘には一本の大樹が深々と根ざしその樹冠から木漏れ日が降り注がせる。そんな心地のいい景色、そんな木の下──。
「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!?」
全身の筋肉を引きちぎられるような強烈な痛みを感じ、自分でも驚く程大きな声を上げて飛び起きる。
「なッ……なんだ???……あれ?痛く……ない?」
突然の出来事に混乱しながら周囲を確認するが原因らしきものは見当たらない。
先程の激痛もまるで嘘だったかのよう跡形もなく引いていた。
まだ意識がぼんやりとしている、俺は直前まで何をしていたのだろうか。
・・・
瀬尾鷹臣、それが彼の名前だ、都会の高校に通う18歳の少し残念な少年である。
幼いころいくつもの稽古事に通わせてもらったが、周りと比べ才能がなく長く続かなかった。
運動も勉強も平均の範疇を出ることがなく自信が持てるものが何もなかった、両親を含め周りの人間はそんなこと一切気にしていなかったが誰よりも彼自身が気にしていた。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、それが彼の目指すところだった。
彼はナルシストなのだ。
運動ができるのはカッコいい、頭がいいのはカッコいい、ならそうなるしかないでしょと意気込んでいたが思うような結果は得られなかった。
ルックスの方はそれなりに功を奏していた、彼の容姿を褒める人間も存在していた。
ただ彼自身がその結果を気に入りすぎていた、街中で窓の反射に自分が映れば前髪を整え満足気に微笑む、そんな調子で生活しているものだから不気味がられルックスではなく奇行で目立っていた。
彼の自身へのこだわりは結果として身を滅ぼすことになった。街中に刃物を持った不審者が現れたとき、彼はそこに立ち向かったのだ。
刃物を向けられた一般人を救いたいと思ったわけではない、ただ勇敢に立ち向かう自分がカッコいいのだはないかという気持ちだけで立ち向かったのだ。
結局不審者を倒すこともできず腹部を刃物で突き刺され、役に立ったのかもよくわからないうちに死んでしまった。
腹部から血が流れ体が冷たくなっていくのを感じながら彼は「今のはまじかっこよかったな」などとそんな事を考えていた。
・・・
曖昧だった記憶が連鎖的に思い出されていく。
「そうだ俺は死んだ筈、ということはここは天国?まあ確かにいい事したもんな……いやこれは!まさかッ!!」
死後に見知らぬの場所で目を覚ます──。
俺はこの展開を知っている。
「間違いない!異世界転生だーッ!!」