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~セージュの場合1~

「セージュ様!お待ちください!」

待てと言われて待つ人なんているだろうか。

急いではいるが、走ると怒られるので、早足で移動している。

この技を磨いて10数年、今では乳母であるリンジーに追いつかれることはない。

「ディアナお姉様!」

私は待ちに待っていたお姉様の姿が玄関に見えて、声を掛けた。いや、喜声を上げた。

「セージュ、ただいま」

お姉様は階段を駆け降りる私に向かって、少しだけ笑ったようないつもの顔で、声をくださった。

「ご無事のお帰り、お待ちしておりました!今回の遠征では、魔物に会いましたか?」

階段を降り切って息を切らせたままお姉様の前に立って、多分キラキラした目をしていただろう私は、お姉様の言葉を待った。

お姉様は先ほどの顔のままじっと私を見て、そのまま私にとってじれったい時間が流れた。

少しして、リンジーが追いついてきたところで、お姉様は私ではなく、リンジーに向かって言った。

「リンジー、セージュの勉強の進捗はどう?」

私の質問には答えてくれず、お姉様はリンジーに私が知られたくない質問をした。

息を整えてから、リンジーは深々と頭を下げて、帰還を喜ぶ。

「ディアナ様、お帰りなさいませ。ご無事のお帰り、良うございました」

そう言って、一呼吸おいてから頭を上げ、お姉様に向かって、

「武術は騎士団合格レベルとの事ですが、語学と国語と魔法学は及第点、算術歴史は壊滅的と聞いております」

オブラートにも包まず報告した。私は唇を尖らせる。

「壊滅的とまでは言わなくても良いんじゃない?」

算術は四則演算はできるし、歴史は魔物が絡むところなら完璧なんだから。

「そう、ありがとう」

お姉様はそう言うと、今度は私に向かって言った。

「初代皇王様のお名前と、初代様と同じ名前の皇王様は何人いたかしら?」

お姉様は偶にこうやって問題を出して、答えられないと質問に答えてくださらない。

私は一生懸命脳内を検索して、答えを探す。

「んーと、えー、初代様のお名前はコウキ、同じ名前の皇王様は、お父様を含めて・・・10人です?」

1000年以上の歴史を持つこの国の皇王様の全員の名前なんて覚えていない。

ただ、何名かは同じ名前だし、初代様の名前は何回も出てくるし、何といっても憧れの人なのでしっかり覚えている。

でも出てきた人数はきちんと覚えていない。多分、このくらいだったと思うけど。

「初代様の名前はさすがにわかるのね」

少しだけ笑みを深めて、褒めてくれた。

「でも、皇王様の人数は間違っているわ。お茶の時間までに復習していらっしゃい」

私の頭にポンッと手を置き、お姉様はそのまま自室に向かってしまわれた。

「む~」

お茶の時間まで1時間。

その間、お姉様とお話をして過ごそうと思っていたのに、突如勉強の時間にされてしまった。

今日の授業は午前中だけだったのに。

「セージュ様。図書室へ参りますか?それともお部屋でお勉強なさいます?」

リンジーにそう聞かれ、迷わず図書室へ行くことにする。

自分の部屋じゃ、歴史書を開いた瞬間に眠くなるわ。

私にとって、少し緊張をはらんだ空気の図書室の方が、勉強には適している。

それに、少し事前学習をさせてもらえるかもしれないし。

私とリンジーは、お姉様が向かった先とは逆方向にある、図書室へ向かった。




久しぶりに訪れる図書室は、いつもと変わらず静かな部屋だった。

中には老司書が1人、静かにカウンターに座っている。

「おや、セージュ様。何かお探しの本でもございましたか?」

好々爺のような笑顔で迎え入れてくれた彼が、怒ると悪魔の面のように恐ろしい顔になることを私は知っている。

なぜ知ったのかは察してほしい。

「お姉様が帰られたの。歴代の皇王様のお名前が載っている本を見たいのだけど」

そう言うと、彼はしっかり頷き、そして少し意地悪な笑顔になった。

「それはそれは。歴代の皇王様のお名前をお聞きなら、ついでに各皇王様が何をなさったのかも見ておかれると良いですな」

・・・こんな感じで、お姉様が聞きそうなことを先回りして教えてくれるのだ。

お姉様と手を組んで、私に勉強をさせようとしているのではないかと常々思っている。

「では、両方が簡潔にわかる本を出してちょうだい」

ここの図書室は、司書にこういう本が欲しいと伝えると、最適な本を探して渡してくれるので便利だ。

もちろん自分で探しても良いのだが、欲しい本が決まっていて、時間がない今回は司書様様だ。

なお、他の図書室や図書館では自分で探さなければならない。

面倒と思う様になってしまったので、基本的にここを使うようになった。

「こちらの本をどうぞ」

渡された本は『トルティア皇国の歴史』というタイトルで、タイトルから想像するより、大分薄い本だ。

おそらく、勉強を始めたばかりの子供が読むような本なのだろう。私にぴったりの本だ。

「ありがとう」

本をもって窓際に向かう。

図書室の中にある本を読むスペースは6人掛けのテーブルとイスのセット1組と、2人掛けテーブルのセットが2組置いてある。

2人掛けテーブルに座ると、さっそく本を開く。

まずはコウキという名前の人数を数えなければ。

「・・・」

50人ほどの名前を追いかけ、その結果『コウキ』という名の皇帝は、お父様を含めて9人だったことを確認した。

「惜しかったなー」

ポソッとつぶやき、次に各皇帝の最大の功績について確認していく。

初代コウキ皇帝は建国、2代目コウキは南の森に出た巨大魔物を討伐した、3代目コウキは・・・というように、今までちゃんと覚えて来なかったことを学び直す。

だって、魔物の話を聞きたいんだもん!

私は魔物に遭遇したことはない。

でも、魔物はこの世界に実在して、冒険者や騎士団が討伐する。

そういう人が引退して、武勇伝を本にするということは良くある話だ。

そしてそういう本は、得てして誇張された内容であることも理解している。

図鑑で見た魔物が、実際にどのようにやってきて、どのように討伐されるのか。

特に元冒険者が書いた本はいつでもドキドキワクワクする。

そう、私は魔物が好きだ。冒険が好きだ。

将来は冒険者になりたいとすら思っている。

だから、体術や剣術などの武術はしっかり学ぶし、体力作りも怠らない。

冒険の途中で、任務の途中で、志半ばで倒れる冒険者や騎士がいる事も知っている。

それでも尚、冒険者に憧れる。

初代皇王様は元冒険者で、異世界人だと伝わっている。

異世界から飛ばされてきた御仁で、たった1年で、トルティア皇国の土台となる国を作り上げた。

私は異世界人ではないが、初代様の血を少しでも継いでいるはずなので、この身体には異世界の血が流れている。冒険者の血が流れている。

物心がついてから、ずっとそう思って来たので、成人したら冒険者になるものだと思っていた。

6歳で初めて講師が付いたとき、その講師から将来なりたいものを聞かれた。

迷わず「冒険者!」と言ったからか、その日からお姉様の私に対する態度が大きく変わった。

まず最初に気づいたのは、抱っこをしてくれなくなったことだった。

母親と離れて住み、ディアナお姉様とリンジーだけが心許せる人だったのに「もう抱っこはしない」と言われ、突き放された気がした。

それから、勉強をするように、と顔を合わせるたびに言われ、お姉様とのふれあいも減り、幼心に一人ぼっちは寂しいと感じた。

他にも色々あり、お姉様と接する機会も減っていった。

それでも、お姉様のことは大好きだったけれど。

そして2年後、お姉様は成人したと同時に突然騎士になった。

それ以降はほとんど宮にいなくなったけれど、活躍は良く耳にした。

あっという間に官位も少佐となり、偶に領地派遣の隊長として随行し、時に魔物と戦うこともあるそうだ。

私はその時の話を聞くのが好きで、領地派遣任務が終わって帰ってくると、毎回魔物の話を聞きたがった。

そして、毎回先ほどの応酬になる。

お姉様が騎士になった頃は、なぜ騎士になったのかという事ばかり聞いていたが、当たり障りのない回答しか聞けなかった。

その内、魔物の話の方が楽しくて、その話はしなくなった。

私がこの宮を出る前に、騎士になった理由を聞き出せると良いなと思う。

「セージュ様。そろそろお茶の時間です」

リンジーが声を掛けてくれたので、さっと本を閉じ、立ち上がる。

今日は天気が良いからサンルームでお姉様とお茶会かしら。

そう思いながら、図書室の出口へと向かう。

「本、ありがとう」

司書へ本を返し、リンジーに付いて行く。

お姉様とお茶会なんて、何ヶ月ぶりかしら。




予想通り、サンルームに入ると、お姉様はすでに着席されていた。

「お待たせいたしました」

少し慌ててテーブルへ向かい、優雅に見えるようにゆっくりカーテシーをした。

先ほどと同じく、少しだけ笑ったような顔で私を見たお姉様は、ゆっくりと頷いてくださった。

「マナーはきちんと学んでいるようね」

騎士団に入団されてから着なくなったドレスの代わりに、第1礼服である黒の騎士服に身を包んだお姉様はそういった後、スッと表情を消して、先ほどの問いをもう一度繰り返した。

「初代皇王様のお名前と、初代様と同じ名前の皇王様は何人いたかしら?」

今度は自信を持って答えられる。

「初代様はコウキ様、同じ名前の皇王様はお父様を含めて9人です」

「では、3代目コウキ様の功績は何だったかしら?」

来た・・・!

ありがとう司書さん!!

「マルティア国の発見です」

マルティア国は、我がトルティア皇国と西の海を挟んだお隣りの島国だ。

更にその西には大陸があるが、そちらからの輸入品はすべてマルティア国を介してやってくる。

逆に、輸出品もマルティア国から送られていく。

800年程前に、国家事業として船を出して発見した島国で、それから国として独り立ちできるように我が国が手助けし、今現在に至るまで兄弟国として親交がある。

3代目コウキ様の末の妹、マーテル様が島に渡った際に有力者と恋に落ち、そのまま嫁いでしまったため、3代目コウキ様が拗ねたという逸話もあるが、国名はマーテル様とトルティア皇国からとってマルティアと付けられたことには複雑な顔をされたそうだ。

「そうね。合格よ」

少し笑みを深めた顔で、お姉様は合格をくださった。

「じゃあ・・・!」

「今回はフォレークという蛇の魔物に会ったわ」

魔物との邂逅と、その討伐について話してくださった。

森の捕食者と呼ばれる蛇の魔物は音もなく木の上から獲物を狙う。

森の中では前後左右や足元だけでなく、頭上も気にしなければならない。

夜も火を焚けば魔物や魔虫を呼ぶため最低限の明かりを魔法で灯し、食事も固い黒パン、水といった物を食べる。

牛や鳥の乾燥肉を食べる事もあるが、においがあるため、森や山の中ではある程度の視界が取れる場所でない限りは食べられない。

音も立てず、暗い視界の中、見張り以外はなるべくテントから出ないように過ごす中、異変を感じたのは見張りの兵士ではなく、テントの中にいたお姉様だったそうだ。

「虫の音が突然止んだの」

静かにしていても、木々のざわめきだけでなく、虫や動物、鳥などの声はかすかにでもするものらしい。

「すぐにテントから出て、警戒を告げたわ」

見張りの兵は一瞬の後、すぐに対応したらしい。

その後、木々の間から出てきた蛇を倒して、素材と肉以外を焼いて地面に埋めて、朝まで引き続き警戒をしながら過ごす。

「今回の大物はフォレークだけだったけれど、スライムやフォーンラビット、ゴブリン、コボルトはそこら中にいたわね」

浅い森にも姿を見せる弱い魔物はどこにでもいる。

「今回も討伐はしなかったのですよね?」

多過ぎれば間引きするが、そうでない場合は襲われない限り、冒険者の仕事を奪うことになるので騎士団は手を出さない。

そういうものだそうだ。

「今回は魔物使いがいたから、彼らが何匹か仲間にしていたわ」

「テイマー!」

魔物使いと呼ばれる職種がある。一般的にはテイマーと言うことが多いが、騎士団では魔物使いと呼ぶ。

魔物を仲間にし、行動を共にし、魔獣を斃す。仲間にすることをテイムと言う。

同族だろうと、敵意を向けられればすべて敵、という習性の魔物だからこそ、人間と共に魔物を狩ることができる。

仲間にした魔物とと意思疎通ができる者もいるということだが、ほとんどのテイマーはそんなことはできない。

人間が魔物の意思を読み解こうと思えば、出来なくもないらしいが、面倒なのでやらないらしい。

人間が命令すればその通りに動くのだから、それで良いと思うテイマーが多いということだ。

また、もともと魔物だからか、テイムした魔物を道具のように使い捨てるテイマーも多い。

・・・仲間と友達は違うということだろうか。

テイムをするにはテイム対象の魔物より自分が強いことを示さなければならないため、強い魔獣をテイムするには自分も強くならなければならない。

なので、テイマーは騎士団に入ることも多い。ほとんどは冒険者になるが。

極稀に、魔物自身が気に入ったテイマーに付きまとうこともあるらしい。

私はまだ、テイマーに会ったことはないが、憧れの職種でもある。

「スライムやコボルトを連れている騎士はいるけれど、他の種は見たことないわね」

「ゴブリンを連れ歩かないのはわかりますが、フォーンラビットもいないんですか?」

兎の魔物は図鑑ではかわいかったのに。

「角が厄介なのよ。ぶつかれば大けがを負うこともあるから」

なるほど。角は身体の2倍位の長さだってことだから、角込みだと5、6歳の子供の身長くらいある。

・・・飛び掛かられて、間違ってお腹に穴が開いたら大惨事だ。

その後も、遠征のお話を聞いて、夕食の時間まで過ごした。



トルティア皇国第4王女セージュ。

今年18歳になる、今の私の役割である。

初投稿です。

なんとなく初めてみました。

のんびり投稿していきます。

読んでいただければ幸いです。

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